ゆぎお | ナノ



一緒に堕ちてくれますか?


※20歳くらい大学パロ



周囲は誰もいない、公園の片隅。遊矢の演劇サークルの練習を見てから一緒に帰るのは、ユートの日課になっていた。
時間はもう20時は回っている。周りには子供は勿論、犬の散歩をする人の姿も、カップルの姿すら見えない。会話を交わらすこともなく、2人は並んで歩いていた。
いつもは遊矢が話始め、ユートが相づちをうつ。端から見れば遊矢が一方的に話しているだけだが、ユートはその関係が心地よかった。
しかし今日は遊矢が何も言わない。電灯の点滅する音が響き、物悲しさを助長させる。

「なぁ。」

遊矢がやっと口を開いた。緊張で固くなった言葉に、ユートは横を盗み見て首を傾げた。

「俺たち、付き合い始めて結構になるよな。」

「正確には5年と3ヶ月にはなるだろう。」

正確に淡々と答えるユートに、遊矢が目を見開きへらっと笑った。

「ずっと考えてたんだ。まだ早いかもとも考えた。」

肩からかかる鞄の紐を握りしめた遊矢の表情は真剣そのものだ。

「俺に相談すればよかっただろう。」

「これは出来ないよ。だってユート、怒るから。」

「怒られるようなことをしているのか。」

目を細めて遊矢を睨み付けると、ちらりとユートの方を見て冷や汗を流しながら、不自然に明後日の方向へ向いてしまった。

「そうじゃなくて、その...」

「話せないというのは、後ろめたいことがあるということだろう。」

ポケットに手を突っ込み、早足にるユートに遊矢は焦った。慌てて駆け寄り手を伸ばすとヒラリと避けられてしまった。一瞬振り返ったユートの顔は笑っていた。

「俺も関わることだろう。まとまっていなくてもいい。話してくれ。」

速度は落ちたが、ユートの足は止まらない。

「あのさ!」

先程と違う、決意の籠った強い音色がユートの足を止める。電灯の下で振り返ったユートの顔はいつものうに無表情だ。
昔はもっと幼かったが、月日が少年たちを大きくした。体も心も感情もこの決意も。昔の自分達が知ったらきっと驚くだろう。

「俺たち、結婚しないか?」

しまった。
最初は「同居しよう」と言うつもりだった。しかし慌てたせいもあって思わず直接的なプロポーズをしてしまった。
もうやけくそだ。
緊張した堅い面持ちと遊矢はポケットから1つの指輪を取り出した。しかし周りは真っ暗なためによく見えないというのが本音。ユートも目を細めて渋い顔である。

「...もっと近くにきてほしい。」

「あ、ごめん。」

眼鏡をかけ直しす姿に数年前から目が悪くなっていたことを思い出す。主人に呼ばれた犬のように、遊矢は素直にユートの元へと走りよる。 緊張した堅い面持ちと、掌に乗せられた1つの指輪。鈍く光る赤はルビーだろうか、いや大学生の身である自分達には宝石なんて買う余裕はない。

「安物だけど、バイトして、買った。」

そのまで言い終え、遊矢は恐る恐る顔をあげる。ユートは何も言わずに指輪を見つめていた。
男同士の異端な恋である、まさか結婚まで飛躍するとは思わなかっただろう。遊矢自身もそうなのだから、いきなり言われたユートは思考停止をしてもおかしくはない。再び沈黙が訪れ、電灯の音だけがうるさく響く。相変わらず夜の公園には誰もいない。車の音もしない。まるで2人の世界に閉じ込められたようである。
逃げ場などない世界に。

「...もし断ったら?」

覚悟はしていたが、ユートの口からは聞きたくなかった。目を伏せながら遊矢は無理に笑顔を作り、ユートを真っ直ぐ見つめた。

「プレゼントにする。好きなところに付けてくれたら嬉しいかな。」

泣いてはいないだろうか、声は震えていないだろうか。せめてユートに罪悪感を植え付けまいと笑顔を続けるが、限界も近い。

「じゃ、じゃあ俺先に帰るよ!」

返事を聞くのが怖い、直接的な拒絶を聞くのが怖い。昔よりは精神的に成長したとは言われるが、長年連れ添ったユートのことではまだ臆病になってしまう。

(やっぱり、言うんじゃなかったかも)

この関係を崩してしまったことに後悔しか湧かない。踵を返し、慌てて家へと逃げ帰ろうとすると、腕を強く捕まれた。勿論ここにはユートしかいない。

「好きなところに付けてほしい。」

「え。」

「遊矢の好きなところに付けてくれ。」

差し出された左手に、遊矢はパニックになってしまった。何を言われたのかわかっていないというのもあるが、これは遠回しのOKなのだろうか。上目使いでユートの顔色をうかがうが、無表情で自分の手を見つめるだけ。怒っているのではない、とわかるがそろそろ怒りだす気配はしている。ユートは気が長い方ではない。
意を決して左手を取り、薬指に嵌める。ただただ何も言わずに眺めていたユートだったが、ここで始めて表情が変わった。

「良くできました。」

やはり試されていたのか、と遊矢は呆れると同時に安堵した。優しい顔で、子供をあやすように頭を撫でられる。「もう子供じゃない!」と怒りはするが、気持ちがいいのは事実。ついつい身を委ねてしまう。
しばらく撫でられているうちに、少し眠気に教われた。過度な緊張とサークルでの疲れが鉄砲水のように押し寄せてきたせいだろうか。へたりこむとユートが肩を支えてくれた。情けないが睡魔には勝てない。そのまま肩を借りていると、耳元に息が吹きかかった。

「さっきの台詞、よく聞こえなかった。もう一度言ってほしい。」

「ぃひゃっ!?」

間抜けな声が上がってしまい、たまらずユートが笑い出す。耳を押さえて真っ赤になるどころが、腰が抜けてへたり込んでしまった遊矢をからかい、また耳に息を吹きかけると「やめろっ」と駄々っ子のように手を振り追い払おうとする。それを軽々と避けて、耳を唇ではさむとついには声にならない悲鳴が上がった。

「〜〜!」

「聞かせてくれるまでやめない。」

こうなればユートは強情だ。何度か遊矢も立ち向かってはみたが、勝った試はない。しかも今回は弱点である耳を重点的に責められては抵抗する気力すらわかない。「わかった、わかったから!」と強く肩を押せば、強気なユートの満足げな顔。全く、何年たってもこの笑顔には敵わない。

「俺と…その、結婚してほしい。幸せにするから。」

月並みなセリフではあるが、真剣な遊矢の言葉にユートも静かに目を閉じ吟味する。飾り気がない分、良さがある。しかし、ユートは返事より先に首を横に振る。それもまた否定の意味、と取った遊矢が泣きそうになり、慌てて「嬉しい」と短い返事だけは返す。

「でも"幸せにする"なんて不確定な約束はするものじゃない。"お前となら、どんな地獄でも耐え抜いて見せる"。俺はその"覚悟"のほうが好きだ。」

バチバチと音を立てて点滅していた街頭が、いよいよ力尽きてしまった。
月に照らされ逆光を浴びるユートは、慣れていない目では表情が判別できない。笑っているのか、怒っているのか、泣いているのか、楽しんでいるのか。ただ、まっすぐと遊矢を見つめて手を差し出した。

「俺と一緒に、地獄へ赴く覚悟もあるか?」

「それって…」

「ただの比喩だ。気にするな。」

慣れてきた夜目で捉えたユートは、笑っても、怒っても、泣いているようにも見えた。

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いいネタがTLにあったので

15.10.18




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