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似合いの二人 - 04



あっさりした口調で引き戻されたものだから、なんだか拍子抜けしてしまった。一瞬こちらの方がきょとんとしてしまって、幽姫がパチリと瞬きしたのを見てようやくハッとした。

「あ、いや、何つーか……ちょっと、インターン行って色々考えちまって……」

というより、先日の話だ。珍しい場所に呼び出されて不思議に思いつつ向かった先で聞かされた、あまりに重く暗く遣る瀬無い話。一人の少女を囚える闇の話。これだからガキは、と言い捨てられた言葉通り、切島には想像もつかないような現実の話。そして、おそらく近い未来で対峙することになる。

箝口令があるので詳しくは話せない。それを察したのかはわからないが、幽姫はそれ以上聞こうとはせず、そっか、と一言で受け入れた。

「ずっと気にかかってはいたんだけどさ」
「そうなの?律儀だね〜」
「で、まあ……今言っとかないと、俺また繰り返しちまうんじゃないかって、思って」

助けるために動けなかったから、その恐怖に打ち勝つための強さを目指した。
それでも助けられないものがあることは、そりゃ当然のことだけど――彼女は大事な友人だ、彼らが揃って幸せそうなら、自分もそれを祝ってやれるような二人だったんだ。

今度こそ、絶対助けなきゃいけない子がいる。それは切島だけの話じゃなくて、プロヒーロー達も、一度出会ってしまった緑谷達も、全員で救い出さなきゃいけない。今回こそは学生の勝手なわがままじゃなくて、ヒーローの一員として、やらなくちゃいけないことなんだ。
自分にできることがどれほどあるのかはわからないけれど、全力で立ち向かいたいんだよ。

「だから――俺、今度は絶対、助けるから」


そんな切島の言葉に、幽姫はまたパチリと瞬きした。またそれにハッとして、あれっと声が漏れる。

「なんで俺こんなこと霊現に言ってんだ?」
「え、知らないよ?」

二人揃ってキョトン顔を晒して、二人揃って首を傾げてしまった。
あれ、違うよな、俺謝らなきゃって思ってたのに、なんで決意表明みたいなことになってんだこれ――切島が自分で自分の言動に困惑し始めた時、またもやドンピシャのタイミングで低い声がした。

「テメェら何揃ってアホ面晒しとんだ殺すぞ……」
「わっ、あ、爆豪くん戻ってきたんだ」
「戻ったら悪いか!?」
「え、何怒ってるの」
「知るか!ウゼエ!」

知るかってこともないだろうに。爆豪はさっきよりも更に不機嫌そうである。
しかし幽姫が予想していた通り、本当に戻って来た。片腕に風呂の準備と、もう片方にはタオルケット一枚。

「お風呂上がったら勉強教えてね〜」
「うっせえな言われんでもやるわ!これ被って待ってろアホが!!」

幽姫の呑気な声がさらに機嫌を逆撫でしたようだったが、その割には言動が伴っていないのが切島にもわかった。

なんせ、キレ散らかしながらタオルケットを広げてショートパンツの膝にかけてやるという紳士的な行動である。対面の切島まで普通に驚いてしまったが、幽姫はというとちょっと首を傾げて。

「別に今寒くないよ?」
「黙れクソが爆破されたくなきゃ大人しくしてろ」
「ヒーローらしからぬ発言」

幽姫の言葉には一理あるが、お前ももう少し男心わかってやってもいいんじゃないか。気つかってんじゃん、いい彼氏じゃん――ただし最後に切島を思いっきり睨みつけるのはいかがかなものか。俺何もしてねえじゃん!

何はともあれ、爆豪に勉強を教わる約束は取り付けたし――爆豪のことだから何だかんだ幽姫と切島と二人対応してくれるだろう――元の目的は達成されそうだ。
風呂場に向かった爆豪を不思議そうに見送ってから、幽姫は切島に向き直った。

「よくわからないね、爆豪くんのキレるポイントは」
「んんー……」

同意するのはなんとなく親友に悪い気がしたので曖昧に声を漏らす。先ほどは『気にしない』と幽姫を称したが、これは単に『気づいていない』の間違いだったろうか。

「――ふふ、でも優しいでしょ〜?」

――と、思ったけど。
クスクス笑った幽姫はほんの少し頬を染めた。膝にかかったタオルケットの端をつまんで、嬉しそうにしている。一応、何でもかんでも気づいてないってわけじゃなかったようだ。

「へーへー、よかったな」
「……私ね、彼のああいうところも好きなの」

そう呟いた彼女が穏やかに微笑むものだから、思わず目を瞠った。そういうはっきりした言葉はあまり聞き慣れず、健全な男子高生たる切島はついドギマギしてしまう。

「爆豪くんの良いところって、本当わかりにくいから。他の人に、気づかれてないなぁって思うこともあるし、多分私も気づけてないことあるんだろうなぁって思う」
「あー、そうかも?」
「だから、そういうところ気づけた時は、なんだかすごく嬉しくなっちゃうんだよね〜」

嬉しそうに笑いながら、寒くないと言っていたのにタオルケットはかけたまま、ゆるゆる話を続ける。
それを見ていればやはり、こちらもなんとなくあったかい気持ちになってきて、やっぱ羨ましいなぁなんて思ってしまう。そんな二人。

「――うん、だからね、切島くん。私は感謝してるよ」

今度は穏やかな声色で、じんわり浸透するように、引き戻された。

「あの時助けられなかったのは私の方。切島くん達はちゃんと助けてくれたよ、私の一番大事な人」

本当は少し嫉妬してたくらい――と、幽姫は冗談めかして笑った。
そうか、そんな風に思ってたのか――助けられなかったって、同じようにお前も悩んだことがあったのか。

「だからそんな風に言わなくて良いよ。気負わなくて良いと思うな。切島くんなら大丈夫だよ――」

同じように悩んだ同士、それから良い友人同士。
幽姫はちょっとズレていて、気にしなくて気がつかないようなところもあるけど、素直で穏やかで、嘘や建前で適当なことを言ったりはしない。切島もそのくらいは知っていた。

「――今度も、助けてあげてね。応援する!」

切島達の抱えている事情なんて、わかったはずはないのに。にっこり笑って、拳を握って見せるのは少し似合わないけれど。

「――おう!ありがとな!」

同じように笑って拳を握って、そうしたらなんだか可笑しくなって、二人してケラケラ笑ってしまった。

似合いの二人

『課題終わんねぇ!助けて!』

――以下、未読のメッセージ――

『おい馬鹿、他人の女見てんじゃねぇよぶっ殺すぞ』
『あといつまで引きずってんだ気色悪い。誰もテメェに期待してねーわ、自惚れんなクソ髪』
『女々しいんだよ死ねボケ。わかったらさっさと課題終わらせんぞ』

→Re:たろ様



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