ゆぎお | ナノ



壊れた世界で二人きり


目の前に広がる惨状に、何度うなされただろう。ごうごうと燃え盛る炎と、持ち主を失ったデュエルディスクの残骸の山。吐き気すら催す光景から目を逸らし、見つけた。唯一の生き残り目掛けて早足になった足を、何度も残骸が掴もうとする。避けて、走り、避けて。転びそうになったところを黒い腕が支えてくれた。

「覇王」

黒い腕は何も答えない。ただ虚ろな瞳が十代を見つめて逸らされた。

「ここまですることはないだろ」

何も感情が分かず、怒りも呆れも何もない単語だけが並べられる。

「お前がやったことは許されない」

返事も首肯も何もない。まるで人形を見ているようだが、握る手は暖かく、手袋越しにもよくわかる。

「怪我、ないか?」

どれだけの人が傷ついても、どれだけの人がなくなっても心配をしてしまう。鎧からは外傷はわからないし、覇王は眉ひとつ動かさない。それでも無意識に引こうとする手は、後ろめたいことの証であろう。逃がさないように握りしめると小さな舌打ちが聞こえた。

「行くぞ」

抵抗しないのは、認めなかった罰を赦してくれた証なのだろうか。足元の残骸を踏まないようにリードしてやれば、少し険しい顔をした。


**


赤と黒の世界に立っているのはいつも自分だけだ。
まるで地上の惨状を写し出すように、空も赤く燃えて黒い雲が覆う。全て力で支配する。抵抗する者や気に入らない者は、見知った者であっても全て破壊する。今日も反抗した者を排除した。なんの感情もわかないが、目的を失った消失感に襲われて立ち尽くしていた。

「覇王」

亡骸に足をとられながらもやってくる半身の体を支えると、口元だけの笑顔が返された。ばき、ばきという生々しい音に目を逸らすのは当事者のすることではない。違う、目を背けたのは現実からではない。迷いなく近づいてくる十代からだ。

「ここまですることはないだろ」

道徳に沿った決まり文句を口にするだけで、十代の感情は全くこもっていない言葉。淡々と、真っ直ぐ向けられる言葉と優しい茶色の視線がひどく恐ろしかった。

「お前がやったことは許されない」

動けなかった。どう答えていいかもわからなかった。握られる手を、いっそ握りつぶしてくれたらよかったのに。暖かい手に触れているだけで体が冷えていくのがわかる。

「怪我、ないか?」

無意識に手を引いてしまったのは、恐ろしいほどに声色が優しかったから。
初めて心から笑った十代。一体なにをしたか、なにをされたか理解しているのだろうか。知っていてなお、赦してくれるというのだろうか。

「行くぞ」

有無を言わせずに手を引く十代の、足元で砕ける音がする。ビークロイド、サイバーエンジェル、おじゃま、サイバードラゴン。散らばるカードにも、十代は視線を向けることはなかった。

++++
あなたは『許されてることを知らない』十覇のことすを妄想してみてください。

16.5.12



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