見上げるには寒いくらい いい青だ



行く宛てなんてない。夜までぶらぶらと歩き回ったわたしは疲れてネカフェで夜が明けるのを待つことにした。
帰る気になれなかった。勝己くんの腕が透けていたこと、そう簡単に受け止められない。年末から消えかかっていたらしい。わたしを抱きしめるとき、勝己くんの両腕はいつも存在していた。ということはきっと、透けたり戻ったりしている。気づかなかった。気づけなかった。
さっきは、悔しくて涙が出たんだ。悲しかっただけじゃない。わたしが幸せだなんて思ってる間にも、勝己くんはきっと悩んでいたんだ。そんなの馬鹿みたい。

明日が土曜日でよかった。こんな状態じゃ、仕事なんてもっと行けなかった。




「…帰りたくないなあ」

朝5時、ネカフェを出たわたしはぶらぶらとその辺を歩いた。コンビニでビールを買って、通りがかった公園でプルタブを開ける。
一人になったら少し落ち着いた。勝己くんがわたしのために言わなかったことくらい分かっていたから。病人に八つ当たりしたなんて恥ずかしすぎる。

ザリッ。という石の蹴られる音と、人の気配を感じた。勝己くんかと思って顔を上げたけれど、知らない男が近くに立っていて、目を逸らす。そうだよね、来ないよね。熱があるんだもん。来れるわけない。それに幻滅しているかもしれない。

「おねーさん一人?こんな時間にどうしたの?」

めんどくさいなあ。朝に一人でビール飲んでて悪いかよ。

「ねー無視?どっか行かない?」
「行かない」
「冷てぇ!泣いた跡あるけど失恋でもした?オニーサンが慰めようか」

うざい。放っておいてよ。話す気にもなれず無視を決めきむわたしの隣に座った男。こんな時間にナンパなんてしてんじゃねえよ。全身からお酒の匂いを纏っていて、思わず眉間にシワが寄る。クソ酔っ払いが。

「…どっか行ってくんない?」
「え無理無理、遊ぼうよ」
「ちょっと、触んないで」
「いいじゃん♪」

肩に触れられそうになった時、物凄い音と共に酔っ払いが吹っ飛んでいく。そのまま気を失ったらしい、ピクリとも動かない体。

「手ェだすな殺すぞクソモブが」

勝己くん。
息切れをしている。走ってきたんだろうか。探してくれたんだろうか。熱は大丈夫なんだろうか。色んなことを頭の中で考えてみたけれど、何を言っていいのか分からなくて押し黙る。
そんなわたしに近づいた勝己くんが、目を釣り上げてわたしの頬を掴んだ。

「っざけんな馬鹿女!!!」
「え、」
「携帯くらい見ろや!朝まで何処ほっつきまわってたんだよ!?」

携帯、そういえば見てなかった。あわててポケットから携帯を取り出す。ロック画面を解除すれば、数え切れないほどの不在着信と、メッセージ。【どこ】とか【電話でろ】とか昨日の夕方から今日にかけて何十回もの通知が入っていた。

「…ごめんなさい」
「心配、かけさせんな」
「うん、ごめん」

腕を引かれて、強く抱きしめられた。こんな真冬に少し汗ばんでる勝己くんの背中に腕を回す。

「マジで次離れたら殺す」
「…はい」

残りの時間は大切にしよう。悔いのないようにしよう。近いうちに来るであろうその時に、ちゃんと笑ってお別れできるように、たくさん思い出を作っていきたい。
熱は自力で直した、と言われたけれど、すぐにふらついてまた高熱を出した勝己くん。結局この土日で死ぬ気で治すことにした。


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