ゆぎお | ナノ



先の見えない一方通行


※ユート女体化



裏路地の、目立たない場所での会合は、2人の日課になってした。薄暗い場所は人が立ち入らずに、別次元からやってきたユートたちたから都合がいい。今日も夕闇が迫る時間に、いつもの場所に集まっていた。
いつもの場所、いつもの時間、いつもの2人。しかし、いつもと違うところが1つあった。

「隼、オレ…好きな奴が、出来た…。」

どうやらユートが恋をしたらしい。
ユートは、妹の瑠璃と一緒に可愛がってきた。目に入れても痛くないくらいにだ。そのユートがいきなり真剣な面もちで「話がある」と言うものだから、何事かと身構えていた。すると可愛い赤い顔から飛び出してきた言葉は「好きな男が出来た」という告白だった。
男勝りでさばさばしているユートが、まさか恋をするなんて思ってもみなかった。しかし思い当たる節も、前触れもしばしばあったのは否定しない。
最近女らしくなったというか、フェロモンというか。ユートのことは仲間としか思っていなかった黒咲すらドキリとすることが多々あった。

「最近艶っぽくなったのはそのせいか。」

「艶っぽい、か?」

「自覚がないのがまた恐ろしい奴。」

やはりというか意識して行っていたわけではないらしい。首を傾げるユートに相手の名を聞くが、目を逸らされてしまった。
ここまで相談をしておいて、何を恥ずかしがるというのだろう。はっきりしないことで仏頂面になる隼に気付かず、ユートはもじもじと指を動かす乙女っぷりを発揮するばかりである。

「…で。相談はなんだ。」

「彼には、女とは見られていないようだ。どうすればいいか、男の視点から教えてほしい。」

まさかユートから真面目な恋愛相談をされるとは夢にも思っていなかった。隼も恋愛経験があるわけではないが、真剣な面持ちで問われては適当なことは言えない。
大切な親友だ、応援をしたいのはやまやまである。しかし今まで一緒にいたユートが名も知らぬ男に取られてしまう、その事実にどす黒い感情が渦巻き乱暴にその細い腕を掴んでしまった。

「そんな男は止めておけ。…俺にしろ。」

「隼…?」

「こんなにも、女として魅力のあるお前に、気付かないソイツは相応しい男ではない。」

ユートは綺麗だ。戦争ばかり続くエクシーズ次元でも屈指の美人だ。戦場を凛々しく駆け巡り、弱きに優しく強きに厳しい。戦場に凛と咲く、気高い花なのだ。
女らしい服は着ていなくとも、ユートには充分な魅力がある。その魅力に気づかないのはおかしい―――それが隼の出した答えだ。

「お前はこんなにも綺麗だ。体は幼いが色気がある。」

いつものような仏頂面で、淡々と語りながら一歩を踏み出す。その一歩にユートは体を跳ねさせて一歩後退する。

「隼、何を言って…っ」

「ユート。俺もお前ことは親友だと思っていた。しかし今は違う。お前の事を1人の女として見ている。」

真剣な表情でユートを見つめる目。女として見られることに慣れていないユートは、突然のことに怯えるしかなかった。

「ユート。俺を見ろ。」

真剣な黒咲の顔がすぐそばにある。背中には固い壁の感覚。追い詰められた、と自覚した瞬間に言い知れない恐怖に蒼白とした。

「ユート…」

「い、嫌…っ」

震えながら拒絶の言葉を漏らすユートに、隼は少なからず興奮を覚えた。ユートが見ている、女のような声を上げている。それだけで黒咲は興奮を覚えた。
歪んでいるのはわかっている。しかし長年くすぶっていた感情が高ぶり、抑えることが出来なくなっていた。

「それだ、それが女の顔だ…」

「ヒッ!」

顎を捕まえると見開かれた目。怯えを露わにするユートが愛おしくてサディスティックな笑みが漏れる。無理矢理服を掴むまであと少し。そんな時だった。人気のないこの場所に足音が響いたのは。
藁にもすがる、とはこの事だ。力を振り絞って隼を押しのけると近づいてくる足音へとすがりついた。助けを呼ぶ言葉すら思いつかず、無言すがりついてしまい、徐々に視線を上げていく。見えたのは首から下がった綺麗なペンデュラム驚いた赤い目と、赤くなった顔だった。

「ゆ、ユート!?」

突然すがり付いてきたユートに、遊矢は真っ赤である。慌てて引き剥がそうとはしていたが、体は正直でその弱々しい肩を抱きしめている。信じていた親友からの裏切りとも言える行為に、ユートはすっかり怯えてしまっていた。それに相手が遊矢ということもあり、緊張の糸が緩み泣きだしてしまった。
これには遊矢も黒咲も目を見開いた。

「ユート、どうしたんだよ…」

「貴様!ユートから離れろ!」

いきなり別の男に抱きついたことに嫉妬した黒咲が引き剥がそうとするが、ユートは激しく首を振り抵抗を示す。遊矢にしがみつく力も強まり思わず悲鳴が上がってしまう。

「ゆーや…、怖かった…っ」

弱々しくも、掠れて色香すら放つ声に遊矢は全身粟立つのがわかった。いつもかっこいいユートの女の子らしい一面に、ギャップと愛おしさすら感じてしまう。跳ねた髪に指を絡めて慰めると、赤く泣き腫れた上目遣いとかち合う。綺麗な灰色の目。涙で潤んだ瞳は何よりも美しく遊矢を映し出す。舌っ足らずなところがまた可愛らしく、"守らないといけない"という過保護欲を擽る。
敵と認識した黒咲からユートを遠ざけるように抱きしめると、短い舌打ちが聞こえてきた。

「ユート。こっちにこい。もう何もしないと約束する。」

イライラしながらも手招きするが、ユートは頑なに首を横に降り続ける。一度植え付けられてしまった、"男への恐怖"は拭えるものではない。怯えた表情で遊矢に抱きつき、へばりついてしまっていた。

「何があったかは知らないけど、怖がってるだろ。」

「貴様には関係ない!」

「ある!俺を頼ってくれた時点で無関係じゃない!」

怒り拳を握る黒咲に立ち向かうなど、命知らずもいいところだ。本気になった黒咲は、大人数人の力も簡単に跳ね退ける。しかしし今は守るべき者がいる。喧嘩などしたこともない遊矢だが、ユートを抱きかかえながら必死で黒咲を睨み付けた。

「お前がいくら強くても、俺はユートを守る!」

いつもの怯えもなく、真っ直ぐ対峙してくる赤い瞳とユートの止まらない嗚咽。思わず黒咲も呻き、たじろいでしまった。ユートも遊矢には心を許してしがみついているようであるし、このままユートに嫌われてしまうのも黒咲にとっては損害しかない。歯軋りを残しながらも黒咲は踵を返し、闇の奥へと消えていった。「俺は貴様を認めない」と言い残して。
嵐が去り、遊矢はその場にへたり込んだ。ユートが慌てて助け起こそうとしたが、お尻が鉛のように動かない。そのまま諦めて、涙を浮かべながらも遊矢に抱きついた。

「遊矢…ごめ、ありがとう…」

弱々しくも遊矢にしがみつく姿はまごうことなく少女の姿である。大人っぽさも醸し出すユートに頬が熱くなるのを感じるが、ここで変な気を起こすと黒咲の二の舞である。出来るだけ視界から遠ざけて落ち着こう、と必死で顔を遠ざけ話を逸らすことにした。

「ユートが無事で何よりだよ……。よかった、殴られなかった……」

つい本音をさらけ出す遊矢に、ユートも笑みを漏らす。やっと笑ってくれたことに安堵しながら穏やかに笑いあうと、遊矢持参のハンカチで涙を拭きとる。ユートの赤い顔と目に見つめられるだけで、時が止まったかのような錯覚に陥ってしまっていた。
疼いてしまった下半身に、慌てて肩を押し距離を取れば、寂しそうな表情。汐らしい上目遣いに後ろ髪を引かれながらも、振り返らないよう別れを告げたが無駄に終わった。後ろ髪どころか、実際に服の裾を掴まれたのだから。

「お礼がしたい。」

引き留める口実には一番最適な口説き文句である。頬をいっそう赤く染めながらも遊矢を見つめるのは、恋する乙女そのものである。しかし遊矢は恋愛ごとに疎かった。無意識ながら熱い愛の視線に気付けない程に。

「気にしなくていいのに。」

「そうはいかない。助けてもらった恩義に反する。」

どれだけ断ろうが、この一点張りである。頑固にところは遊矢とそっくりだ。しかし、遊矢にはユートに願いたいことなんて何もない。どうしたものか、と首を捻っていると、いい案が浮かび口元を歪ませた。

「じゃあ、"からだ"でお礼して?」

口角を上げた遊矢が、ユート唇に指を当てる。妖しい動きと、見たこともない遊矢の妖艶な顔。一瞬得体の知れない恐怖を感じ、ユートは息を飲み後ずさった。真っ直ぐ雄の目で見つめられ、先ほどの黒咲の恐怖が蘇って震えが止まらない。
別に遊矢は変な意味で言ったわけではない。ただ場を和ませようとした冗談だ。それが歪曲して伝わってしまったことに、遊矢はユートの顔色を見て気がついた。

「…なーんて、冗談だよ!」

慌てて撤回したがユートの顔は青いまま。あやそうと手を伸ばそうとしても、男に怯えるユートには逆効果だ。行き場を失う手と、俯き表情のわからないユート。
しかし、顔を上げたユートは嬉しそうに顔を赤らめ頷いた。「遊矢になら、なにをされてもいい」と。
予想外の返答に、困るのは遊矢である。下心はないとは言えないが、冗談は冗談である。タイを外しながら迫ってくるユートに遊矢は冷や汗すら流れた。

「いや、今のは冗談!冗談だから!」

「でも、お前になら…」

「す、好きな人のためにとっておかないと!!」

興奮した細い体を押し返すが、無意味で終わってしまう。潤んで緊張した目が遊矢を捉え、みずみずしい唇を遊矢の視線が捉える。

「遊矢が…」

「え?」

これ以上は聞いてはいけない気さえした。躊躇いがちに動く唇を見ているだけで、全身から汗が噴き出したような感覚さえする。
再び、ユートの唇が開かれた。

「好、」

開いた唇を咄嗟に、止めていた。
それ以上はここで聞いてはいけない気がしたのだ。不満そうな表情を浮かべるユートだが、俯き表情の見えない遊矢を見ていると、何も言えなかった。

「…ごめん。今は―――ごめん。」

ポツリと謝ると、駆け出した遊矢の背中をただ見つめるしか出来なかった。暗い路地裏には、光が差し込む様子もない。

+END

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幸せにしようとしたら悪魔に主導権をとられました

16.2.20



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