女王様の受難
※女体化
サテライトでは綺麗な女は珍しい。
汚く治安の悪い場所には女が住みにくいこともあるし、飢えた野郎はのさぼっており危険だ。この地に生きる女は孤高で勝ち気な者か、男好きだ。女などいれば、両者のタイプでもお構いなしに男が集まってくる。
このジャックは、前者にあたる。
「遊星。」
作業机で依頼の機械を直している遊星を呼ぶ芯の強い女の声。
遊星は慣れた様子で軽く返事をしつつ、パーツから目を離さないまま立ち上がり上着を羽織る。顔を見なくとも、女となれば1人しかいない故に相手はわかっている。
やっと振り返れば、白い肌に珍しい金の髪した女が一人。不機嫌そうに腕組みをして遊星を見下している。
彼女、ジャックはサテライトで珍しい女の1人だ。しかもジャックの場合は美しさも気位の高さも、強さも別格という上玉であった。シティに行ってもこんな美女はいないだろう。そのことは本人も自負している上に、仲間も納得している。
そんな彼女が遊星を呼ぶ理由は大体2つ。用事があるか、外出するかである。
名前だけ呼びつけて用件を言わない時は外出だ。『女の1人歩きは危ない』と訴え続けた結果、一番強い遊星を護衛として指名する、ということで納得させた賜物である。
「遊星。」
「すぐに行く。」
怒気孕んだ声に、急いでジャケットを羽織りながら早足で玄関に向かう。と、珍しく部屋のドアの外で待っているらしい。
扉を開ければ不機嫌に壁にもたれたジャックがいた。
相変わらず胸が苦しいのか、シャツのボタンを外している。Dはあるだろうか、豊満で白い胸の谷間が惜しみなく晒されて目のやり場が困る。「遅いぞ」と短い不満を漏らしコートを翻す。車庫へ向かう当の本人は全く気にしていないようで、遊星は困り顔を浮かべた。
*
遊星お手製のDホイールに乗りついたのは人気のない寂れた港。
一通り買い物を終えた女王様の言いつけは、『人気のない港に行きたい』だった。こんな何もないところに、果たして何の用件があるのだろうか。遊星には想像もつかない。
とりあえずは愛車が錆びないよう海から離し、真っ直ぐ海を見つめているジャックの元へ近寄る。
その背には、威圧感とどことなく感じる寂しさ。流し目で振り返るジャックからは儚さすら感じられた。
「貴様は、オレのことを"特別な"目で見ないのだな。」
呟かれた言葉に遊星は近づく足を止める。長い金髪をなびかせながら振り向くジャックは酷く面妖だった。誘うような紫の瞳に困惑しながらも遊星は目線を逸らす。
「…仲間だからな。」
苦し紛れの答えにジャックの眉がピクリと反応した。紫の瞳が細められ遊星を真っ直ぐ射抜く。これは機嫌を損ねた時の彼女の癖だ。
何の感情も抱かないと言えば嘘になる。淡白だが遊星も男だ、美女を見れば興奮だってする。
しかしそれ以上にジャックを大切な仲間だと思っている。しかしその気持ちは届かず、ジャックは深いため息をついた。
「遊星。」
一歩も動けない遊星をジャックが呼ぶ。真剣な面もちでゆっくり近付いてきたと思えば、目の前で足を止めた。背はヒールを含めジャックの方が少し高い為に、見下ろされる形になってしまう。
「目を閉じろ。」
命令なのは彼女の性分故に致し方ない。そして逆らえば機嫌を損ねるのも知っている。言われるがままに目を閉じた遊星に、笑みを浮かべむしゃくしゃした気持ちをぶつけるように唇を重ねた。
驚き目を見開く遊星。思わず腰が引けた遊星を逃がすまいと、腰を抱き食らいつく。徐々にその抵抗もなくなり、諦めたのか開き直ったのか積極的に舌まで絡めてきた。
最初はジャックに主導権があった。しかし奪われた瞬間からは翻弄されるしか出来ず、酸素を求めて遊星の肩を必死で叩いた。が、逆に腰を抱かれて深く唇が重なる。息継ぎなど到底出来なくなり、涙まで溢れてきたところでやっと解放された。
「ばっ…バカか貴様っ!いきなりがっつくやつがいるか!」
「すまない。」
足腰が立たず涙目で睨み返すジャックに、無表情で反省する遊星。伊達に遊星と幼なじみをしているわけじゃない。表情は変わらなくとも、仕草や声の音色で感情は手に取るようにわかる。
(あぁまどろっこしい)
ここまで"ヒント"をやったのに、天然なのかワザとなのかわからぬ遊星の鈍さに苛立ちを隠せない。何も仕掛けてこない遊星を睨み上げると、先ほどの行為へ対する怒りととられて短い謝罪が帰ってきた。
そして唇を拭う無骨な親指。これには驚きが隠せなかった。
「…柔らかい。」
ガラになくうっとりとした声音で、唇を撫でる遊星の指からは性的なものを感じる。それだけで身体まで熱くなり腰に力なんて入らなくなる。
翻弄されっぱなしも癪だ。仕返しだ、とチロチロと舌を這わせてやれば、驚き逃げる指と赤い顔。してやったりと強気な笑みを向けると、珍しい柔らかな微笑みが返ってきた。
「珍しいな、甘えるなんて。」
「ゆう、せ…」
「しかし無防備だと危ない。」
あぁ、この天然鈍感男をどうしてくれよう!
胸元を隠すようにジャケットをかけてくれた優しさには感動するが、今は憎さが勝っている。
この雰囲気から誰がこんな流れになると予想出来るだろう?おそらく誰も予測できまい。
このままキスをして、人気のない所で結ばれる。これがジャックの予定だった。
しかし誘いまでして興奮されるならまだしも、心配されるなんて予想外だ。呆気にとられていると、遊星の興味は港の潮風にむいてしまった。
目を細めて気分よさげな遊星の後ろで、握り拳で耐えていたジャックは遂に痺れをきらせた。彼女は短気なのである。
「貴様!これだけしてやってもわからないのか!?」
ゆっくり振り返った彼を思い切りひっぱたきたい衝動に駆られたが、悔しいながら腰が痺れて動けない。へたり込んだ情けない姿だが、精一杯遊星を睨みつけると驚いた目がこちらを見つめてくる。
「人気のないところまできたのだ!」
怒りで滲んだ瞳に気圧され怯む遊星だったが、彼女の側でしゃがみこんだ。
「ジャック。」
「フン。貴様もオレで抜いたこともあるだろう。」
自慢気に鼻を鳴らして遊星を見つめると、仄かに赤らんだ。図星である。
更に気をよくして、再び目を瞑るジャックだが、唇が触れ合う気配は一向にない。
代わりに膝に重みが加わった。何故膝に?と下へ目をやれば、遊星の独特な蟹頭が俯せに横たわっていた。チクチクするのが痛い。
「おい遊星…」
返事はない。
もうすでに夢の世界へ旅立ったようだ。遊星の寝息にジャックの深いため息が重なった。
(どうしてこうなる…)
また遊星が徹夜をしていたことを今頃思い出し、間の悪さを恨む。
もはや何回目かわからぬ作戦失敗に、気が重くなるがこの程度で諦めるジャックではない。キスを挨拶代わりにするまでには発展した。あとは体を重ねて想いを伝えるだけだ。甘い生活もそう遠くはないだろう。
ジャックは未来を思い、微笑みを浮かべて仰向けにした遊星の額に口づけた。
+END
++++
遊星にアピールを続ける誘い受けっぽいジャックと、ジャックがムラムラしつつ鈍感さですべてを流す遊星。
にょた化は書いていてすごく楽しいです…
10.5.30
修正15.8.1
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