ゆぎお | ナノ



器用で不器用

野菜を切ろうとすれば、逃げられた。捕まえて、逃げられて、捕まえて。さっきからそんなやりとりの繰り返しの繰り返しである。
「捕まえて見せろ」と嘲る野菜を直接刻もうとすれば、後ろから悲鳴が聞こえる。ああ、危うく指を切り落とすところだったか。「何事も挑発に乗ってはいけない」と思い知らされたところで自棄になって包丁を乱暴に置いた。
簡単に見えて、実際やってみると難しいことなんてたくさんある。
母親の手伝いをしない遊戯が何故料理をしているか。それは今日は母がいないことに他ならない。
夕食を作る人が欠ければ必然的に"誰か"が代わりをしなければいけない。その"誰か"が自分に回ってきた、簡単明白な答えである。
じいちゃんはぎっくり腰という嘘くさい理由で店番をしている。そうなると消去策で残された遊戯が家事をするはめになったのだ。

『相棒。これはなんだ』
「これ? えっとピーラーだよ?」
『ピーラー?』
「野菜の皮を剥く時に使うもの。包丁は難しいからね」

「包丁?」と首を傾げているのは見なかったことにして、カレーのレシピに視線を戻す。

『相棒、手付きが危ないぜ』
「料理なんてやらないから仕方ないでしょ! そう言うならもう一人のボクがやってみてよ!!」

皮を剥き終わった野菜達をまな板に置き去りにして、強制交代で安全圏へと逃げる。とっさに引きずり出されたユウギは、我に返ると同時に遊戯を非難する。
文句は言っても無理矢理交代しないあたり彼の優しさであろう。

「俺も料理なんてしたことないぜ」
『大丈夫大丈夫。君はボクより器用だし』

おだてられその気になったのか、ユウギは包丁を握った。
初めは明らかな初心者の手付きが怖かったが、遊戯が昔のうろ覚え知識を教えただけですぐ形になった。怪我の心配はなくなったが、複雑である。

「相棒、次どうすればいいんだ?」
『煮込む…いや肉と野菜を炒めるだったかな』

やっていくうちに楽しくなってきたのか、生き生きした目で指示を待っているユウギ。デュエルの時とは違う、遊びを楽しむ子供のような彼に、頬が自然と緩むのがわかる。

『あ、火には気をつけてね』
「わかったぜ」

なんだか弟が出来たような感じだ。友達に言えば皆が皆逆だ、と言うだろう。しかし意外や意外、デュエルなどゲーム以外は出来ないユウギである。
器用な彼だからあっという間に上達してしまうところが遊戯の嫉妬を生んでしまう。
そこで1つ閃いた。

『そうだ。ちょっとエプロンつけてみよう』
「エプロン? いつもママさんがつけてるヤツか?」
『そうそう』

「料理中につけるのは常識だ」と言ってしまえば、鵜呑みにしてしまう純粋さが時に不安になる。知らない人に言われたら信じないようだし、遊戯にとっては都合のいい。
下心をうまく隠してニッコリと笑い、邪魔に思い脱いだエプロンを指差す。母がいつも使っている、世間に出しても恥ずかしくもなんともないデザインだ。決してイヤらしいものじゃない、と彼の名誉のためにも念を押しておこう。

「相棒、これでいいんだよな?」
『いいよいいよ!! すごく可愛い』
「可愛い? それは相棒が着たら、じゃないのか」
『自分がそんなの着ても萌も何もないよ』
「も、萌?」

興奮気味な相棒にユウギは首を傾げるばかり。
恋人が変わった服を着ているのにはときめくものであろう。草食動物のような顔をしているが遊戯もガッツポーズしたい衝動を抑えていた。
これで指切ったりしたらなめたりも、いや別体だったらよかったのに。心の中でぼやくけば現実になるわけでもなく。ただフィルターによって普通よりも可愛く見えるユウギがいるだけだ。

「遊戯、遊戯や〜! 出来たかのー?」
『もー、今更になってちゃっかり顔出すんだから』

どうしようとうろたえていたユウギを下がらせ、「まだだよ」と負けじと声を張り上げて答える。ため息の中に混じって聞こえた笑いに、遊戯が顔を上げるとユウギが心底楽しそうに笑っていた。

「なにさ?」
『やっぱり相棒のほうが似合ってる』
「あまり嬉しくないなぁ」
『俺の気持ちもわかったか?』

悪戯な顔で言われ、これは仕返しだと知る。膨れっ面を見て謝りはしてくれたが、未だに笑ってためから本気ではない。

『それより相棒、夕飯はいいのか?』
「あぁ、早くしないとね」
『代わるぜ』
「お願いしようかな」

代わってほしいという心の言葉を察して交代すろば、笑顔で礼を言われた。どうやらすっかりハマってしまったようだ。
今度お菓子作りでも進めてみようか。彼ならまた興味を示し、喜んでしてくれそうだ。しかも、ユウギに似合う気がするのは末期だろうか。

「相棒?」
『ん? なに?』
「次どうすればいいんだ?」
『あぁ次はね』

少々歪な材料を見て微笑みながら、無邪気な王の魂に一層好意を寄せる遊戯だった。
余談だが、器用と料理上手は直結するはずはなく。手際のよさとそぐわぬ料理に頭を抱えたのは言うまでもない。初めての料理とうろ覚えレシピに、味を期待してはいけない。

+END

++++
ちゃんと妄想が出来てないと、何が書きたいかわからんものです

10.6.12
修正16.10.3

[ 1155/1295 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -