2012/10/21 ディオとジョナサン
横を歩くんじゃあないぜ、と言って睨みを利かせてから鼻で笑う。ほんの少し驚いたような表情を浮かべる間抜け面に苛立ってしようがなかった。こんな馬鹿とこれからともに過ごさねばならないだなんて、とんだ屈辱だ。なにもかもを持ちえているのに、なにもかもを持て余しているような、そんな人間性に腹が立つのだ。
「わかったよ、ディオ。それなら少し後ろを歩いてもいいかな」
どれだけ言ったところで、めげずに笑顔を向けてくるところに虫唾が走る。唾でも吐いてやりたい、と思いながら無視をするとそいつは勝手に少しうしろを歩き始めた。なんて苛立つ奴だろうか。


2012/10/20 ギーマとアーティ
「そんなに見られるって、良い気分とは言えないぜ」
もしや君がとびきりの美女であれば話は別だけれどね、と言って鼻で笑った彼はそのずいぶんと綺麗な顔を下品に歪ませた。彼のこういうところがぼくはつくづく嫌いなんだけれど、彼はもちろん知っていてこういうふうに振舞うのだから、たまったもんじゃない。「ずっと黙っていれば、すこしはいいのにねえ」と言うと「それはどうも。君の繊細な顔だって、なかなかだよ」と返された。まったく、腹立たしい。


2012/10/19 ミスタとジョルノ
シャワーなんか浴びなくていい、というその男に、ぼくはつい思い切り顔を歪ませてしまった。しかしと思う。ぼくはあまりにも疲れ果てているし、最後にこの身を清めたのは二日も前だ。ぼくとしては、一刻も早く体を洗って、さらにできることなら食事を摂りたい。空腹を訴え続ける体は今にもガラガラと崩れ落ちそうだった。とてもじゃないが振り払えないほどの力で掻き抱いてくるその男に、半ば懇願するようなかたちで声をかける。
「ミスタ、あなたが馬並みのタフガイだということは十分理解しているつもりですから、どうか少し待っていただけませんか」
「今のおまえじゃねえと、意味がないんだよ」



2012/10/18 ジョルノ
その凛とした佇まいの細身をアームチェアに沈ませていた少年は高潔極まる表情をぴくりとも動かさずに立ち上がると、男を見下ろした。禿かけた額に脂が滲む様は死期と欲望の匂いを漂わせ、それが更に彼の機嫌を損なわせているようでもある。静かに呼吸を繰り返した後に、ぼんやりと男を見つめた少年は、一度だけその名を呼ばれたが、まるで聞こえていないようにして何も反応しなかった。そうして、暫くすると指を鳴らし、すぐ外に待機していた遣いの者を部屋に招き入れた。その手に抱えられたコートとステッキに、男もまた立ち上がる。金糸の縁取った硝子細工が開け放たれた窓からの光を浴び輝いている。
「ああ、もう下がってよろしい」
「…しかしね、こちらにもメンツってものが」
「良いですか、もう一度しか言いません。このぼくが、下がってよろしい、と言ったんです」



2012/10/17 市河とフミ
シャワーのように地面を打つ雨粒はそれこそ平等におれと彼女を濡らしていった。恐ろしいくらいに視界はその正確さを失い、嗅覚は死んでいった。遠くを走るバスの吐き出した腐ったガスの塊さえもこの地に染み込んだ。
「犀ちゃん」
その学生服の白いシャツとプリーツスカートに目一杯雨水をため込んで立ち竦んでいる少女を眺める。横たわった豚のような体からは体液が溢れ、それを雨がどこまでも運んでいった。少女の白いのどからすり減るようにして溢れたか細い声に答えるようにして、目一杯の笑みを作る。
「フミちゃん、怪我はないかい」
「犀ちゃん、ごめんなさい、わたし、」
「謝らなくっていいよ。ほんとうだよ」
だってこの雨がおれの罪も醜い返り血も歪んだ笑顔もなんだって洗い流してくれているんだ。ヘコんだ頭部から覗く灰色の脳みそを踏み潰す。捲れたスカートを直すでもなく、ただただおれの手に握られた、折れて使えなくなった傘を見つめている少女に、この時になって初めて少しだけの性欲を覚えた。それだけだった。




2012/10/17 ディオとジョナサン
「ぼくの体すらあげたというのに、きみはまだ足りないのだね」



2012/10/17 地下鉄
埃の味がする空気の中で深呼吸をすると落ち着く、と言えば弟はにこりと笑った。「ぼくもだよ」と言って。



2012/10/16 木田と橘

「ご存知かと思いますが、ぼくは、きみのことを好ましく思っていません」
如何にも苦々しい表情を浮かべたそいつは一定の距離を取っておれを睨みつけていた。正直、喧嘩なんて日常的に珍しいことでもないし大した意味を持っているわけでもない。自分から喧嘩を仕掛けることもない。その全てが受動的で、無感動だった。それを知ってか知らずか、その嫌悪を隠しもしない男は続けざまに口を開く。
「どうして、犀くんがあなたのような人と一緒にいるのか存じませんが」
「はあ」
「とてもお似合いとは思えません」
名前はなんだったか。夕陽の差し込む教室の一角で行われる途方もない渦に巻き込まれていると、なにもかもが馬鹿げているようだった。名前は思い出せそうにないし、これ以上事態が進展することもきっとないだろうと思えた。



2012/10/16 カミツレとアーティ
「あした、本当に行かなきゃいけないのかい」
「来てくれないの?あしたはわたし、人生でいちばん美しくなるわ。誰にも負けないのよ、例え世界中のどんな美人と比べたってね」
「ぼくはきみが好きで、誰よりも幸せになってほしいと願っているんだ」
「なら尚更」
「けれど、どうしよう。ぼくはきっと祝福なんてできそうにないんだ。きみのことを考えるだけで、泣きそうになるんだよ」



2012/10/16 ミナキとマツバ

おかしな格好をした古くからの友人の突然の来訪に驚くでもなく、ああ久しぶりだなと思うようになりどれだけ経つだろう。いつからいたのか分からない彼は疲れ果てているようで、テーブルに伏せた細身はぴくりとも動く気配がない。力を込めて思い切り蹴ってしまえば、呆気なく壊れてしまいそうだった。いつだって綺麗に手入れのされているその上品なマントもスーツも、今ではみっともなく皺くちゃになっている。
「こんなところで寝ていないで、布団を敷いてあげようか」
「マツバ、近くにいるのか」
「すぐそばにいるとも」
「わたしには、やはりおまえしかいない」
「きみってほんとうに都合がいいのだから」



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