ゆぎお | ナノ



素直の条件

※ゆや←北
※ゆずます



ある日のこと、唐突な出来事。
世界に幅を利かすLDSは規則にもうるさい。決まった時間に授業の鐘が鳴り、全員がノルマを全員がこなし、終われば補修する者以外はすぐに帰宅させられる。厳しいが、その分実力はトップクラス。帰路に就く塾生たちがいた。


少し雲は懸かっているが、今日も心地よいいい天気ではある。今日もこのまま気分も良く終わるはず、だった。
最近刃は付き合いが悪く、塾が終わると黙って飛び出して行く。行き先を聞いても楽しそうに「ちょっとな」と言うだけで教えてくれない。しかし風の噂で前に戦った遊勝塾での対戦相手、権現坂と一緒にいるらしい。
遊勝塾と言えば、北斗が戦った榊遊矢だ。
連勝記録を延ばし続け、41勝目というところでまんまとやられてしまった。
しかし当の本人はプライドや怒りや憎しみとは違う、別の感情に悩まされていた。


「アンタ、榊遊矢のこと好きなんでしょ?」

「な、何を急に…!」

いきなり親友である真澄に指摘されたことは、笑えない冗談だった。断っておくが、からかわれている、バカにされているために笑えないのではない。図星という事実に、心臓が飛び出るかと思った。
違う、と心無い嘘を言おうとはした。しかし"榊遊矢"の名前を聞いただけで緊張した体はいうことを聞かない。見る見るうちに顔が赤くなり、声も出なくなる。
異端ながらも、これが初恋なんだ。
せめて顔を隠そうと俯くが、真澄の確信めいた微笑みが勘に触る。でも今は言い返せる自信なんてない。元より、真澄には適わないのだから。

「エクシーズの力を見せるより、アンタ自身のアピールしたいんじゃない?」

「よ、余計なお世話だっ!からかうならほっといてくれよ!」

「逆よ。」

「…へ?」

「その恋、応援してあげるって言ってんの。」

嘘偽りない真っ直ぐな真澄の言葉に、噛みついていた牙が抜かれた気になった。いつものように「嘘よ。ばーか」という切り返しもこない。馬鹿にしたようなニュアンスでもない。変わらぬ歩幅で歩いていく彼女を見つめるだけの北斗。真澄が何を考えてるかなんてわからない。北斗は相手の様子を伺いながら駆け寄り、横に並ぶとゆっくり口を開いた。

「ど、どうして…。こんなの、普通じゃないだろ、気持ち悪いだろ…。」

「気持ち悪い、で諦めることが出来るの?とんだお笑い草ね。」

フンっ、と鳴らされた鼻には明らかなる侮蔑の意味があった。
こういう言い方は悪いのだが、真澄の優しいところを見るのは珍しいために、身構えてしまう。

「アイツは矮小塾の生徒だし…」

「ウジウジしないの。男でしょう!?じれったいわね!」

いきなり横から突きつけられたら指に、北斗は思わず足を止めた。真澄ははっきりしないことが大嫌いだ。男同士や気持ちが悪いよりも、煮え切らない北斗に対しての嫌悪感がにじみ出ている。

「好きなんでしょう!?なら諦めてどうするの!?アンタはいつも下らないことには自信満々なのに、今日はいつもより鬱陶しいわ!」

はっきりという性格は嫌いではない。しかし人通りのある道で叫ぶのは止めていただきたい。通りすがったカップルが「痴話喧嘩かしら?」と彼氏に囁くのが聞こえ、真っ赤になる。

「いい?私が手回ししてあげるから、今度の日曜は空けておいて。」

一方的ながらも約束は約束だ。渋々という顔で了承したが、内心は喜びでいっぱいだった。

「感謝しなさい。私は柚子に会えたらいいわ。」

もしかしてそういうことなのだろうか。同性愛に対する嫌悪がない、ということは真澄も柚子という少女に、恋愛感情を抱いているのではないのだろうか。
先ほどの北斗に対する叱咤は、自分に対するものでもあるのかもしれない。

「真澄、…ありがとう。」

あのプライドだけが高い北斗からの礼より、綺麗な笑顔に真澄は慌ててしまった。邪気のない純粋な笑顔。はにかむ、というよりも無邪気な子供らしい笑顔に。

「フンっ。成功してから言いなさい。榊遊矢と柚子を引き剥がしてからね!」

照れ隠しに鼻を鳴らすが、北斗はもう聞いていないらしい。「榊遊矢に、会える…」と何度も呟く様は恋する者そのものである。
これにはからかおうにもからかえない。感情を抑えようともしていないのか、はにかむ北斗を見て真澄は心中で息をついた。「たまには、喜ぶ友人を見るのも悪い気はそのしない」と。


**

約束の日曜日。柚子と遊矢との待ち合わせの場所は、デートスポットで有名な公園だった。
休日ということもあり、他のカップルが行き交う中、真澄は不機嫌だった。
柚子がイヤなわけではない、むしろ逆である。ならば遊矢がイヤなのか、いやそうでもない。原因は、一緒にいる男だ。イライラの憂さ晴らしにと睨みつけるが、その視線にしら気づかない姿に更にイライラが募るばかりだった。そこへ助けというかなんというか。柚子が笑顔で手を振り駆けてきた。
嬉しそうな顔になったが、慌てていつもクールな顔に戻るのは流石というか。だが駆け寄ってくる柚子に心踊らせていた。

「来たわね、柚子。」

「なぁに真澄。いきなりデュエルの稽古だなんて。」

「文字通りの意味よ。あんな塾だとまともに学べないでしょ?」

「何よその言い方!」

いがみ合っているようで、柚子も真澄も笑顔である。仲のよい2人を遠目で見つめながら、恐る恐る口を挟む者がいた。

「なぁ。なんで俺も呼ばれたんだ?」

「私は不本意だったのよ。でも向こうが貴方をご指名したのよ。」

不満な顔をしながら顎で連れを示すと、壁にもたれながら不安そうにソワソワしている北斗の姿があった。
不思議そうに北斗を見つめると、すかさず遊矢は駆け寄り顔を見上げる。

「俺を呼んだのはお前か?」

「うわぁっ!来てたのか?!」

心ここに有らずとは、まさにこのことである。遊矢に話しかけられるまでは居たことにも気付けず、北斗は素っ頓狂な声を上げた。
驚いたのは遊矢も同じ。北斗より早く落ち着くと、首を傾げながら真っ直ぐに見つめてくる。これが北斗には耐えられない幸せな拷問だった。

「で。俺になんか用。」

しまった。当たり前な疑問だが、北斗はどう答えるかなんて考えていなかった。『ただ会いたかった』など言えば更に詮索されるのが目に見えている。ここは適当にはぐらかせよう。不自然なまでに目を泳がせながら北斗は口を開いた。

「お前に負けてから、調子が出ないんだよ。」

「…そっか。」

遊矢も少なからず罪悪感を感じているのだろうか、声に覇気がない。悪い、とは思っているがあの時は愛する塾を守るためだったから、仕方のないことだとも言える。

「最近全然勝てないし、そのせいで先生にも怒られるし…」

勝てないのは事実。だが理由は"榊遊矢に負けたから"ではない。"榊遊矢に惚れてしまい、集中出来ないから"である。しかしそんなことを正直に言うわけにもいかない。その想いを振り払うように、力強く遊矢に人差し指を突きつけた。

「またボクとデュエルしろ!」

叫ばないと冷静になれなかった。
突然の宣戦布告に遊矢は目を丸くするだけだ。それもそのはず。遊矢はおろか、北斗すらこんなつもりではなかったのだから。
引けなくなったことで勢いのまま叫ぶしかない。

「もし君が負けたら…」

「そうね。言うことを1つ聞くでいいじゃない。」

「罰ゲームもあるのかよ…。」

「罰ゲームがあったほうが燃えるでしょ?」

笑う真澄に、遊矢も「それもそうか」と安請け合い。まるでもう勝ったかのような軽さに北斗はカチンときた。

「今に見てろよ!ボクが勝ったら1日奴隷にしてやる!」

(そうすれば一緒にいられる)

「じゃあ俺が勝ったら…そうだ。俺と付き合ってくれよ。」

その言葉に北斗は口を開閉を繰り返す。
意味はきっと用事に"付き合わせる"ということだ。しかし舞い上がる北斗は恋愛の"お付き合い"として解釈してしまう。

「チャンスじゃない。勝っても負けてもアンタは幸せね。でもLDSの名にかけて勝ちなさいよ。」

固まる北斗の背中を叩き、真澄はスキップで柚子の観客席へと駆けていった。

**

「ボクのターン、ドロー!」

(ひ、久しぶりのデュエル…遊矢との、デュエル……)

遊矢を見つめて止まっていた目を慌てて不自然な逸らし方をし、目についた適当なピンクのカードを伏せてターン終了を宣言する。あ、モンスターを忘れてしまった。

「北斗!何やってんのよ!」

真澄からのヤジが飛ぶが、耳にも入らない。一体自分が何を伏せたのかもわからないほど重症なのだから。首を傾げる遊矢を見るだけでも、また頭が真っ白になってしまう。

とてもじゃないけど、リベンジ戦にもならない。

「お、俺のターン?EMシルバークロウを召喚。」

派手なシールと服で彩られた、遊矢のお気に入りの狼が遠吠えを上げながら登場する。そういえば、何を伏せたのだろう。罠を確認しようとして、北斗がデュエルディスクのボタンを押すとかん高い警告音が鳴り響いた。

「北斗!!」

真澄の怒声も北斗には聞こえていない。誤って罠を発動しまったことに気がついたのは、警告音が止まった時である。
遊矢も目を瞬かせながら、らしくない北斗の言動を眺めていた。

「や、やり直すか?罠見えちゃったし…」

「いや、いい!続けろ!」

とは言ったものの、それでもミスをし続ける北斗に痺れを切らせたのは遊矢だった。何も言わずにデッキに手をかざすと、ソリッドビジョンを解除して北斗に駆け寄った。

「やっぱり今日のお前、ちょっとおかしいよ。調子が悪いなら、また今度にしよう。」

デュエルで相手に情けをかけられるなど、屈辱の極みである。顔を真っ赤にして遊矢を睨み返せば、困った顔が返ってくる。

「いや、やる!」

「でもさ…」

「煮え切らない奴だな!それでも男か!?」

北斗の自信たっぷりな言葉に「アンタが言うの?」と真澄は呆れた表情である。人の受け売りをどうこう言うつもりはないが、満足げに言うことではない。

「俺は仕切り直しにしたい。お前が倒れたら元も子もないだろ。」

北斗の額に、遊矢の手が添えられて顔から火がでるかと思った。「やっぱり熱いな」と心配げな遊矢に、唖然とする北斗。仕方ない、と助け船を出したのは真澄だった。

「今日は調子が悪いみたいね。またにしましょ。」

「そうだな。」

「でも負けは負け。北斗。榊遊矢と1日付き合いなさい。」

その言葉にまた顔が熱くなる。百面相をする北斗を遊矢は訝しげな顔をして見つめていた。何も言わないのはある意味救いだっただろう。

「ふ、ふつつか者ですが…よろしくお願いします。」

北斗は完全にパニックだった。これは恋人のセリフであるが、この時本人は気付かなかった。それは遊矢も同じである。違和感を感じたのだが、遊矢は微笑んだ。

「俺こそよろしく。」

すれ違ってはいる2人ではあるが、悪いわけではない。真澄は肩をすくめて柚子の手を握った。

+END

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最近ゆや北が熱い

15.11.18

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