ゆぎお | ナノ



天使の秘め事


※パラレル設定
※先天的女体化
※見た目は原作と同じでお願いします


『"No.96"。お前は今日から外へは出てはいけない。』

姿もしらない『創造主』の声にそう言われたあの日から、"アストラル"の影になることは決まっていた。


"No.96"に与えられたものは、大きな屋敷の中の6畳の狭い部屋。
他の部屋には、実体を持たない"似たような奴ら"ばかり。名前という名の番号を与えられ、神に任務を課せられた"アストラル"のために働く異形たち。
食住揃っているため、環境は悪くない。だがこの屋敷から勝手に出ることを許されないのは、まるで監禁された奴隷ではないか。

No.96は、1番"アストラル"に近い存在だった。選ばれた100の中、1人だけが"アストラル"としてナンバリングされた同志の力を支配し牛耳ることが出来る。
だが、アストラルになったのは、別の個体だった。白く、汚れを知らない、頭脳・心身共々天使として、優秀な個体。それが"アストラル"。


*


「No.96。お風呂に入るぞ。」

「…行ってらっしゃい。」

No.96は今日も寝ころび天井を眺めていた。
基本的、いつも暇だ。神に呼ばれて仕事に出たこともなければ、屋敷の中は白ばかりで娯楽もなにもない。気が狂いそうな生活の中、いつも変化をもたらすのはアストラルだった。

アストラルは、毎晩No.96の元へやってくる。疲れているのに部屋にきては、傍に腰を降ろす。No.96が返事をしなくても、外の世界の事を話してくれるし、髪を撫でてくれることもある。
最初は、見せ物小屋の客程度にしか思っていなかった。しかし、1人昔の悪夢に魘された日の夜、目を開けるとアストラルがずっと手を握っていたことを鮮明に覚えている。

そっけない返事のNo.96に、アストラルはマイペースである。腕を掴むと、ぐいぐいと引いて立つように促してくるのだ。

「一緒に入るんだ。」

「はあ!?嫌がらせか!当てつけか!?」

激しく暴れて抵抗を見せるNo.96だが、蹴りや拳を軽やかに避けアストラルは眉一つ動かさない。しかし、顔に手が掠めてしまい、No.96は体を強ばらせた。
アストラルに手を出せば、処分される。それは奴隷であるナンバーズたちの暗黙の了解。
アストラルは、「当たっていない」と優しい嘘をつき、No.96の傍らに座り込んだ。

「嫌がらせ?なんのことだ。ただ一緒に入りたいだけだが。」

「ふざけんな!!立派なものぶらさげておいて、何言ってやがる!!」

No.96の視線がさ迷っているのは、アストラルの胸。豊満な果実が2つ、たわわにぶら下がっているではないか。相反して、No.96には何もない。それでも性別上は女性なのだ。
視線に気づき、見比べるアストラル。悪気もなく首を傾げる姿が憎らしい。

「小さいのもステータスと聞くが。」

「好きで小さいんじゃねーよ!!……お前みたいに、大きく…なりたい…んだよ…」

ぐずるNo.96に、アストラルは目を見開いた。
いつも気丈で豪気なNo.96の弱々しい姿。背筋に這い上がってくるものを感じ、アストラルはNo.96を抱き寄せた。

「No.96…」

白く分厚い唇を薄く開き、No.96に迫るアストラル。細い指で肩を掴むと体が小さく跳ねたが、意外にも抵抗がない。しかし我に返ると、激しく抵抗し始めた。

「い、いや……だっ」

アストラルの顎を強く押し、顔を背けて抵抗する。寂しそうに顔を離すと、No.96を真っ直ぐ見つめ首を傾げた。

「オレが処分されるだろ……」

「私からなら大丈夫だ。」

「天使は純潔じゃないといけないんだろ!お前も大変なことになるぞ!」

「私の心配を、してくれるのか?」

「お、お前がいなきゃ…オレたちも処分されちまう…から…」

小さくなる語尾に、アストラルはクスクス笑う。下手くそな嘘に、そういうことにしておく、と一旦離れた。

「本当のところはどうなんだ。」

髪を優しく撫でながら、諭すようにNo.96に問いかける。

「私を恨んでいるから接触を拒むのか。」

押し黙り、視線を泳がせるNo.96だが、アストラルを上目遣いで見上げると、口を開いた。

「お前のこと…勘違いするぞ?」

「勘違い?」

「オレのこと、好きだって、な。」

「すればいい。」

「そんなこと、有り得ないだろ!」

「本当のことだ。」

唇に指を這わせると、真っ赤になる顔。
重ねようと唇を寄せると、抵抗は見せないが体が硬直して動かない。

「う、嘘だ……」

「本当だ。」

「オレは…お前より、全てにおいて…負けてて…」

「そんなことない。」

「皆、オレのこと……"劣化品"だって……」

その言葉をもみ消すように、アストラルはNo.96の唇を塞いだ。
No.96は、"アストラル"になるべく造られた。しかし、"アストラル"にはなれなかった。心という"渥"が、強すぎたのだ。No.96は、様々な強い感情がある。
憤怒、嫉妬、高慢、怠惰、強欲、色欲、暴食。
これらは"アストラル"には許されないものだった。
しかし『キスがしたい』なんて、アストラルにも、感情が生まれたというのだろうか。キスをされ真っ赤になるNo.96に、満足そうに微笑んだ。

「初めてお前を見た日。お前は鎖に繋がれ、声も上げず虚ろに涙を流していた。」

「見て、たのか。」

劣化品として番号を付けられたら日、酷く暴れた。「オレは劣化品じゃない、アイツに劣るわけがない」と喚き散らすと、創造主はNo.96を鎖で四肢を縛り監禁されたのだ。

「創造主であるエリファスは、お前のことを『失敗作』だと処分しようとした。」

初めに上がった案は処分。他のナンバーズに悪影響が出る前に、早々から芽を摘んでおくという乱暴な処置だ。
No.96は"アストラル"候補だったために、他と違い体を持つ。その体を排除し、他のナンバーズたちのように保管しようとしたところ。

「私が止めたのだ。お前が綺麗だったから。」

流れる涙を指の腹で拭いながら、アストラルは慈愛に溢れた笑みを浮かべる。

「私は涙なんて知らない。初めて見たのが、お前の涙だ。」

「綺麗なんて言うなっ!オレは、オレは…っ」

「"ブラックミスト"。」

個体名ではなく、名前を呼ばれNo.96は目を見開いた。頭を撫でる手に、背中に回る腕に、一度引いた涙が押し寄せてくる。

「お前の、せいだ…っ!処分されたらお前を恨んでやるっっ!!」

「させない。ミストは私が守る。」

「…アストラル。」

「なんだ?」

「……、好き、なんだ。お前、が。」

再び重なった唇は、角度を変えて相手を深く求め合う。
啄むだけのキスに、深く舌を絡め合う濃厚なキス。ちゅっちゅとリップ音と共に求め合う2人だったが、No.96の胸に手が這わされたことで終わりを告げた。

「このっ変態が!!」

「すまない。小さくても胸は柔らかいのかと気になった。」

「小さいって言うんじゃねえ!!」

真っ赤になり胸を覆うNo.96だが、アストラルは反省の色はない。それどころか首を傾げてNo.96の胸を見つめている。

「お前、本当に天使か!?欲まみれじゃねーか!」

「すまない。」

「謝る気ねーだろ!!」

「ミストと一緒にお風呂に入ることにも、下心がある。」

「な…っ」

「お前のスベスベした肌を素手で堪能しながら、隅々まで洗ってやろうかと考えていた。」

悪気もなくストレートな言葉に、No.96は顔から火が出るかと思った。視線を泳がせると、両手を掴まれ指が絡み合う。俗に言う恋人繋ぎに、No.96は困ったように眉を下げた。

「ミストが嫌なら、いい。」

「嫌に決まってるだろ!!」

「なら、いい。」

見るからにしょげるアストラルに、No.96は困惑する。乱暴に扱ってくれてもいいのに。全てのナンバーズは"アストラルの所有物"なのに、何故逃げ道を作り選択肢を与えるのか。
それは、アストラルがミストを対等に見ている証拠。同じ"生き物"として見ている証拠なのだ。

「…その、少しだけなら、いい。」

「本当かっ!」

「ただし、胸と…デリケートな所は触るな。」

「デリケート?」

「…言わせんな。」

恥じらうミストに、アストラルは再びキスを落とした。

+END

++++
なんだろう、この壮大な設定…
『胸で負けてるのを気にして、僻むミストが可愛く見えてキスをせがむアス96』を書くつもりでした、どうしてこうなるのでしょう。

14.12.3



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