ゆぎお | ナノ



昼寝日和


「ヨハン、ヨハンー!」

この島の一角にある森の中、十代は叫びながら歩いていた。
今は冬だが久しぶりの暖かい日。木の葉がない分、日射しが遮られず心地よい。『昼寝もいいな』と頭に過るが、先にあの自分に似ていると言われる能天気に文句を言うのが先だ。約束をしていたのに、一時間も遅刻をするとは思わなかった。

「どこいったんだよ、もー…」

文句を言いながらも周りに目を光らせる十代に、相棒のハネクリボーが苦笑する。
ここまで、十代は色んな人に聞いた。ブルー寮生徒、他の留学生、仲間や弟分――そして更に森を徘徊して時間を浪費。もう何時間経ったかもわからない。
でも、方向音痴の彼のことだ。こういう迷いやすいところにフラフラと入り迷っているかもしれない。そう勘が言っている。
あれから歩き出して三十分は経っただろう。まだヨハンは見つからず、サボる時には幾度も感謝した広い森が今日は憎らしい。

「おーいヨハンー!!」

大声で叫び続けでも相変わらず返事はない。

「しょうがねーな。…今日は諦めれるか相棒。」

『クリ〜。』

「明日文句言ってやろうぜ。」

実はもう夕方。昼に探索を始めたから、寧ろよくここまで頑張ったと言える。これが愛のなせる技だと胸を張ってもいいだろう。微かに淋しそうな笑顔を浮かべる十代に、ハネクリボーも悲しそうに鳴く。そんなハネクリボーが、いきなり反応を示したと思えば木々の間へ入っていってしまった。

「あ、おい!」

十代も慌てて追うが、精霊のハネクリボーと違い木々という障害物がある。あっという間にハネクリボーが木々の中へと消え見失ってしまった。

「相棒ー!?」

ヨハンだけではなく、相棒のハネクリボーまでもいなくなったことで、十代に不安が過ぎる。独りというのは人を不安にさせるものである。

(何を見つけたんだ…いやそれより、獣に食べられたりしたら…)

カードの精霊だから、そのような心配が無用なのはわかっている。だが相棒に甘い十代はいささか混乱していた。もしかして、もしかしてと最悪の事態が頭に浮かんでは消え浮かんでは消え、蒼白とした瞬間だった。

『クリ!クリクリ!』

『ルビビ!』

聞き馴染んだハネクリボーの声と、もう一匹はヨハンのルビーカーバンクルの声だろうか。
慌てて声を頼りに木々をかき分けると、二匹は取っ組み合いをしてじゃれあっていた。十代は安堵の笑みを浮かべた。

「相棒。それにルビー!!」

『クリ♪』

『ルビビ♪♪』

十代を見つけ、嬉しそうに跳ね回るルビーカーバンクル。
ハネクリボーと十代の顔を交互に見つめると、何かを思い出したように踵を返し、森の奥へと入っていってしまった。

「またかよ〜!」

十代は体力に自信がある。だが探したり追い掛けてばかりで気が滅入ってはいる。しかしそんなことは知らないルビーカーバンクルの歩みは遅くはならない。自分のベースで、しかし時折十代を待つ仕草を見せて、進むこと僅かな距離。滝の音が聞こえたところで、ルビーカーバンクルは足を止めた。

「ここは…、あれ、ヨハン?」

滝の近く、木の根本にもたれ掛かるようにしている鮮やかな青緑の髪の少年。今日のデュエルの約束をすっかり忘れていた、薄情だが親友兼恋人のヨハン・アンデルセンだ。

『あら、十代。ごめんなさい。』

「アメジストキャット。」

『約束の時間まで私達とここで話してたのよ。だけど、この子ここで昼寝しだして…』

『起こそうとはしたが「十代、あと少し…」って。拍子抜けさ。』

「はは、ヨハンらしい。」

アメジストキャットとサファイアペガサスが、溜め息と苦笑が交ざった笑いを浮かべた。つられて十代はから笑い。当の本人は、幸せそうな笑みを浮かべるだけで目を覚まさない。

「ふわぁぁ、安心したら眠くなってきた…」
大きな欠伸を漏らす十代。自然と足はヨハンの元へ向かい、寄り添い座り込む。

『十代。こんなところで眠ると風邪を――』
「大丈夫。ヨハンと暖めあうからさ……ふぁぁぁ。」

呆れたアメジストキャットや、他の宝石獣とハネクリボーが見守る中、十代はヨハンに手を伸ばす。ヨハンを抱き寄せ、守るようにしながら目を閉じた。



**



「ん…、」

ヨハンが目覚めると、もう空には夕焼け。体が感じる暖かさのせいかまだ覚醒しない頭で、ここまでの経緯を思い出して。

(確かここで、皆と時間まで話そうとして……時間!?)

重要なことを思い出して体を上げようとした。が、体が重い。何事かと目を走らせると見覚えのある赤。ヨハンに腕を回し、拘束する形で、器用に木にもたれ掛かっていた。

「じ、十代!?」

体を勢いよく起こそうとしたせいで、倒れそうになる体を間一髪で支えた。大切な人を怪我させなくてよかった、とまずは安堵の溜め息。
だがこれだけ騒いでも起きないのは、ヨハンを探し回っていた疲れのせいだ。ヨハンもそれを察して困り顔になる。

「悪いことしたなぁ…デュエルの約束してたのにな。」

申し訳なさそうに頭をかき、眠る十代を見詰める。起こして謝った方がいいだろうか。それともこのまま寝かせてあげるのが得策か。家族たちはやれやれ、と首を振るだけだ。

『ルビ、ルビビ!!』

「十代は怒ってなかったって?それならよかった…ふわぁ、」

十代に抱きしめられている温もりに、二束眠気が襲ってくる。ああ、十代の匂いだ。安心と安堵で再び眠気生まれ、欠伸を一つ。十代にもたれかかるようにして再び目を閉じた。
『おい、ヨハン!本当に風邪をひくぞ!!』
トパーズタイガーの怒声が聞こえたが、微睡みの中のヨハンからしたら子守歌のようなものだ。

(起きたら、謝ろう)

謝って、望むことをしてやろう。十代の寝顔を最後に、意識は微睡みの中に消えていった。呆れた顔の精霊たちは、すぐにやれやれと笑みを浮かべて二人に寄り添うように身を寄せてくる。精霊たちには触れられないが、温もりを感じる気がする。
もうすぐ日は沈むだろう。



***


「馬鹿ね。朝まで寝過ごして、仲良く風邪を引いたですって?」

明日香の呆れた声とは裏腹に、額に当てられたら手は優しい。傍にも心配そうなレイと十代の弟分達。

「あ、あはは…」

「笑って誤魔化さないで。全く貴方達はいつもこうね。」

フウと溜め息をついて腰を上げ、「トメさんのところで薬を貰ってくるわ。」と明日香は行ってしまった。レイも「元気の出るものを作ってくる!」と駆け出した。残されたのは男子だけだ。

「兄貴、大丈夫かドン?」

「ここまで仲が良いともう呆れたを通り越して凄いよ。」

呆れた翔の言葉に、二人は赤い顔で向き合い微笑んだ。

+END

++++
十ヨハ十…かな…っ

修正14.10.12安心できる場所



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