ゆぎお | ナノ



甘えたい年頃1

※ジャックショタ化
※ブルーノはいません




「な、なんだこれは!?」

朝から、子供の甲高い声が響いた。
起きたら突然だったのだ、別に何をしたわけでもないし、変な物を食べたわけでもない。しかし明らかな異常である。

混乱しながらも頬を叩いて、少し冷静になった。
自分はジャック=アトラス。デュエルキングの座にまで上り詰めたこともある。しかし今は遊星に敗れてキングの座を追われ、街の一角で昔なじみの遊星とクロウと共に暮らしている。
話を戻そう。朝っぱらから近所迷惑も省みずに叫んだ理由。それは"子供になってしまった"いう不思議な現象が起きたためだ。
非科学的で非現実的だ。しかしそう考えるしか部屋は見覚えのある、少し小汚い自室だ。、己だけ背が縮み声が高くなった現象を説明出来ない。

ペタペタと顔を触っても変わらないものは
変わらない。頬をつねったが、痛いから夢ではない。ただ小さく柔らかな肌の感触に顔が青ざめるのがわかる。

(落ち着け、落ち着くのだ!これは誰の仕業だ?赤い竜か?地縛神か!?いやそれとも…っ)

混乱していてはまともな答えなどでる筈がない。あれやこれやと思いつく限りの物を疑ってかかるが、真実などわかるわけもない。
このような状態で周囲に気を向けられるわけがない。ベッドへたりこんで一人考えに耽っていたため、ドアのノックには気づけなかった。

「さっきの子供の声は、ここからか…?ジャックー。」

声に気付いた時には遅かった。慌てて声の方向へと向くと、扉から顔だけ出しているクロウと目が合ったではないか。
気まずい、とても気まずい。
ジャックは硬直して動けないし、クロウは何が起きているのか、いや目の前にいるのが誰か理解出来ていない。口をあんぐりと開けるばかりだ。
そこで自分が醜態を晒していることに改めて気がついた。顔を赤く染めて布団を急いで被ると、これでもかと声を張り上げる。「後で行く、遊星には何も言うな」と。
「あぁ、」と心ここにあらずなクロウの返事にため息をついたが、一難去ってまた一難。

「クロウ、ジャック。さっきの子供の叫び声は一体…」

この家には3人しかいない。よってこの声は必然的に遊星のものとなる。
ジャックにとって一番見られたくない相手が遊星だ。時間稼ぎにしかならないが、無意識に布団を引き寄せて体に巻きつけて隠した。
顔色を赤く青く変え、この危機をどう乗り越えるかを考えてる隅でクロウが我に返り、部屋から出て扉を閉めた。外からは「気のせいだった。」と、必死な誤魔化しが聞こえる。
しばらくして遊星が折れた声がした。クロウに感謝しつつもジャックは安堵のため息をつく。しかし問題はこれからだ。この狭い空間で男3人で暮らしているのだ、いずれ遊星もバレてしまう。しかし遊星にはバレるわけにはいかない。最大のライバル、いや少なからず友情を超えた好意を抱いてしまった男に、知られたくないのである。
とにかく着替えよう。だが今の身長は龍亜たち双子に少し勝っている程度だ、元々背が高かった分合う服がない。今や情けないことに、胸元は大きく開きタンクトップはワンピースのようだ。ズボンなんて足に引っかかっているにすぎない。

(クロウならなんらかのツテか、上着くらいは借りれるだろう)

思い当たればすぐ実行。
ズボンの裾を上げてベルトを締める、上は仕方ないからタンクトップで我慢だ。周囲を警戒しながら静かにドアを開けて部屋を後にした。

挙動不審にクロウの部屋へ向かうが、気配はない。もしガレージにいるのなら、Dホイールの調節中であろう遊星と鉢合わせだ。そうなれば諦めるしかない。しかし遊星も見当たらない。2人共外出中か、と安堵と精神的疲労の溜め息をついた時だった。
突然の浮遊感、腰に回る人の体温。暖かい筈の腕は、今のジャックには悪寒しか感じさせない。

「この子供…どこから入ったんだ?」

ジャックからひゅっと息を飲む音がした。遊星は優しく抱き上げて向かい合わせにする。ジャックにそっくりなことに驚いた遊星に顔を真っ赤に染め、なんとか逃げようともがいてみる。しかし遊星は強い。子供の小さな抵抗を諸ともせず遊星は笑みを一層深くして髪を優しくすいてくる。しかしジャックは爪を立てて威嚇するのみ。何とかして、逃げ出さないといけない。

「服、ぶかぶかだな。貸してやろう。」

ジャックは押し黙った。
断りたかったが服が必要なのは事実である。断ろうに反応が遅れてしまった。そう迷っている間に抱え上げられ、遊星の部屋まで連れていかれてしまった。優しくベッドに下ろし、遊星は上機嫌にタンスを漁る。勿論持っている中で子供あうものはない。取りあえずは楽に着れるTシャツを取り出すと少年に合わせてみる。
その間ずっと不機嫌丸出しで睨まれるが、遊星は始終笑顔である。裾や袖に余りがあり膝までのスカートのようになっているが、先程よりマシである。

「しばらくこれで我慢してくれ。」

「フン。」

ムッツリはしているが、おとなしく着ている辺り気に入ったのだろう。少年が着ていた服を伸ばしながら様子を眺めていたが、これはジャックの服装ではないか。そりゃあ大きいはずだ。ではなく。
ジャックは遊星の手にある自らの服をみて目をむくばかり。「正体がバレた」と。

「お前…」

「いうな。なにもいうな…」

服と少年を見比べると、伏せられた紫の瞳。頬を赤く染めながら睫を小刻みに震わせ、唇を噛み締めている姿は屈辱と諦めか。遊星に肩を叩かれ、決意したように目をギュッと瞑った。

「ジャックと仲がいいのか。」

しかし聞こえてきたのは予想外の言葉だった。思わず間抜けな声が上がってしまう。

「は?」

「借りたんだろう。」

遊星の天然発言に、頭を抱えたくなった。ポカンと口を開けた間抜け面のジャックに対し、遊星は真面目である。気づかないのはありがたいが頭痛がしてきた。

「あいかわらず、こどもにはやさしいな。」

(俺には冷たいクセに)

「相変わらず?」

「なんでもない。」

鈍いクセに中途半端に鋭い。そんな遊星に腹が立ち、八つ当たりに足を思い切り踏んでやった。しかし遊星は子供の悪戯だと微笑むばかり。

(俺といても笑わないクセに)

胸の中でぼやくと段々悔しくなり、黙って部屋を後にしようとする。

(俺ばかり振り回される、俺ばかり意識している)

悔しい。悔しいのだ。
ドアノブに手をかけたと同時に、首に抱きついたもの。遊星の腕しかない。まさかの事に驚き心臓が大きく跳ねた。

「泣かないでくれ。」

遊星の珍しく弱々しい声に、申し訳ない気持ちになる。振り返ろうとしたが、思いの外抱きつく力が強い。

「ないてなんかいないっ!」

「しかし泣きそうだ。」

思わず振り払おうとしてしまった腕を掴まれ、遊星の無骨な指が目尻をなぞる。本当に泣いていたのか、遊星の指が少し濡れた気がした。ぼんやりと遊星の動きを眺めていると、徐々に顔が近付いてきた気がした。次の瞬間に目元を生暖かいものがなぞる。

(あぁ、舌か)

状況を冷静に理解した途端に、また顔が熱くなり咄嗟に顎を殴ってしまった。

赤くなったなった顎をさすりながら、遊星は作業机についていた。ジャックは怒り狂い、ベッドを我が物顔で占領している。
勿論ジャックが怒っているかは、先程のキザな涙の舐めとりである。しかし遊星は何故少年が怒っているのかわかっていない。首を傾げるばかりだ。

「そろそろ機嫌を直してくれ、……―――ところで、名前は?」

今頃どう呼べばいいか困ったようだ。椅子を回してジャックに向き直ってくる遊星にはもう溜め息すら枯れてしまった。

「…なのるひつようはない。」

子供らしからぬ返答に、遊星は苦笑いだ。しかしジャックは考えを改めることもなく、腕を組んでふんぞり返っている。名前を教えてくれることは望めないだろう。

「ならば"ジャック"と呼ばせてもらう。」

これは不意打ちだった。
本当は気づいているのではないのか。驚き遊星を見る、というより睨むという方が正しいジャック。やはりというか遊星は怯まない。

「ダメか?」

「そ、それはひとのなだろう?」

「ジャックはそんな細かいことを気にする男じゃないさ。」

「だが、しかし、」としばらくごねてはいたが、すぐに静かになった。照れているのか、顔を赤くしてもじもじし始めたジャックに、遊星は微笑ましいと笑う。

「しかし。そのジャックはどこに行ったんだ。」

遊星が呟けばジャックの肩が跳ねた。自分の事を言っているわけではない、今の自分は遊星ともジャックとも関係のない少年だ。そう自分に言い聞かせるが、心音が止まらない。
首を傾げながら真っ直ぐ見つめてくる遊星から逃げるように、視線を逸らした。

「"ジャック"?」

「オレは…ここにいるぞ。」

"ジャック"の方を見やると、小さな手が枕を抱きしめ顔を隠していた。多分顔は真っ赤だろう。
作業の手を止め正面から抱きしめれば、殴られてしまった。緩んだ枕の防御壁から覗いた肌はやはり赤かった。

「可愛い。」

「おとこにかわいいとかいうな。」

「子供には言うものだ。」

上機嫌になった遊星に「このロリコンが」とぼやき、顔を歪める。しかし純粋な行為は満更ではない。顔は赤いままだ。このまま抱きしめてしまおうと"ジャック"に手を伸ばしたところでクロウの大声が響いた。

「遊星!用事があったんじゃないのかー!?」

どうやら遊星はこれから用事らしい。しかし、珍しく不機嫌を露わにした遊星に思わず吹き出してしまった。少しでも長く一緒にいたいとだらだら身支度を整えていた遊星の動きが、上着を手にした瞬間に止まった。
どうしたのだろうか。一部始終を無言で眺めていたジャックが首を傾げると、肩に遊星が持っていたジャケットがかけられた。

「机のモノに触れなければ部屋で自由にしていくといい。」

2、3度頭を撫で、遊星は扉の向こうへと消えていった。遊星がいなくなるだけで、心にぽっかりと穴が開いたような気になる。やることもないために少し眠ろうと思っていると、ひかえめに扉を叩く音がした。返事を待たず不作法に扉を開けたのは勿論クロウである。




[ 1167/1295 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -