ゆぎお | ナノ



好きキス2


※アストラル乙女表現
※キャラ崩壊はいつも通りですね





『ゆーまぁ、』

感情のあまり揺らがないアストラルに似合わない、甘えた声が聞こえる。
いつも文字通り上から目線で、見下してくる彼ではない。真逆の汐らしい態度と上目遣いに心臓の鼓動が早くなる。

『ゆーま、私は君が…スキだ…』

よく見たら、瞳は潤み頬も赤い。肌が白い分赤い頬が綺麗によく映える。ふっくらと厚みのある唇はきっと弾力があり、柔らかいだろう。
切ない表情で手を伸ばしてくると、ゆっくりと目を閉じる。

『ゆーま…キス、したい…』

大きな金の目が閉じられたことで、誇張される長い睫。そしてうっすらと開かれた唇は、刺激的すぎる誘惑。緊張で心臓はうるさく鳴り響き、冷や汗まで出てきた。
信頼し体を預けてくる細い肩を掴むと、アストラルも緊張しているのだろうか。体が少し跳ねた。

『ゆーま?』

なかなか望むものが来ず、不安そうに大きな金の目が恐る恐る開く。
まるで、その言葉しか知らないように何度も繰り返される名前。頭まで響く、低い魅惑の声に全てが支配される。

『ゆうまは、私のことをどう思っているんだ?』

アストラルは男だ。
別世界の存在だ。
純粋で何も知らないんだ。

手を出してはいけないことはわかっている。だがこのままなかったことにするのは据え膳の恥ではないだろうか。だがしかし。

(俺は…)

『私は…スキだ…』

仄かにピンクに染まった、アストラルの純粋な笑顔に目を奪われてしまった。


.

..

...



「うわぁ!」

遊馬が汗だくで飛び起きたのは、深夜ニ時。丑三つ時と言われる時間だ。眠らないと明日に支障が出てしまうのだが、目が冴えて眠れやしない。

先ほどの夢のせいだ。
アストラルに色っぽく可愛らしくキスのおねだりを迫られる、夢。

(大体、アストラルが可愛いって何だよ……あいつは偉そうで、無神経で、上から目線で、宇宙人で、男で)

月明かりと共に夜風が窓から入り、髪を揺らす。ふと下半身が寒く感じて見下ろし、ギョッとした。ズボンが濡れているではないか。

「わわわっ!まさか…」

ズボンのゴムを千切らんばかりに引き、中を覗くととパンツまで濡れており、遊馬は蒼白とした。

「嘘だろ…」

匂いもない、どう見ても夢精だ。男同士である相棒で抜いたとなると、罪悪感が募ってくる。どんな顔で会えばいいだろう、皇の鍵を見つめた時に気がついた。横になにかいる。こちらをジッと見つめている。

『君は寝ている時も騒がしいな。』

「ひぎゃあ!!」

横から聞こえてきた低い声。夢と違い、甘さも感情も籠もっていない声に少し安心した。

「おまっ!おま、え!いつから…っ」

『君が眠ってからだ。』

「ぜ、ぜぜぜぜ全部見てたのかよ!」

『ああ。』

穴があったら入りたい。再び夢を思い出して顔色を変え背けた遊馬に、アストラルは怪訝な顔をするのは仕方がない。

『遊馬。何故私を見ないんだ。』

「こっちを見るなぁぁぁぁぁぁ!!」

『「夜は静かに」。「人の話を聞くときは、目を見て」。明里も言っているだろう。』

「だって夢が……」

『夢?』

「あ、いや!な、なんでもない!」

慌てて話題を変えると、アストラルが淡々と語り始めた。

『夢。人間が思い描く未来。それは日々形を変えて、自らの理想へと変貌するもの。』

「その夢じゃなくて…寝て見るものだよ。」

『脳を整理する行為の事か。』

「整理、整理か…」

『で。何の夢を見た?』

逃げることを許さない、と言わんばかりの詰め寄りに驚いた。しかし言う義理もなければ、言うわけにもいかない。遊馬も意地になり、口を尖らせアストラルから目を逸らす。

「関係ねーだろ!」

『関係ある。そのズボンの染みはなんだ。』

言われたことを理解し、遊馬は真っ赤になった。アストラルの視線は真っ直ぐ遊馬のズボンの染みだけを見つめている。
おねしょではなければ、よだれでもない。だがそう訴えても自分の首を絞めるだけだ。この状況を打破するだけの知識が、遊馬にはなかった。

「これは……その…あれだ、プールに入る夢を見て…」

『今は冬だが。』

「冬でも見るときがあるの!!」

無理矢理だとは思うが、こう答えるした出来なかった。納得できない顔をしているアストラルだが、押し切ってしまえば勝ちだ。いつもそうしてきたのだから。

「そういうアストラルは何してたんだよ!いつも夜は鍵の中にいるだろ!」

せめて話を逸らそうと、アストラルへと話題を変えてやると、やはり不機嫌そうな顔。しかし律儀な彼は、遊馬の問に答えるため口を開いた。

『遊馬と一緒にいたかった。それだけだが。』

「ほら、おまぇぇぇえ?」

予想外の答えに遊馬は素っ頓狂な声を上げた。昨日の『恋人になりたい』という発言は冗談ではなかったのか。何故そこまで"恋人"という存在に拘るのか。
気になるところではあるが、訪ねると墓穴を掘ってしまうのが遊馬だ。真っ赤になりアストラルの言葉を聞くしかない。

『"恋人"はいつも一緒なのだろう?』

「いや、そうじゃなくても俺たちずっと一緒だろ!?」

『しかし私たちは恋人ではない。』

「男同士は恋人にはなれないの!!」

『恋人の間には、"信頼"、"絆"、を含む"愛"という"特別な関係性"が存在する。私たちには"愛"だけが欠けている。』

「だから昨日……」

『男同士だと"愛"は生まれないものなのだろう。理解はした。』

今までの執着が嘘のように身を引くアストラルに、遊馬も拍子抜けだ。「あ、そう」と間の抜けた返事を返してしまった。アストラルが笑った。

『私たちの間に"愛"は生まれなくとも、同等な効果のものなら生めるかもしれない。』

『お前、男だろ…。』

『だが他の者とそのような関係になるのは、私には想像が出来ない。』

どこまで本気なのかわからない。それがまた遊馬の心をかき乱す。
アストラルの言うを遊馬は完全に理解出来ていないし、これだけ恋や愛だの言われれば、シュタルト崩壊も起こるというものだ。遊馬は顔色を変えながら混乱するばかり。

『昨日の"答え"も保留にしよう。君の脳を酷使してすまなかった。』

挑発なのか気遣いなのかわからぬ言葉にため息一つ、文句も言えずにとぼとぼとトイレへと向かう遊馬だった。

「あ。今から風呂場に行くから、先に寝てろよ!」

『風呂にも一緒に入った仲だろう。』

「今回のは…無限ループみたいな理由!見られたら死ぬの!」

『なんと…風呂場にはそんな隠れた効果があったのか…!』

濡れた下着を見つめ、遊馬は深いため息を
ついた。

+END

++++
哲学になって参りました

14.8.24



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