敵わない
※ジャック視点
※サテライト時代パロ
恋愛対象として見始めたのは、いつ頃だろうか。
男同士だとか、義兄弟であるとか、そんなものはどうでもよかった。
ただ彼を独り占めしたい。そんな感情が沸き上がった時、居ても立ってもいられなかった。
「遊星。」
Dホイールを整備していた遊星が、名残惜しそうにしつつも振り返る。鼻の頭についた油についつい笑いそうになるのを堪えた。
遊星とは腐れ縁だ。最早義兄弟とも言える。昔から彼を見てきたが、無口で無愛想で何を考えているかもわからない。 それでも仲間思いで、優しい彼に惹かれる者は少なくない。
ジャックも魅せられた1人である。
「ジャック。目ぼしいものはあったか?」
「目ぼしいものはなかったが、目障りな男には会った。」
その言葉に、仲間を大切にする遊星は案の定眉を寄せた。
「...何かされたか。」
「何もないわ。ただ、『愛人になれ』と言われた。失礼な奴だ。」
見目麗しいのは、自覚しているし仲間も頷いている。しかし、男が男にそういう目で見られていい気がするわけがない。乱暴に鼻を鳴らすと、遊星も顰めっ面をしながら作業に戻る。
「...お前は人気者だな。」
遊星は何気なく言ったのかもしれない。しかしジャックを上機嫌にさせるには十分だった。遊星が嫉妬している、その事実がジャックの心を高揚させる。"今遊星の心を満たしているのは自分だ"と。
「当然だ。ジャック・アトラスをなめるな。」
「...しかし有名なのも考えものだ。外出は控えろ。」
「ずっとここにいたのでは、退屈で仕方あるまい。」
会話はしてはいるが、体と意識はDホイールに向いているのに腹が立つ。しかしいくら顔をしかめたところで背中を向けている遊星からは見えまい。
「貴様が相手をするなら考えないこともない。」
ぶっきらぼうに言ってやると、少し手が止まった。してやったりと笑うジャックを尻目に、再び作業の手が動き出す。それが面白くないと遊星の脇まで大股に近寄ると、やっと顔をあげた。
「なんだ。」
「そこは嘘でも了承しろ。」
「...最近仕事が多くて急がしいんだ。」
「ならば夜だけでもいい。」
遠回しな誘惑だと遊星では気づくわけもない。そう気付いた時には舌打ちが漏れていた。
目をぱちくりさせる遊星。意外にも長い間彼の視線を独り占めでいたのは満足ではあるが。
「...夜なら暇だ。」
「なんだと?」
天然の言葉だとは、わかっているつもりだったが、思わず期待の声が上がってしまった。顔を赤くして否定するよう激しく首を振るが、誰が指摘するわけでもない。
「...今晩にでも部屋にくるか?」
思わぬ言葉に、今度こそ不自然なまでに顔が赤くなる。奴はただ友人を招くだけ、とそれ以上でもそれ以下でもないだろう。しかしジャックには問題だった。
何度この天然に心乱されただろう、振り回されただろう。思い出すのも煩わしい。 天性の魅力とジゴロには、一生かかっても敵わないと思う。
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【星ジャ語り】それぞれが、はじめて相手を恋愛対象として意識したときについて語りましょう。
前にも似たようなものを書いた気がしてます
15.7.14
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