ゆぎお | ナノ



1人じゃない


※遊矢&ユート
※融合後



たまに、体がだるくなる時がある。
しかし自分で熱を測ってみても平熱。別に風邪を引いたわけでも体調を崩したわけでもないだろう。
そうわかっていても、体がだるい。ああだるい。何故なのだろうか。「体調を崩した」という思い込みに引っ張られているのだろうか。

「とりあえず休もう…」

別に熱くもなんともない頭を抑えながら2回に上がろうとすると「どうしたの?風邪?」と母親の陽気な声が聞こえる。いつものように元気な声ではあるが、心配そうな音色が込められているのは家族だからこそ気づけること。
そのままふらふらとゾンビのように布団に入れば、目を閉じた瞬間すぐに寝付くことができた。まるで意識が吸い込まれるような感覚だった、と今になれば思える。
夢を見た。
灰色の世界、炎の立ち上る場所。怯え逃げ惑う人々が、遊矢自身をもすり抜け走り抜けていく。

―――これは夢?

声も音も聞こえない。白黒の世界ではあるが、立ち上る炎も人々の悲痛な顔もあまりにリアルで、遊矢は足がすくんで動けなかった。声にならない音が、遊矢の喉から漏れ出るだけだ。
その戦火の中心に、色が見えた。
真ん中で立ち尽くす黒い小さな背中には見覚えがあった。その背中が、糸が切れたように崩れ落ちたことに遊矢は慌てて駆け寄った。

「ユート!」

手を伸ばし、腕を掴み引き上げる。覗き込んだ顔は苦痛に歪んでおり、遊矢すら悲痛な顔になる。

「どうしたんだよ、おい、ユート!」

ここで改めて我に返った。この白黒の世界の中、ユートだけが色を持っている。実態を持ち、触れることが出来る。
周囲を見回せば、テーマパークのようだが今や破壊し尽くされ無残なものだ。これは、昔ユートから聞かされたハートランドという場所ではないだろうか。きっとそうだ。
ここはユートの夢なのだ。
唸る彼の額に手を当てると、あまりの熱さにびっくりした。上に凍ったバナナを置いてもすぐ溶けてしまうのではないだろうか。膝の上に頭を乗せてやるが、周りには何もない。人々の逃げ惑う姿や敵の、アカデミアの召喚したモンスターたちが徘徊しているだけだ。

いつも看病される側で、人の看病なんてしたことがない。それにこんな夢の世界に取り残され不安に潰されてしまいそうだ。上から迫ってきた巨大なロボットを模したモンスターの足に、思わずユートの庇うように抱きしめてしまった。

「う…」

巨大なロボットが2人を踏み越え、他の人々を薙ぎ払ったところで腕の中からうめき声が聞こえてきた。慌てて体を離して呼吸が出来るようにすると、ゆっくりとユートの灰色の瞳が現れる。

「ユート!お前、熱が…」

「熱…火が、火が…」

「火…?」

「っ、そんなことより、瑠璃を、隼を……」

光のない目で、フラフラと立ち上がろうとする姿に遊矢は慌ててふためいた。38度はあるだろう、高熱である。それでも友人を想い立ち上がり戦おうとするユートの姿は立派な戦士である。
しかし勇気と無謀は違う。このままでは、ユートが死んでしまう気がした。
必死で後ろから腰に抱き着けば、やっと足を止めることが出来た。振り向き見開かれたユートの目には生気はない。最早気力で立っている、手負いの獣のようなユートを、遊矢は止めるしか頭になかった。

「そんな体で何が出来るんだよ…!」

「1人でも多く、敵を倒せば…仲間を救えるんだ……!」

「ユート!」

気付いてほしい、その一心で遊矢はユートの頬を叩いていた。パァンッと高い音が灰色の世界に響き、ユートの目が見開かれる。その灰色の目に光が宿り、遊矢を映した時に見たのは透明な涙だった。

「…悪い夢を見てるんだよ。体が弱ると、心も弱ってしまうから。」

すがるように崩れ落ちた遊矢を、ユートは荒い息を付きながら見下ろすしかなかった。

「俺を頼ってくれてもいいんだよ?俺たちは1人じゃないんだから。」

その言葉をちゃんと聞いてくれただろうか。再び崩れ落ちたユートの名前を叫ぼうとしたところで視界が揺らいだ。


*


「夢…」

ぼんやりと昇天の合わない目で、遊矢は自分の部屋の天井を眺めていた。
周囲を見ると、まだ外は明るい。眠ったのは昼のはずなのに思った以上休めていなかったようだ。しかしあの夢は長く感じられた。
1人で頑張るユートの後姿。あんなにボロボロになりながらも戦っていたのだろうか。考えすぎたのか、目眩がした。頭を押さえたところで、廊下から小さな悲鳴と水の零れる音がした。

「遊矢!大丈夫!?」

掠れた声で駆け寄ってきたのは、いつも一緒にいる少女・柚子である。少し泣きそうになっているのは気のせいなのだろうか。廊下では洗面器が水を吐きだし音を立てながら転がっていた。看病をしてくれていたのだろうか。それにしても様子がおかしいし、さっき気分が悪くなったはずなのに。

「ああ、柚子…どうしたの?今日はなにか約束してたっけ…」

「どうしたの、じゃないわよ!昨日いきなり「高熱を出して死んだように眠ってる」って電話があったから!!」

「昨日…?」

携帯電話を手に取り、電源を入れるとそこには日付が『10月26日』と表示されている。
おかしい。今日は25日のはずなのに。また頭が痛くなり、目眩も激しくなってくる。
灰色の世界が色づいて見えた気がした。

「心配したんだから!昨日はあんなに元気だったのに、いきなり、いきなり…っ!しかも駆けつけたら真っ青で眠ってるんだもん!呼んでも揺すっても起きなくて、私、私…!」

「柚子、ごめん…泣かないでよ…」

「ごめんじゃないわよ!なんで頼ってくれなかったの!?昨日は我慢してたんでしょ!?」

「いや、そんなことはないよ…」

感情あらわに泣きじゃくる柚子に遊矢はたじたじである。駄々っ子のように布団の上から足を殴られ、少しむず痒い。

「1人じゃ…ないんだから…!」

そのままベッドに泣き伏せてしまった柚子をあやすよう、頭をなでてやるが嗚咽は止まらない。どうしていいかわからない遊矢はただただ困惑するしかできなかった。助けを求めようと廊下へと目を移すが、他の友人はおろか母親すら通らない。どうしよう、冷や汗すら流れてきた遊矢の横から優しい声が聞こえてきた。

『確かに、俺”たち”は1人じゃない。』

横へ振り向くが、誰もいない。しかし確かに居る。”彼”が居る。

『そういう時は、泣きやむまで一緒にいてやればいい。』

「う、うん…」

遊矢にしか聞こえるはずのない言葉に返事を返せば、柚子の怪訝な目が少し覗く。しかし遊矢の頭を撫でる手が気持ちいいのか、すぐに目元が和らぎ寝息すら聞こえてきた。

『お前は1人じゃない。』

今度は、確実に”彼”は横にいた。微笑みながら柚子を見つめて遊矢に笑いかける。昨日はあんなに心身共々弱っていたのに、今はそんな素振りも見せない”彼”。
手を伸ばしたが、今度は触れることはできなかった。しかし色のついた”彼”の笑顔と頬に安心して手を下すことが出来た。

『遊矢、ありがとう。これからも…よろしく頼む。』

「こちらこそ。柚子のこと、ありがとうな。ユート。」

ユートは最後に綺麗な笑みを残すと、夢幻のように消えてしまった。
でも、彼は幻であったとしても夢ではない。ここにいる、遊矢と共にいつもいる。

「必ず、柚子は守る。瑠璃は取り戻してやる。」

首からかかる水晶のペンダントに願をかけるよう、遊矢は決意と共に強く握りしめた。

+END

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「熱、怪我」というお題と勘違いして書きかけていたものです。

15.10.24



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