ゆぎお | ナノ



2人だけの約束事

※女体化
※古代編捏造




王を初めて見たのは王宮に忍び込んだ日で。
その日は珍しくドジをして、兵士に見つかり、適当に部屋に逃げこんだのがきっかけだった。
そう、本当に適当だったのに。不確定なものを信じない質だった筈なのに初めて運命というものを信じてしまった。

部屋の中は真っ暗で、頼りになるのは大きな窓から差す、月明かりのみ。誰もいないであろうことにひとまず息をつき、外に聞き耳を立てる。
「いたか?」「いや、いない」「どこに行ったコソドロめ」兵士の愚痴も足音も徐々に通り過ぎていった。

これでもう安心だろう。しかし念のため気配を探ろうとした瞬間、衣擦れの音がして咄嗟に飛びすさった。

「そこにいるのは誰だ…?」

寝惚けてはいるが、はっきりとした声が部屋に響く。答えてやる義理はない。素早く小刀を抜いて相手の位置を急いで、部屋に視線を巡らせる。まだ目は慣れていないとはいえ、なんとなく場所は掴めた。窓のそばに豪華なベッドがあったのだ。

「…?」

向こうもこちらの様子を探ろうと、首を動かす気配を感じる。声を出しては、音を立ててはいけない。
声のした方をだけを睨み付け、気を集中させるうちに相手が見えてきた。
独特な髪型、額に輝く金。頭を起こし眠そうに目を擦りながら、枕元に手を伸ばしている。その先にあるのは短剣ではないか。
それで気が付いた。妙に高級な物があるし良質なベッド、服。もしかしてここは王子の部屋ではないだろうか。
実際に王子を見たのは初めてで噂しかしらない。何となくの、野生の感というものだ。この部屋は明らかに他とは違うと肌で感じる。
目が慣れてきたのか、キョロキョロと周囲を見回し警戒を始める王子。簡単に見つかるわけにはいかない、と精霊獣の力で闇に紛れて気配も消してみせた。そんなバクラに気付けはずもなく、首を傾げながらも深く追求もしない王子に、呆れて声も出ない。

(お気楽な跡継ぎだぜ、近くに命を狙う奴がいるってのによ)

小刀でその細い首をかっ切ってやろうと近づいた時、違和感を覚えた。服の上からでもわかる小さな胸の膨らみ。年頃なのち小さな肩。これは、もしかして。

「こ、コイツ女―!?」

誰かから男だと聞いたわけではない。しかし"王子"だと言われれば"男"だと解釈するのが普通だ。なら目の前に横たわる少女の胸はの膨らみはどう説明すればいいのだろうか、答えなんて明白である。
"女"ということもあり興味が沸いた。布団の下からは少々露出が多い寝間着が現れる。
胸も申しわけ程度で覆われているだけで余計目立つというものだ。
今まで幾度となく女を抱いてきたが、その中でも一番綺麗な体をしている、それが素直な感想だ。王族だから当たり前だが。
睫毛も長く唇も赤くみずみずしい。丸くなって寝ている姿はまだまだ子供だが、磨けば輝く原石だ。身に付けている金も美しいのがまた癪に触る。

(俺が、盗賊風情が王女を抱いてやればどうなるかな?)

まずは扉に戻り鍵をかける。誰も入れない空間を作ると舌なめずりをしながら寝台によじ登った。ベッドが揺れ睫毛がふるふると動いた、と思えば紅い目が現れた。それでもまだ寝ぼけて、何が起こってるかわかってない顔。抵抗をしないならちょうどいい、と手首を拘束すればやっと目が覚めたようだ。

「誰、だ?」

ショボショボした目がまた誘われてる気になる。

「おはようございます王女様」

耳元で囁いてやれば体が震え、まだ眠っていたいと目を閉じる。年端もいかないとは聞いたが、同い年だろうか。しかしバクラと違い"経験"もないだろう、断言できる。
ああ、ゾクゾクする。早く乱れた姿が見たい。
体を覆う布に手をかければ、流石に何が起きてるかわかっただろう。体が強張り困惑した瞳が不安に揺れる。恐怖を体現した表情にまた興奮した。

「な、なんだお前ッ!」

今までのこんなに早く反応した奴はいなかった。足をばたつかせ、体をよじり、叫びをあげる。今兵士を呼ばれるのはまずい。慌てて口を押さえ込み耳をそばだたせるが、大丈夫のようだ。
今回はバレなかったが以上騒がれるとまずい。どうしようかと思案に耽った一瞬で、剣を掴み抜き放つ。威嚇するように睨み付けられた赤い目は剣の先に似ている。鼻っ柱に突きつけられ、しかし目には涙が光っている。

「誰だ? 賊か?」

見た目に似合わぬ低い声。さっきの可愛らしい声が嘘のような豹変をして質問を繰り返す。

「俺を狙って来たのか?」

答えなくても、次から次へと質問が投げかけられる。

「国が目的か? 権力か? それとも身体か?」

震えだした手から今は虚勢だとよくわかる。微かに涙が浮かぶ様に、怖くて怖くて仕方ないのだろう。王女を手込めにして、王の座を狙う者など、五万といるのだから。

「早々に立ち去れ。今なら命まではとらない。」

血を這うように言われ、取り敢えず大人しく言うことを聞くフリをした。わざとらしく手を上げると、剣を突きつけながら胸を押さえながら窓まで誘導される。

(強そうに見えても女か)

窓から飛び降るフリをしながら、姿を闇で隠す。フェイントは慣れている。王女が覗き込む。既に姿がないことを不思議に思ってはいるようだが、肩の力を抜いた。

(甘いな、俺様はまだ下にいるぜ?)

精霊の手に引き上げられ音もなく窓に手をかける、と聞こえてきたのはすすり泣く声だった。
予想通りに王女は寝台の上で膝を抱え泣いていた。表情はわからないが、苦しんではいる。
怖かった、ただそれだけだろう。
前にどんな酷い目に合わされたかはわからないし、知ったことはない。だが、プライド高い彼女の心の傷になってるのは一目瞭然だ。いつもは子供の泣き声なんて気にしない。だが1人闇の中で泣く姿が自分とぶれた。

気付けば、彼女を抱き締めていた。

自身でもらしくない行動だ。しかやってしまったものはしょうがない。どうとでもなれ、と腕の力を強めると、綺麗な赤い瞳が大粒の涙と共にバクラを映した。

「ちっ。泣くな。耳障りだ」
「……オレをどうするんだ」
「どうもしない」
「信じられないぜ」
「そうだろうな」

疑り深いのはいいことだ。箱入りのお姫様かと思いきや、そうでもないらしい。ニヤリと笑えば面食らった顔。
王女にも城下の者達とはまた違う苦しみが重くのしかかっているのか。しかし理解してやれても分かり合おうとは思わない。当初の目的を実行すべく、胸に手を入れると短い悲鳴があがった。

「お前、やっぱり!」
「なぁ王女様。窮屈なところが嫌なら、俺様が連れ出してやろうか?」

唐突な申し出に、アテムは抗議を忘れて呆気にとられてしまった。

「こんなところで私利私欲にまみれた奴らの相手は嫌だろ?」
「でも、オレは王女だし……」
「いいじゃねえか。生きたいように生きないと損だぜ?」

決して同情ではない。外に連れ出して、殺しやすくするためだ。そう自身に言い聞かせて窓枠へと歩を進めた。

「さあどうする?」

手をさしのべると憑かれたように延びてくる細い腕。もう少しで掴める、そう思っていた時だった。扉が勢いよく開いたのは。

「ファラオ!ご無事ですか!?」

神官のマハードがいち早く駆けつけ、杖を構える。遅れて入ってくる兵士たちは、徐々にバクラを追い詰めるように、円形に広がっていく。
触れる瞬間に引っ込んだ手が、無性に恋しくなった。だが命は惜しいと窓に上がると、口角を上げて笑う。

「これは分が悪いな」
「待て!」
「この状態で待つバカはいねえよ」
「名前を知りたい」
「ファラオ、賊にそのようなことを!」

上目遣いで見つめられて気はよくなったが、その背後で殺気立つ兵士を見ていては萎えるというものだ。答えもせずに今度こそ飛び降りようとすると、裾を小さな手が掴まむ。

「教えてくれ」

可愛らしいお願いに折れたのはバクラだった。

「バクラだ。離せ」
「……アテムだ」
「あ?」
「私の名前だ」

王女が何を考えているなんてわからないが、場凌ぎに頷いておこう。 蛇の姿をしたカーを出した背後から小さな声が聞こえてきた。「また会おう」と。
賊に対して変な王女だと思う。それでも嫌いでも好きでもないかもしれない。今度は浚ってやろう。そうほくそ笑みながらバクラは闇に溶けていった。

+END

++++
ごーかんにも甘にもしたくなかったので

修正16.5.18

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