ゆぎお | ナノ



封印されたもの


※古代変
※遊戯&アテム双子設定


牢屋とは罪人を閉じ込める為ではないのか。
盗賊、殺人鬼、墓荒らし、不法入国者、反対勢力……なら"彼"はドコに属する者?

"彼"を初めて見たのは子供の時だった。
煌びやかなエジプトの王宮。その一角の探さないと見つけられないような、石像の影に隠れた階段のそのまた奥。蝋燭の火だけが頼りの、古びた螺旋階段を下った先にある、洞窟を切り取ったような空間。牢獄というよりは、隔離された空間を更に檻で隔てたような作りの牢屋に"彼"はいた。

同じくらいの年齢、同じ顔、優しそうな紫の目。いつも宙をぼんやり見つめる彼の横顔が痛々しかった。
痛めつけられたような傷はない。酷い仕打ちは受けていないようなのに放心している様が逆に痛々しい。マナとかくれんぼをしている時に偶然見つけてしまったために、他の者に聞こうに聞けなかった。

その日から皆の目を盗んで"彼"に会いに行った。最初は遠くから眺めていたが、いつも彼はぼんやりしていた。
勇気を出して話しかけた時、"彼"は目を見開いた。そして何故か「よかった」と呟き力なく笑った。
名前、何故ここにいるのと知りたいことは山ほどあったが、何も答えてはくれなかった。ただただ微笑んで頭を撫でてくれるだけ。

「辛いよね、そうだよね」と他人の心配ばかり。寧ろアテムはそのままその台詞を彼に返してやりたかったが、声にならなかった。

王子だったアテムは、王に成長した。そして今日も彼に会いに行く。今日は特別な物を持って。




「相棒。」

初めて出会ってから、もう十年にはなるだろうか。未だに知らない少年の名前だが、気にならなくなったのはいつからだろう。勝手につけたあだなで呼びかけると、優しい笑顔で迎えてくれた。
食事には口つけていない。また見ないうちに痩せた気がする。自然とアテムの眉が下がった。

「食べてないじゃないか。どうしたんだ?」

「食べたくないだけ。」

ぶっきらぼうに答えて膝を抱えてうずくまる少年に、アテムは眉を下げる。彼は時を経るごとにオーラが年齢の割に落ち着き冷たいものを帯びるようになっていった。まるで全て拒絶するように。
しかしアテムには冷たくあたらない。いつも快く迎えてくれる。

「ちゃんと食べないとダメだぜ。」

「キミは優しいね。国のことで大変なのにボクのことも気にしてくれるなんて。」

「心配だからな。だって…」

口を開いて慌てて紡ぐ。続きを促すように微笑まれるがアテムは顔を赤くしながら口を閉ざした。

「好き」と言えば、どう言われるだろうか。
拒絶されるだろうか。
"友人として"と勘違いされるだろうか。
ただ"好き"と返されるだろうか。
高嶺の花であるのは王であるアテムの方だと世間の者は思うだろう。しかしアテムにとっては、この不思議な少年のほうが遠い存在のように思えて仕方なかった。
それに男同士である。
男色の者も勿論いるが、彼がそうとは限らない。それにアテムも男色趣味ではない…はずなのだ。打ち明けられるはずかない。

「今日は何しにきたの?」

「え、あぁ…これだ。」

マントの裏から取り出したのはこの特別房の鍵。数年以上も閉じこめられている罪なき彼を自由の身にしたい、その一心で後先考えずに内緒で持ち出したのだ。
シモンに少年のことを聞いたこともあるが、黙るだけだった。しかし重罪人ではないということだけは白状させた。ならば自分の勘を信じたい、彼を信じたい。
しかし彼は首を横に振った。

「キミは優しい。けどダメだよ。」

聞こえたのは喜びではなく柔らかい拒否の言葉。柔らかく笑ってはいるが、まるで泣いているかのような冷たさがある。驚くアテムの手に彼の暖かい手が重なり鍵を握らせる。

「キミに迷惑がかかる。だからボクはここにいなきゃいけない。」

優しい言葉の裏にある重い音色。予想だにしなかった答えに硬直してしまい、理由を聞くのが遅れてしまった。だが聞いたところで彼は答えてくれないだろう。寂しそうな笑顔を最後に彼は背を向けた。

「王様。早く戻らないと皆心配するよ。」

「王様じゃなくて名前で呼んでほしいぜ…。」

「そうはいかないよ。さあ"王様"。」

「皆寝てるから心配なんてされないさ。」

まるで壁をつくるような言い方だ。それが寂しい。
うるさいお目付役がいない、皆が寝ている夜選んだのだ。気付くはずがない。だが彼は背中を押す。そんなことは知っているのだろう、ただの理由付けなのだろう。

「ここは罪人の空間。綺麗な君はここに相応しくない。」

「そういう相棒もこんな所似つかわしいだろう。」

「ボクは産まれたことが罪なのさ。産まれたときから光とは無縁なの。」

腕を強く引かれて鉄格子に当たる寸前、唇に柔らかい感触が触れた。
キスをされている。
理解したときに唇と唇が離れた。思わず顔が真っ赤になり、恥ずかしさに顔を覆い背けていた。

「君は僕と違って綺麗。そんな君は罪人の支配欲をかき立てるんだ。」

流し目の面妖さにドキリと心臓が高鳴る。単にからかわれただけのキスかもしれない。だがアテムには未だまともに喋れないほど衝撃的な出来事だった。"好き"という感情を抱いた相手からの口付けだ、意識してしまうのも無理はない。
訪れる沈黙。気まずい空気を破ったのはアテムのほうだった。
檻に近づき手を伸ばし、少年の手を取り未だ赤い顔で真っ直ぐに見つめ返した。

「相棒。オレは相棒の事が好きだ。だから話してほしい。お前のこと、その罪のことについて……それに、今の行為の意味、を。」

少年は口を開かない。しかしアテムの手を払いのけることもない。ただ沈黙と時間だけが流れていく。
時間が経ったことで冷静になり、恥ずかしいことを言った、とアテムが真っ赤になり俯いてしまう。
しばらくして少年は静かに口を開いた。

「ユウギ、だよ。だからその相棒って呼び方止めて。」

名を教えてくれたのは嬉しいが増えた壁。親しい意味を込めて相棒と呼んでいたが、否定をされるとは思わなかった。聞きたいことはまだまだあったが、ユウギが真剣な目で帰ることを促したので、今日は戻ることにした。


*


自分には兄弟がいたらしい。
"いたらしい"という表現はオカシイが、アテムは知らないから仕方がないだろう。
聞かされたのは世話係のマハードから、いや聞かされたというより言わせた、のほうが正しい。元々アテムに甘いマハードだから、しぶとく訪ねると簡単に折れてくれた。

聞くところにこうだ。
実は次世代の王子は双子だった。しかし双子の王子というのは歴史でも、次期の王権争いといったり決して縁起のよくないものだと聞く。だから政権を担うシモンも対策を練った。
後から産まれた子の処理を。
殺してしまうのは気が病む、ならばせめてもの救いとして牢へ。しかし最善の待遇を、と。

「それがあのユウギなのか?」

「左様です。」

言葉は出なかった。もしかしたら自分がその立場になっていたのかもしれない、そんなことが頭をグルグル回り続ける。
混乱状態のファラオをたしなめ、マハードは申し訳なさそうに謝った。このことは秘密だったらしい。それはそうだろう。このようなことは本人に言うものじゃあない。しかし真実を知れたことにアテムは礼を言った。

(ユウギを縛り付けるものはオレ?)

こればかりはいくら詫びても何も変わらない。産まれる日が早かったか遅かったかは運命にしか左右されないこと。しかし元々人に対して遠慮が多いアテムだ、罪悪感に捕らわれるもの無理はない。

しかしユウギから返ってきた答えは予想外なものだった。
このことをアテムが話すと、涼しい顔で「そんなこと考えたことなかった」という一言。
ユウギは全てを知っていたのだ。唖然としているとユウギがクスクス笑った。

「君が悪いわけじゃない。人目につかない部屋で過ごせって言ってくれる神官もいるさ。民や世間にボクの存在が明くる身にならなきゃいいんだもの。」

座りながら足をパタパタと動かすユウギは年相応な子供だ。いつもの大人びた雰囲気はなく無邪気である。

「でもボクには出来ない。」

「何故?」

『ユウギを縛り付けているのは自分である。』そんな思いに縛られたアテムは反省している子供の顔をし続ける。ユウギは安心させるように微笑みながら、腕を鉄格子の間から通してアテムの頬に愛おしそうに触れた。

「そうじゃない、君は悪くない。自由になれば君を汚してしまうんだ。」

「オレ…?」

「君を狙うのは私利私欲に走ったジジイ共や変態神官だけじゃない。」

細められたら目の迫力に怯むアテムの腕を引き寄せるユウギ。だが決して怪我はしないように力加減をし、鉄格子の手前ぶつかることはない。

「アテムは鈍感だなぁ。」

「?」

「もっと警戒心持たないと、処女が奪われちゃうよ。」

「オレは男だぜ。」

「やだなぁ。物の例えだよ、例え。」

からかわれているとわかり頬を膨らませるアテム。しかし真剣な紫の目に見つめられて顔が熱くなる。

「君はここに相応しくない。さぁ帰りなよ。」

ユウギはアテムの鼻を軽くつつくと振り返るよう指で示す。渋るアテムに構わず背中を押すユウギに戸惑いながらも前に進んでしまう足。牢を振り返るが優しい表情。
何故そこまで牢の中に拘るのだろうか。アテムの事を避けているのだろうか。汚すとはなんなのだろうか。疑問に押しつぶされそうになり、迷子の子供の顔をするアテムにユウギが驚いた。

「ユウギ。オレを避けているのか?なら何故、その、キスを…?」

赤い顔で呟かれた言葉にユウギは微笑ましくなり笑う。バカにされたとアテムは顔をしかめて拗ねてしまった。その誤解に気づいたユウギは、アテムに手招きをして呼び寄せた。
そして耳にただ一言、「君が好き」と。
真っ赤になって頭の中がぐちゃぐちゃ状態のアテムにユウギは笑う。いかにも脈のある反応には笑顔が隠せない。ひたすら「好き?オレを?」と繰り返すアテムを、現実に返すため口付けをおとせば倒れるのではというほど赤く熱くなった。鈍感で純粋な彼もやっとわかってくれた。

「だから自由になればボクは君を襲いにいくよ。今まで我慢したんだから文句は言わせない。」

意味を理解しアテムは完全に硬直してしまった。予想通りの反応にユウギは笑う。

「君はボクのこと好き?いつも意味ありげな視線を感じたけど。」

無言は肯定である。
俯いてしまったアテムを苛めるのはもうやめて寝よう、と伸びた時だった。服の裾をいきなり掴まれて、振り返れば上目遣いで戸惑いがちに名前を呼ぶアテム。ふと開いた片手から光ものを見つけた。鍵である。ここまで言っても王は牢から出ることを望んでくれた。
恥ずかしそうに鍵を握らせ、俯くアテム。ユウギら王としてのアテムの顔を見たことがない。しかしこんなに汐らしいアテムの顔を見られるのはユウギだけではないだろうか。自惚れてしまう。

「たったまには兄弟水入らずの時間もいいだろ!」

「それは一緒に寝ようっていうお誘いかな?」

意味は通じていないが、に純粋に頷いたことに嬉しくもある。何も言わずに手渡された鍵を受け取ったユウギは、扉が開けてアテムに抱きついた。
嬉しそうに抱きついてくるアテムの可愛らしいこと。この国の王とは思えないいじらしさだ。

「今日は寝かさないよ?」

「え?」

「んもう。やっぱり意味をわかってなかった。」

目を瞬かせて首を傾げるアテムの額に口付け1つ。手を取り2人でこっそりとアテムの部屋まで向かう。
始まりは全て可愛いの"弟"と共に。

+END

++++
ユウギが兄でアテムが弟。兄が国を次ぐ予定だったけどユウギがアテムのほうが才能があると判断したユウギが庇って幽閉される。昔だったことでアテムは覚えてなかったが、ユウギは覚えていた…という感じです。

10.2.16
修正15.4.2



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