今でも君を、今からでも - 05



「轟!!」

相変わらずデカイ声で、夜嵐がまっすぐ俺に向かってきた。向かい合って、しばし。

「ごめん!!あんたが合格逃したのは、俺のせいだ!!」

また勢いのいい謝罪は驚くと共に、バツが悪かった。

「元々俺がまいた種だし……よせよ」

心の狭さと夜嵐は言ったが、それを言うなら、俺の視野の狭さが招いたことだ。

「おまえが直球でぶつけてきて、気付けた事もあったから」

忘れていたことがまだあった。親父を否定するために、目を逸らしてしまっていたこと、無視してしまっていたこと。彼女のことも、その一つだったのかもしれないと、今更気づくのは手遅れだろうか。

――『大丈夫!?夜嵐くん、焦凍くん!えっとー……!セメント、すぐ分解するから、ね!』

……手遅れかどうかなんて、多分、実際話してみてわかればいいことだ。少なくとも、試験が終わってすぐ駆け寄って来てくれて、他校生の俺まで助け起こしてくれた少女は――俺の大事な人だ。



「俺、今でもお前に隣にいてほしい。また笑ってほしいし助けてほしい。お前が笑うのが好きだったし幸せだった、忘れられなかった。これからも一緒にいてほしい。“許嫁”なんてしょうもない縛りはもう無いから、お前の意思で決めてほしい。
俺と付き合ってくれないか?」
「え、えー……!?」


質問系に疑問系で返すのはどうかと思ったけど、これは本当に仕方がないと思う。
顔は反射的に赤くなるけど、返答はなんとするべきでしょうか。周りで様子を伺っていたらしい、彼のクラスメイト達とか私の先輩方とかいる前で、油断してたのが悪いのかな?まさかここまで切り込んでくるなんて思ってなかった。

「嫌か?」
「いやいやいや……」
「……そんなに嫌か」
「え!?ち、違う違う!びっくりしたの!」

思っていた以上に落ち込んだ顔をされたから、慌てて否定はしたけど。

「じゃあ良いのか」
「えー……!?そうなる……!?」

昔からマイペースというか、思い込みが激しいというか、変なところで天然が入るのは知ってたけど。というか、うん、今思い出したけど。

だって、だって焦凍くん私のことそんな風に思ってなかったんじゃないの?いきなり何なの?私が不用意に踏み込んだ時、焦凍くん一気に引いたじゃない。“許嫁”なんて真に受けてたのかって、そんなのありえないって意味じゃ――もしかして、そうじゃなくて、何か間違えたのかな。

私の意思で決めてほしいって、それってあの時私がもう少し、彼の本心に踏み入ったら、同じように言ってくれたの?私は、最初から、縛られてたつもりなんてなかったのに。

あの時私が言いたかった本心、全部焦凍くんが今言ってしまった。けど、本当、全然予想してなくてアワアワするくらいしか……!

「なあ、夢子――」
「――夢野さァーん!一応確認スけどォ!うちの学校、異性コーユー禁止だぞォー!!」
「夜嵐くんうるさい……!」

大声で異性交遊とか言わない!何なのあの人はもう!
しかも焦凍くんがムッと眉を寄せた。あからさまに邪魔だという顔である。いや、仲良くしようよ……二人揃って落ちたの、喧嘩したせいなんだから……でも夜嵐くんの方が正直まだ好かん!!って元気よく宣言していたから、前途多難かもね……というのは完全なる現実逃避だった。

「禁止なのか?」
「え、あ、そうだね……そういう校則……」

なんか校則を盾にして躱そうとしてるように思えてきた。そうじゃないけど、そうじゃないけど……!どう答えても不都合があるような気がする。
せめてうちの先生とか先輩がいなかったらなぁ……って、いなかったらどう答えるつもりでしょう私は……!?

ますます混乱してきた私とは対照的に、そうか、と呟いた焦凍くんは至って冷静である。なんで?爆弾発言をしているのは彼のはずなのに!そして彼はさらに爆弾を積み上げる。

「わかった。じゃあ、卒業したら結婚しよう」
「けっ……んん!?!?」
「士傑にいる間は相手ができないってことだろ」

そう受け取るか。すごいポジティブだね焦凍くん。いや、そりゃあ、相手なんてできるわけないと思うけど、だからって飛躍しすぎかなって。

「で、でも、ほら私達まだ一年生だし、まだまだこれからっていうか、その、未来のことはわからないよねって話で……!」

だって焦凍くんなんて、個性すごくてかっこよくて素敵な人だし、私なんかより見合う人って多分雄英にはたくさんいるだろうし。
私はどうせ、何もないけど。初恋こじらせて十年、焦凍くんのこと引きずってる面倒臭い女だし――

「――十年大事に思ってたんだ。あと二、三年で、変わったりしねぇよ」

また冷静な声でそんなことを言うものだから、もう私も我慢の限界である。

「――焦凍くんの言ってること、全部こっちのセリフなんですけど……!!」

思わず口をついた言葉に、焦凍くんは一瞬キョトンとした。だからその顔はちょっと可愛いってば。
なのに直後、ふっと嬉しそうに笑うものだから、もう、心臓に悪いったら!


今でも君を、今からでも

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