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針のむしろは誰のせい - 03



『やっぱイチャついてんじゃん!』
「違うよ、あれは〜!」

きゃーっと声をあげた芦戸と麗日に反論し、幽姫はつい赤くなった頬を抑えた。

「というか耳郎さん聞いてたの!?」
「やー、ごめんごめん、聞こえてきたの」

ついと視線をそらして、プラグを指に絡めつつはぐらかされた。完全に気づいていなかったので、この話は不意打ちである。

「霊現ちゃん、幽霊は得意なのにお化け屋敷は苦手なのね。驚いたわ」
「う、うん……初お化け屋敷も爆豪くんと一緒だったから、どうも面白がられてるんだよね〜……」
「爆豪ってそーゆーとこ突っつくの好きそうだもんね!」
「葉隠さん、それはちょっと酷いよ……」

まるで性格クズの男かのように聞こえる――実際幽姫以外の女子からすればそんなイメージもまだ拭えない――が、一応幽姫としては、良いところも知っているつもりなので弁明。

「そりゃ無理にお化け屋敷連れて行くようなところあるけど、ちゃんと前歩いてくれるし」
『おおー』
「怖かったら手も繋いでくれるし」
『おおー!』
「ちゃんと最後まで我慢したら、頭撫でてくれたの〜」

『やっぱイチャついてんじゃん!』
「イッ……誘導尋問!?」
「いや今のは惚気でしょ」

勝手にペラペラ話して真っ赤になるのは完全に自爆である。よかったねえ、と揃って生暖かい視線を向けられると居た堪れない。

「も〜!からかわないでよ……」

「――おいコラ、なんだこの集まりは」

そしてそんなタイミングで、彼が部屋から下りてきた。

「爆豪やっときたー!待ってたよー」
「あ?」
「ご、ごめんね爆豪くん。ちょっと手違いというか」
「あー?」

眉をひそめた爆豪に、他の女子が声を揃えて。


『私らも猫のパンケーキ食べたーい!』


「なっ……テメェバラしてんじゃねえよ!」
「バラしたんじゃなくてバレたの〜!」

そもそもパンケーキの話自体は爆豪がキレて怒鳴ったおかげで、結構なクラスメイトに周知されていたけれども。今日この時間だというのは昨日会話の流れでぽろっと零してしまったのである。
まさか便乗してくるとは幽姫も思っていなかった、油断していた。芦戸が両腕を上げて主張する。

「いーじゃん別に!材料はこっちで揃えたからさぁ」
「誰が作るか!」
「でも不思議なのだけれど、爆豪ちゃんと霊現ちゃん、結局二人で猫カフェには行ったんでしょう?なのにやっぱりパンケーキは作るの?」

相変わらず細かいところに気のつく梅雨ちゃんである。
ああそれは、と幽姫はあっさり答えてしまう。

「カフェのも美味しかったんだけど、爆豪くんが『俺のがもっとうまいわ』って」
「黙ってろクソ電波幽霊女――!」
「いたたた……」

どうやらこれもバラしてはいけないことだったらしい。とはいえガシィッと頭を掴んで力を込めるのは如何なものか。仮にも恋人のはずなのに。

「えーそれってどういう意味!?嫉妬的なアレ!?」
「毎朝味噌汁作る的なアレ!?」
「うっぜえ!外野はさっさと消えろアホ女どもが!」

キャーキャー声を上げる芦戸と葉隠は随分大興奮であるが、比例して頭を掴む手の力が強くなるので割と本気でやめてほしいところ。

そんな中、つまり〜、と呟いたのは麗日だった。

「――パンケーキは幽姫ちゃんだけ特別、ってこと?」
「は?」「え」

その発言で、幽姫と爆豪は一瞬、揃って動きを止めた。

んなわけあるか適当なこと言ってんじゃねえぞ殺すぞ!――というような返事は予想できたのだが――特別、ってそんな形容は――あまりに気恥ずかしくて、幽姫はまた頬を押さえた。

「ちょ、お茶子ちゃん……!それはさすがにやめよう……!」
「えーなんで?」
「なんでも……!」

そんな幽姫をちらりと見下ろし、爆豪はフンと鼻を鳴らして一言。


「――そーゆーこった。幽姫以外に割く時間ねえから。さっさと消えろ」


言いながら、ギリギリと掴んでいた手の力を軽くして、黒髪を整えるように撫ぜる指に思考が止まった。

「ヒュー!びっくりした!」
「それなら仕方ないねぇ」
「大人しく引き下がるわ」
やっぱり最初に声をあげたのは芦戸で、妙に微笑ましげな表情で笑ったのは麗日や蛙吹だ。

「材料どーする?砂藤に頼んでみる?」
「賛成ー!砂藤くんも上手そうだもんね!」
「良い案ですわ。私もお紅茶の準備を致しますね」
早速予定を変更して、耳郎の案に葉隠を始め皆賛成らしい。

八百万が両手を合わせて、では部屋に戻りましょうか、とあっさり引き下がって行った。
結局単に甘いものが食べたかっただけで、爆豪が作ろうが砂藤が作ろうが、彼女らにとっては大した違いではないらしい。

「えっ、ちょっ……!」
「テメェは大人しくしてろ」

思わず声をかけようとしたのに、爆豪がやっぱり上から押さえるものだから動けなかった。
もう!と振り返った幽姫は、普段は色白の頬を赤く染めて、爆豪をにらみあげた。

「なんであんなこと……普段は言わないくせに!」
「んなもん、そっちのがお前の反応が笑えるからに決まってんだろ」

その言葉通り口端をあげて笑う顔は、いつの間にか随分機嫌を直しているようだった。

――揃いも揃って。私のことからかって楽しまないでほしい……!


針のむしろは誰のせい


→Re:おから様



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