ゆぎお | ナノ



嫉妬心

※十代は体の成長が止まってる
※ダグナー編後
※遊星女体化
※遊星が乙女



「よう。」

またあの人がやってきた。
よく遊星を訪ねてくることから皆からは「仲がいい」と言われるが、実は遊星もこの人の事はあまり知らない。
確か名前は遊城十代。
精霊の力が宿り、本人曰く見た目より大分年上なんだそうだ。確かに時折大人びた顔をするし、大人の色気もある。しかしフラフラと宛のない旅をしているらしく、神出鬼没と子供らしい面も併せ持つ。せめて行き先だけでも伝えてほしいものだが、無駄だろう。

「相変わらずの機械が好きだな。手が油だからけだ。」

優しい声で油だらけの手を取り、自然に指を絡める。「ヌルヌルだな」と言いながらも、指は離さないし上機嫌。
こういう時には特にこの人のことがわからない。文句を言うなら離せばいいだろうに。

「遊星はよくこんなのを弄れるなぁ…俺にはさっぱりだぜ。」

「その分貴方は不思議なことを知っている。」

「精霊のことか?」

少しぶっきらぼうになってしまったのは仕方がない。精霊については、遊星にはわからないのだから。
見たときに悔しくなるのだ、龍可とこの人が仲良く話しているところを。別に子供に対して変な気を持つ人じゃないと知っているし、見た目と違って相当な歳なのも聞いている。しかし、盗られた気になってしまう。普段からもしょっちゅう会えるわけじゃないのに。

「遊星。まさか……妬いてる?」

「まさか。誰に?」

「龍可ちゃんだよ。別に俺はロリコンじゃないって、知ってるだろ?」

「知ってますよ。」

「膨れっ面な自覚はなしか。他人の話するとすぐこれだ。」

頬をプリンのようにつつかれ、イライラしてきた。大人びたところは好きだ。年上も嫌いじゃない。しかしなんでも見透かされて子供扱いされるのは嫌いだ。対等に扱われていない気がしてしまう。
手を止めて俯いたところで気を悪くしたとわかったらしい、小さく後悔の声と腕が後ろから回された。油が服につかないように気遣っているということは、声音の割には精神的余裕はありそうだ。

「機嫌直せって。」

耳元で囁くのは反則だと思う。
成人男性ほど低くはない十代の声。この声に慣れてしまった耳が、体が、勝手に反応してしまう。くすぐったさに身を捩ると、クスクス笑われた。「よかった、機嫌が治ったか」という確信犯。

「なぁ遊星。」

「はい。」

「綺麗な手だな。」

十代の興味は、また手へと戻ったらしい。手を取りまじまじと眺めるだけだが、片手になるのは困る。ぶっちゃけてしまえば作業の邪魔だ。

「…油まみれなのに?」

「そういうことじゃねぇよ。確かに荒れてはいるけど、細いし指長いし。」

ジャンクを漁っていた時もあるし、今も専ら機械を弄る仕事ばかりだ。細く器用な指ではあるが、ささ剥けや汚れが目立っている。

「何事も表面上だけじゃないだろ?」

「そう言う貴方だって。」

遊星の胸の前にある手を、逆に取って眺めてみる。少年独特の小さい手。しかし、旅の途中に出来たマメや傷跡が痛々しい。木にでも登ったか、はたまた崖でも這い上がったのか。手入れをしていない、欠けた爪からも旅の壮絶さが伺える。

「なんか……マジマジ見られたら恥ずかしいな。」

「それはオレもです。」

「遊星、"俺"って言うの止めろよ。女の子だろ。」

「一人称の問題じゃないでしょう?」

どちらともなく吹き出し、笑いあう。しばらく意味もなく笑っていたが、徐々に部屋に静寂が訪れた。

「女の子の格好したら絶対可愛いぞ。明日、いやそういう奴も昔いたし。」

「………」

「そう睨むなって。友達の話だよ。昔はユベルが特にうるさくて……あー、ユベル…」

いきなり話を切り、横を見ながら"何か"と話し始める十代。龍可と本人曰わく、彼についている"保護者"がお怒りになって出てきているらしい。どんな奴か聞けば「小姑みたいだ」とげんなりされたのを覚えている。
悔しいけど精霊は努力しても見れない。昔のこともよくわからない。

「あー…わかったわかった。今はこのままでいいって。だからしばらくは、な?……ふぅ。」

「終わりましたか?」

「あぁ…ユベルも妬いてるらしい。いやー俺ってモテるなー。」

十代は冗談っぽく笑うが、遊星は笑えない。実際彼はモテる。昔の話を少し聞いた時も、モヤモヤしたのを覚えている。
十代と会ったのは最近だ。最近出会い、親しくなった。だから、彼のことは又聞きでしかない。

どうして体の成長が止まったのか。
どうしてユベルと共にいるのか。
どうして旅をしているのか。
どうしてその道を選んだのか。

聞いてもはぐらかされたことばかりだ。それが悔しい。

(一番嫉妬しているのは、"この人"になのかもしれない)

「でも、ここまで胸の内を明かしたのは、お前だけだぜ、遊馬。」

ニッコリと、真っ直ぐこっちを見つめてくるのは反則だと思う。顔に熱が集まるのが鏡を見ずともわかる。

「…そうですか…」

「あれ、通じてない?」

顔が熱い。熱くては恥ずかしくて死にそうだ。
「答えなんて最初からわかってるくせに」と言いたいが、それでは意地悪な彼は納得しないだろう。更なる言葉を要求してくるのが安易に想像出来る。

「…」

「ん?」

「…目を瞑ってください。」

「りょーかい。」

優しく暖かい笑顔で返され安堵した。
これも恥ずかしいことだが、彼が嬉しそうならいい。

「遊星は可愛いな。」

頭を撫でられ、子供扱いされたと思いきや重なる唇。
十代は楽しそうに、楽しそうに笑っていた。

+END

++++
アンケートで入った『十遊♀』です
ユベルは「焦れったいから早く告白しなよ」とでも言っています。

10.11.7
修正15.1.8

[ 1255/1295 ]

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