Clap



拍手お礼(桜庭春人-@)

私は、桜庭くんが好きです。
中等部の頃から好きでした。
モデルさんをやっていた桜庭くんはもちろんかっこよかったし、モデルさんになる前の桜庭くんもやっぱりかっこよかったです。
アメフト一本に絞って一生懸命部活動に励む姿は、以前にもまして大きく見えます。
でも、私は桜庭くんとお話したことがありません。
同じクラスになったことすらありません。
だから遠くから見ているだけです。憧れです。


―――それを前提として。


「……」
「…ん………」

私は何度目かの身動ぎをしました。
桜庭くんは小さく声を発しただけでした。
私の肩に(正確には顔にも)かかっている色素の薄い髪がやんわりと揺れて、また規則的な動きを始めました。
私は困ってしまって、小さく息を吐きました。

今日は月に一度の学年集会です。
前提の通り全く桜庭くんと接点がない私ですが、この時だけはいつもより近い場所から彼を見つめることができます。
桜庭くんと私の席は隣同士なのです。
隣のクラスですが、こういうこともあるのです。この幸運にはこれまで何度も感謝しました。
今日はその桜庭くんが学年主任の先生のお話の最中に寝てしまったのです。
体の右半身に体重がかかって重いのですが、それ以上に全身が暑くて暑くて仕方がありません。
あまりの恥ずかしさに顔から湯気が出そうです。

「あ、あの…」
意を決して私は話しかけてみました。
これまでの片思い人生で初の試みです。
「……」
桜庭くんはうんともすんとも言いません。
すーすーと寝息をたてています。
とっても気持ちよさそうです。
できることなら起こしたくないです。
部活動が忙しくて、休む暇もないことはよく知っていますから。
ですがこのままでは先生に見つかって怒られてしまいます。
「さくらば、くん?」
今度は勇気を振り絞って名前を読んでみました。
震えたようなか細い声が出て、自分でもびっくりしてしまいました。
こんな声では桜庭くんが起きるはずはありません。
案の定、彼はぴくりとも動きませんでした。
今度は息をしっかり吸い込んで

「あの、桜庭くん!」

それからちらと桜庭くんの顔を覗きこみました。
わぁ。
こんなに近くで見つめたことはなかったので、改めて見惚れてしまいます。
肌が綺麗で鼻筋が通っています。絵になる寝顔、とはこういう顔のことをいうんでしょうね。
女子の私が見てもとても美人だなぁと感心してしまいます。
桜庭くんの頬には、長い睫毛が影を作っていました。
その影がゆるりと揺らぎます。

「あ…」

私は慌てて口元を押さえました。
一瞬だけ、桜庭くんと目があったような気がしたのです。

綺麗でした。
とってもとっても綺麗でした。

私が今まで見てきた桜庭くんはやっぱり遠くて、その瞳をちゃんと見たのは初めてで。
音が出るくらいの勢いで、私は顔を伏せてしまいました。
ど、どうしましょう。私が見ていたこと、気付いているでしょうか。
自分の心臓が早鐘を打つ音が聞こえます。
もう桜庭くんを起こそうなんていう考えはどこかへ吹き飛んでしまいました。
顔を、見られてしまったでしょうか。
絶対間の抜けた顔になっていました。
それから真っ赤になっていたはずです。恥ずかしいです。
でも、でもすごくかっこよかったです。あの一瞬の表情が自分の頭の中で延々とリフレインしています。

わぁ、わぁ。

心の中で気持ちがめちゃくちゃに跳ね回って、とにかくそれを押さえつけるのに必死です。
いつの間にか学年主任の先生のお話は終わって、生活指導の先生が登壇していました。
でも、それどころではないのです。
私はもう顔を上げることができなくなってしまって。
先程より心なしか呼吸が小さくなった肩口の影を確認することすらできません。
ただひたすら、今日のこの時間が過ぎるのを、息を潜めて待っていました。


ああ、早く、早くどうにかならないでしょうか。




彼side



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