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失言、転じて - 03



「突然すんません。よかったらこれ、みなさんで」
「え、あ、うん……これはご丁寧に……」
「かっ……爆心地くん、菓子折りなんて知ってたの……!?」
「どーゆー意味だコラ」
「ごめんなさい」

幽姫の上司が同席している手前声は控えたのかもしれないが、睨んでくる視線は割とキツめだったので、とっさに謝っておいた。いつもの調子で思ったこと口にしたのは良くなかったのかもしれない。

しかし、何も言わない上司も目を丸くして包みと爆豪の顔をチラチラ伺っているので、多分幽姫と同じような感情であると思われる。怖そうと先刻呟いていたくらいだし、『敵向きヒーロー』なんていう評判に引っ張られるところがあったに違いない。
それなのに押しかけて来た青年は、報道上で見かける刺々しいコスチュームではなく意外ときちんとしたジャケット姿で、軽い謝罪に合わせて差し出されたのは百貨店の包み紙。今のところ敵向き感は特になく、むしろ最低限の礼儀は弁えた若者という風に映っただろう。

「ええと、まあ、座ってくださいね……」

上司は依然戸惑いつつ、とりあえず席の一つを指して自分はその向かいに着いた。幽姫の所属するヒーロー事務所は職員も少ない小さな事務所なので、応接室というよりは会議室のような部屋での面談である。
爆豪はどうも、と呟いて――それにも上司はギクリとしたが、それはさすがにビビりすぎである――大人しく席に着く。

さて。

「ほら、ゴローちゃんもおいでよ」
「あー……はい……」

上司にちょいと手招きされて、少し迷ってしまった。のを、当然彼には見抜かれる。

「早よしろ、お前こっちだろが」
「う……失礼します……」

いや、なんで本来ホスト側の幽姫がそんな言い方をしてしまったのか、違和感。何緊張してんだ、とでも言いたげな視線から目を逸らしつつ、幽姫が座ったのは、爆豪の隣だった。

「ん……?」
「失礼しまーす。お茶をお持ちし……ん?」

幽姫の動きに上司は首を傾げた。ついでにタイミングよく会議室に現れた先輩――非常識な爆心地に一言物申したいとかで、お茶汲みを買って出た――も、一見してすぐ気づいたようだった。

そして、これまたタイミングの良い一言を。

「――なんです、この結婚の挨拶に来ましたみたいな席順?」
「先輩が空気読みすぎてて怖いです、私」
『え』

否定もしない幽姫の言葉に、事情を知らない二人は目を瞬く。
目を細めて様子を伺っていた爆豪が、それを見計らって口を開いた。

「ちょうど良いんで、早速本題に入らせてもらう――俺と幽姫の婚約を公表したい。そっちの事務所としての許可を、もらいに来ました」

*  *

『バクゴーにめっちゃ怒られた……けど結果オーライってやつじゃん!?ほんっっとおめでとう!やっと公に自慢できて嬉しいぜ!夫婦二人三脚でがんばってくバクゴー事務所のこと、みんなも応援してやってくれよな!!』

『会見びっくりしました!チャージズマやっぱり怒られたんですね笑』
『華麗に爆心地の地雷を踏み抜いていくスタイル』
『ヒント:二人三脚』
『え、ゴローちゃん事務所異動?まじかー』
『おめでとうございます!』
『チャージズマ結婚してー!』

「――あンのアホ!!反省してねーのか!?」
「まあ、うん、上鳴くんらしいと思うよ」

隣でわなわなと肩を震わす爆豪がスマホを握り潰す勢いなので、やんわりフォローしておいた。
今後は上鳴に情報を与える時はもう少し注意する必要がありそうだ。

「あ、先輩からメール」
「なんだって?」
「『事務所のサイトで異動予定について言及しとく』だって。え、爆豪くんの事務所もう出してるって言ってるけど」
「さっき指示出した」
「早いなぁ」

さすが、爆豪が独立時に自ら引き抜いてきた部下達。トップの動きの早さもさることながら、それにすぐさま対応できる事務員達の仕事の早さに驚いた。
それに比べて幽姫はときたら、先輩と爆豪からほぼ同時に『事務所異動の予定がリークされた』と伝えられるまで気付きもしなかった。通知は完全にオフにしていたのである。

ちなみに、事務所の異動についてはまだ諸々の手続きが始まったばかりで、ある程度話がつくまでは公表しないはずだったものである。

「クソが……今度こそ許さねえぞあの野郎……!」
「まあまあ、まあ。今回はそんな大丈夫だよ、多分。お互い早く対応できたし」
「対応してねぇ奴が言うな」
「た、確かに」

早く動いているのは幽姫ではなく幽姫の先輩だった。棚に上げてしまった。出勤したら大変感謝しなければならない。

「こうなりゃさっさと体制整えねーとな……ソッコー書類準備させて、明日にでも……」
「……ふふ」
「あ?何にやけてんだ」
「うん、私は恵まれてるなぁと思っただけ」

『記者会見見ました!ゴローちゃんおめでとうございます!』
『最初はイマイチ想像つかなかったけど、二人並んでるの、確かにお似合いでした』
『爆心地がまともに話しててビックリした!それだけ本気なのかなって思えて、すごい納得した』
『以前ゴローちゃんに助けられました。あの爆心地と、って聞いた時は不安になりましたが、二人が本当にお似合いで、よかったです。お幸せに!』

昨日の夕方、婚約を発表した記者会見の後から、ひっきりなしだった。
当事者であるはずの幽姫よりも先に、こちらを心配してくれる人もたくさんいて。単純に喜んでくれる人も、祝福してくれる人もたくさんいて。心ないことを言っている人も、多分どこかにはいるのだろう。そんなものが霞むくらい、幽姫はとても恵まれている。

眉をひそめながら、自分達の今後について頭を悩ます彼は、一番大好きな人。上鳴の余計な一言に気づいてすぐ、友人二人に協力を依頼して個人の特定を遅らせ、その間に記者会見の準備と相手方の事務所に筋を通した。気が回る、仕事が早い。ただし、少し手が早すぎかな。

「ね、勝己くん、私は何をすればいい?」
「あ?」
「二人三脚なんでしょう。私だけ遅れてちゃダメだと思って」

不機嫌そうだった爆豪はパチリと目を瞬いて、ふと口元を緩めて呟いた。
「気が早いっつの」

失言、転じて、「幸せになります!」



しばしポカンとしていた先輩が、やっと慌てた風に言葉を発した。

「え、え?ゴローちゃん、だって、恋人いたよね?」
「あ、はい。高校からのお付き合いです」
「いや、でも……『家事もできて優しくてイケメンな彼氏』って聞いてたんだけど」
「お前、んな小っ恥ずかしいこと言っとったんか」
「ええー違うよ。話してたらなんか、そういう風に聞こえちゃったみたいで」
「余計タチ悪ィわ」
「でも実際家事できるし、顔も整ってるし、優しいところあるのも知ってるよ」
「はっ」

ちょっと肩をすくめて鼻で笑った彼を見て、幽姫の先輩と上司は『あ、これ事実だ』と察したそうだ。


→Re:えだまめ様



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