ゆぎお | ナノ



イカロスにはならないで


ああ、落ちる、落ちる。水面の底へ。
なにも見えない世界。上から見ると美しい湖も、一度覗き混めば闇の世界だ。光は離れていき、どんどん深みへと飲み込まれていく。
体なんて動かない。動いたとしても、ここまで深く沈めば戻れるとも思えない。
落ちる、落ちる。

「ユート!」

声と供に突然光が強くなる。闇の世界に不釣り合いな、温かい手が冷えてしまった腕を乱暴に掴み引っ張りあげる。
光が近づき暖かくなる体。光に捕まれているところは特に熱かった。

*

「びっくりしたよ..猫を助けに飛び込んだのに、上がってこないんだから。」

気管に入った水を半ば乱暴に吐き出す。全身びしょ濡れになりながら、張り付いて煩わしい服を睨み付ける遊矢。ユートは大の字になり、何も言わず洗い呼吸を繰り返すだけだ。
傍に寄ってきた猫が、心配そうに鳴いた。

「体が、思ったより動かなかった。」

「きっと、疲れが貯まってるんだよ。」

「そうかもしれない。」

ユートは焦点の合わない目で、太陽だけを見つめる。
眩しい。しかし温かい。いつも近くにあるため、ありがたみがわからなかったが、こんなにも素晴らしい存在だったなんて。

「もう1人で無理すんなよ。」

タンクトップを脱ぎ、絞り終えた遊矢が笑顔で手を差し出してくる。
遠くても不安になるが、近すぎても熱くて眩しすぎる。
目を細めて差し出した手を、いとおしそうに、優しく取ると遊矢は満面の笑みを見せた。
イカロスの蝋の翼は溶け始めていた。

+END

++++
【ゆやユト語り】どちらかが海や川に落ちて運悪く足を痛め溺れてしまった時について語りましょう。

別れが近いという比喩です(説明しないとわからない)

15.10.16



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