ゆぎお | ナノ



自由のない選択肢


※NTR、無理矢理表現有
※ゆまアス前提
※ベク→ゆま、C96→アス







「さぁて、お目覚めか?遊馬君?」

遊馬は、ベクターの下卑た声で目を覚ました。目を開くと、ニヤニヤと遊馬を見下ろすベクターの妖しい紫の目がある。
ここはどこだろうか。周囲を見回して状況を理解しようとするが、周りは闇に覆われているだけで何もない。一応バリアン世界とは関係のあるところなのだろう、独特のピンク色の宝石がフットライトのように点々と輝いている。
徐々に思い出してきた。

(確かベクターに捕まって、拐われる途中で気を失って、アストラルがどうとかって...!そうだ、アストラルは!?)

いつも胸に輝く皇の鍵すら見当たらない。蒼白となり跳ね起きようとしたが、強い力で阻まれてしまった。

「無駄だ無駄だ。このドンサウザントの玉座に捕まったらお前も逃げられないぜ?」

痛みの走る四肢へと視線を向けると、黒いコードのような物が食い込み拘束していた。よく言えば電気コード、悪く言えば人工的な触手か。まるで生きているかのように蠢き、体に食い込み遊馬は呻き声を上げた。

「ベクタァー...っ!」

「いやーん、怖い怖い!お前が探しているのは、皇の鍵...いや、アストラルだろう?」

耳元に囁かれた言葉に、遊馬は血の気が引くのを感じた。バレている、ということはアストラルがいないことはベクターが一枚噛んでいるという証。目を見開き睨み付けるが、肩を竦めるだけで反省の色なんてあるわけがない。

「お前が探しているのアストラルちゃんなら、そこにいるぜ。」

軽快に指を鳴らすと、まるでステージのように前方がライトで照らされる。
真ん中には見覚えのある、青白く透き通った体が見える。アストラルだ。意識を失いぐったりとしているより、周りに張り巡らされた糸が不快感を誘う。 意識を失いぐったりとしているより、周りに張り巡らされたドンサウザントの玉座から延びるコードが触手の群れのようで不快感を誘う。

「アストラル!!」

玉座のコードが手足に食い込み、ギチィと鈍い音を立てる。動脈を締め付けられたが痛みなど感じている場合ではない。何度も何度も愛しい半身へと呼び掛ける。

「アストラル、おいアストラル!!」

「無駄だ。しばらくは目覚めないよう、たっぷりいたぶってやったよ。」

愉快そうに笑うベクターに、遊馬は嫌悪感を露にする。しかし睨み付けたところで怯むような相手ではない。

「てめえ...アストラルをどうする気だ!」

「どうするもなにも、わかってるだろう...?」

ニヤニヤと遊馬を見下ろすベクターと、もう1人の声。
ねっとりと、耳に張り付くような特徴的な男の声。遊馬は聞き覚えがあった。

「お前はーーーNo.96!?生きていたのか!?」

水晶に不気味に煌めき、妖しく照らし出されたのは黒く大きなコウモリのような風貌のCNo.96の笑みだった。確かバリアンの力を得て禍々しく進化をしたが、苦闘の末にアストラルと共に倒したはず。手応えはあった、間違いはないはずだ。しかし目の前にいるアストラルに似た風貌の、上半身にのみ筋肉の集中した異様な存在は見間違えるわけはない。体すら覆いつくす巨大な黒い翼も、CNo.96のもので間違いはない。

『おいおい。勝手に殺すものじゃないだろう。』

紫に縁取られた唇の口角を不気味に吊り上げるとアストラルへと歩み寄る。まるで自らの巣を歩く蜘蛛のようだ。そしてアストラルの元へと近付くと、顎を掴んで眠るアストラルの唇を荒々しく塞いだ。遊馬は目を剥き、激しい抵抗を露にする。しかし四肢に絡み付いたコードがそれを封じて、嘲笑う化のように締め付ける。

「ムダだよ遊馬くぅ〜ん。この玉座はドンサウザントの力で作られたんだぜ?遊馬"様"専用に、な。」

からかいながらも流し目で性的に顎をなぞられ、遊馬は嫌悪を露にする。しかし抵抗できることといえば、精一杯顔をそむけるしかなく、それも抵抗というにはあまりにも弱弱しい。そんな遊馬を嘲笑い、コードは脈打ち四肢を叩いた。

「お前はそこで見てろ。大切な相棒が、堕ちていく様をな。あ、恋人だったかぁ?ギャハハハハハハ!!」

「ベクタァァァァァァ!!!」

わかっていてやっているのは無論である。遊馬も挑発されているということはわかっている。しかし大切な人が、恋人が穢されて黙っていられるほど人間は出来ていない。いや、そんな人間はいない。
目を剥き牙を剥くが、檻の中のライオンである。「怖い怖い!」と嗤うベクターには、ただ狂気孕んだ喜びが浮かぶだけだ。それでもここで諦めるわけにはいかない、と噛みつこうとすると、口が開いた一瞬にコードが飛び込んできた。まさかこのような方法を取るとは。喉を勢いよく突かれたが吐くこともえづくことも許されない。

「いいから黙って見てるといい。」

「んっ!?んんっっ」

いきなり異物が口内を蹂躙してかき回す感覚に、激しい嘔吐感に襲われる。しかしそんなことに構っていられない、構っているうちにアストラルが、アストラルがーーー!
必死で抵抗しながらも、アストラルから反らされない目。ベクターは気付くと、にんまり笑った。

「大丈夫だ。アストラルもすぐにヨくなるからな...」

『アァっ!!』

ベクターに気をとられていて、悔しいかなアストラルのことを忘れていた。
アストラルの甘い声があがり、遊馬は慌てて視線を戻すと、CNo.96がアストラルに覆い被さり首筋に愛撫を加えている最中だった。抵抗しようにも、アストラルも遊馬と同様に四肢を拘束されて動けない上、まだ目を覚ましてはいない。CNo.96との体格さも歴然である。細く女のような見た目のアストラルでは、組しかれるしかない。無意識に身震いして体を捩るが絡みつく触手が張り、粘着質な音が生々しく聞こえる。
遊馬の怒りを助長させるには十分だ。まるで動物園の檻のよに遊馬の猛獣に似た唸り声が広い闇の空間に虚しく響き渡った。

「無理矢理襲うのはルール違反ってかぁ?」

ニヤニヤ笑いながら遊馬を見下ろすが、遊馬の視線はアストラルを好き勝手に弄ぶCNo.96だけを映しており、ベクターの挑発など耳すら貸さない。
その憎しみの視線が心地よい、と羽を震わせCNo.96は歓喜した。遊馬からアストラルを奪ってやった。好きで好きで愛してやまない、殺して殺りたいほどに求めていたアストラルは今や、我が手の中だ。望んでいた存在を奪った証である、遊馬からの憎悪と狂気の視線がとても心地よい。
恍惚とした表情で、性的にアストラルの白い腰に手を這わす。身震いをしながらも、未だにアストラルの金の瞳は目覚めない。
次はどうしてやろう。強い催眠効果のある薬を飲ませたために当分目覚めることはない。目覚めて抵抗されるものまた一興ではあるが、今回は遊馬も祝福して見ているわけである。ゆっくりと楽しみたい。
とりあえずは身体中にマーキングでもしよう。唇を寄せるとガタン、という物音に再び興を削がれた。

「〜〜!っ!」

ぎし、ぎしっと軋む音に興を削がれたと目をやれば、ドンサウザントの玉座のからではないけ。太く弾力のあるコードは、人間は抜け出すことは不可能であるのはわかっている。しかしそのまま食いちぎりそうな眼力に、ベクターすら目を剥いている。

『ベクター!早く遊馬を黙らせろ!』

「ちっ!」

暴れるのなら、数で押さえつけるのが手っ取り早い。ベクターが指を軽快に鳴らせば、コードが蛇のように這い回り群れを成して口を犯し、四肢を一層強く拘束する。呻く遊馬だが、呼応するように目の力も強くなる。緩まない目の力にベクターは目を細めてうっとりと見つめる。

(ああ、これでこそ俺の見込んだ遊馬だ)

早くこの目が絶望に染まる瞬間を見たい。そのためにはアストラルが、遊馬の相棒という、恋人という器に収まるあの男が邪魔だった。
そんなとき、都合がいいことに利用しあっているCNo.96がアストラルにご執心らしい。今度もそれを利用しようと思った。互いに邪魔を排除できる、それが今回の交換条件だった。
CNo.96はただアストラルを手に入れる、ベクターは怒り傷ついた遊馬を手籠めにする。両方が得をして、目的を達せられる。相手の気持ちなんて二の次だ、そんなものは長い間でいくらでも揺れ動く。歪んでいると言われようとも愛情は愛情だと言い張ろう。

何をしてでもいい、何をしてでも手に入れたいものは手に入れる。遊馬のこの人を惹きつける力も、目も、あの気高い心も。もうすぐ手に入れることが出来る。もうすぐで、もうすぐで喜びで口角が不気味に吊りあがる。心の中でアストラルを見下ろし嘲笑いながら。

(早く落ちてしまえ)

早く早く早く早く、はやくはやくはやくはやくはやく。

しかし大切そうに、ゆっくりと自分の色に染め上げるようにと動くCNo.96がじれったくなり、ベクターは爪を噛む。奴の場合はご執着の度合いがまたベクターとは似ているようで違うようだ。無理矢理従えるのも良しだが、心酔されることに酷い快感を覚えるらしい。
今は動かない人形遊びが楽しいらしく、眠るアストラルの頬を汚すように舐めまわしている。

しかしこのまま見ているだけでは進展など期待出来なさそうだ。ならば、と遊馬の耳に直接囁くように言う。

「遊馬くーん...アストラルを起こしたら、自力で脱出してくれるかもな…そう思わないか?」

優しく語りかけるように玉座を撫で指を鳴らすと、呼応するように触手がアストラルの首を絞めつける。酸素を求める苦しげな息遣いに、遊馬のは悲痛な呻き声をあげる。しかし一瞬、ほんの一瞬だけ安堵してしまう。

(アストラルは生きてる)

不謹慎な方法であるが、それがわかっただけでも遊馬の心に希望の光が差した。
ベクターは嗤うだけだ。
大きく咳込んだと同時に見開かれるアストラルの目。『余計なことをしやがって』というCNo.96の鋭い目なんて、ベクターの気にするとことはない。距離があってもわかるベクターの歪んだにやけ面を一瞥し、うって変わった上機嫌な顔でアストラルに向き直った。

『おはよう。お姫様?』

武骨な手の甲で頬を撫でるが、反応は帰ってこない。今の状況を理解していないのだろうか。否、酸素を求めて胸を激しく上下させているだけだ。やっとあってきた目の焦点でCNo.96の歪みきった笑みを映し出す。
アストラルもNo.96には長い間手を焼かされてきたし、いい顔をしていない。すぐに我に返り、抵抗して抜け出してくれると思ったが、遊馬の予想は裏切られた。
アストラルは目を見開いた、と思えば汐らしく目を伏せる。そして、頬を赤らめながらも幸せそうに顔を綻ばせ、CNo.96に向けた。
遊馬の空きっぱなしの口からは乾いた悲鳴が絶え絶えに漏れるだけだ。

(何故!?アストラルは何故!?俺たちあんなに愛し合っていたのにーーー)

『知っているかぁ?毒っていうのは感覚を麻痺させる。目も、真実も、感情も。この意味、わかるか?』

遊馬の心を見透かしたCNo.96の声が耳障りだが、遊馬には頭に直接囁かれたような感覚だった。
アストラルの本意ではなかったことに安心は得ても、無理矢理人の感情をねじ曲げているということではないか。

甘えてすり寄るアストラルに応える、背に手を回すCNo.96を視線で射ぬく。が、嬉しそうに首に抱きつき返すアストラルを見る度、絶望で眼光がぶれる。

『ん、"遊馬"…』

「―――!?」

『アストラル…』

原因は気を失っていた時か、CNo.96の新な力が、先ほどの口づけにはなにか。毒か薬、或いはその両方が仕込まれているに違いない。奴らならやりかねない。
もし遊馬の口が自由になっていたら、思いつく限りの罵詈雑言を吐き散らしていただろう。人の心を無理矢理変えるなど許すわけがない。
しかし声も出せない、手も出せない状態では救うことすらできない。力を込めた腕からは激しい痛みと生暖かい血が流れるが、気にしていられない。

遊馬がもがく音に、何事かとアストラルが目を向けようとしたがそれをCNo.96が妨害する。耳に舌を入れ、”本当の”遊馬の声が届かないように塞ぎ、身を捩り、イヤイヤと首を振るアストラルの耳を甘噛みする。

(そろそろか)

怒りと絶望に痙攣する遊馬を見てベクターは嗤う。拘束した膝に座ると、体をすり寄らせては遊馬に顔を寄せた流し目を向けた。

「アイツはもうお前のことなんて見ていないぜ…?なぁ諦めて俺を見ろよ…」

んーんーっと唸るが、更に奥へと侵入して喉を付き犯す。何度も突き刺す度にくぐもった悲鳴が聞こえていたが、唐突にコードを喉から引き抜いた。げほげほ、と咽る声にもアストラルは振り向かない。CNo.96の噛みつくような口づけに翻弄されるしかない。
一方的なキスを終え、離れた2人の間には銀の糸だけが名残惜しいと繋がるだけだ。
その間に耐えられなくなったのか、アストラルだった。今度は自ら口付けると、角度を変えながら味わうように可愛らしいキスをする。
相手を"遊馬"だと信じて。

(やめろ、見たくない、見たくない、見たくない)

目をそらしたいが反らすことも出来ない。眼を瞑ろうとすれば、ベクターが顔面を殴ってでも起こそうとする。四肢は動かないし、アストラルは薬漬け状態で錯乱している。いつもは煌めく金の瞳は濁り、1寸の光すら見えない。

CNo.96の鋭い金の目が射抜く中、ベクターは遊馬の膝に向い合せに座り目を伏せる。

「なァ…」

やっと呼吸ができたと、大きく息を吸い込んだ瞬間に無理矢理に唇で塞いだ。整えたばかりの呼吸を乱暴に乱され、苦しみ顔を揺らしてもがく。頬をしっかりと包み込まれていて動けない。長いキスはベクターが満足するまで続けられた。
解放され息を吸った瞬間に、再びコードが口内へと侵入してきた。一瞬白目をむき気を失いかけても気にするものはない。オちたらオちたで好きに出来る。起きているなら起きているで辛辣な現実を見て心が壊れるのも時間の問題だ。どちらでもあっても予定に狂いはない。

「まあ決めるのは自分自身だ。好きなように決断するといいさ。」

自由のない選択肢に遊馬は赤い涙を流すしかなかった。

+END


++++
15.10.24



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