×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




怖くない、怖くない - 04



「あのね、よくわかったよ……お化けって怖いね、何考えてるかわかんないのすっごい怖い。急に来るなんて反則だよ、ゴローちゃん達はちゃんと、感情とか記憶とか振りかざして来てくれるのに〜〜……」
「あーもー、いつまでウジウジやっとんだ幽霊女!!」
「もう少し!もう少しでいいです!」

そのもう少しが爆豪には辛いのだということを理解しない。とっくに暗いお化け屋敷を出ているのに、快晴の下ぴったりくっついて歩くなんてどこのバカップルだ。
また一人、そんな爆豪と幽姫を見た知らない人間が、連れの人間に何か言っている。一番最悪な事態は、今更雄英体育祭の記憶を引っ張り出してきて『あの時の一番君じゃね』なんて特定されることである。考えたくもないので、それ以上は言わない。

お化け屋敷なんて、本物の幽霊が見える幽霊女にはチープなおもちゃ箱だと思っていたのに、まさかすぎた。絶叫系マシンなんかよりよっぽどダメージを負っている。
そりゃ最初は、やっと幽姫が遊園地で死にかけたのに笑いたくなったし、まともな女子らしく頼ってくるのに満足したが、さすがにそろそろ立ち直ってもらわないと困る。色々と。

そんなことを考えていた時、ちょうど目的のショップが見えた。お化け屋敷に向かう途中で、それが終わったら見に行きたい、と幽姫が言っていたのである。当の彼女がそれを覚えているかは少し怪しい。

「ほら早よ行くぞ!」
「爆豪くん歩くの早い〜」

もう強制的に振りほどくくらいしか方法がないので仕方なかろう。手は繋がったままなので問題はない。
足早にファンシーなショップに向かう爆豪と、それに小走りでついてくる幽姫。これはこれで、まるで爆豪の方が先導してショップに向かう絵面も気に入らないが、それも仕方ないことだと諦めた。

女好きのする外観だとは思っていたが、案の定店内も女子ばかりで居心地が悪い。
しかし幽姫を立ち直らせるという目的に対しては意味があった。やっぱり爆豪のすぐ隣から離れる様子はないが、わあ〜、と店内を見回せる余裕くらいはできたらしい。

幽姫に腕をちょっと引かれて店内を連れ歩かれる――物色したいなら一人でしろ、とちらりと思った――と、視界に入ったグッズを見て、ああこれだと考えた。


「おい」
「ん、なに?」
「これ持ってろ」

可愛らしいストラップを見ていた幽姫だったが、彼の声に振り返った途端ずいと押し付けられたのは、オレンジ色のクマのぬいぐるみだった。
とっさに受け取ったはいいものの、何を思ってあの爆豪がこんなものを選んだのか理解が追いつかなかった。

「……え、なに?」
「こーいうのが、恐怖心に効くんだよ」

ヒーロー志望なら知ってろアホ、と続く。
聞いたことはある気がする、ぬいぐるみとか犬や猫といった、やわらかいものが効くらしい――ああ、なるほど。心配してくれたのかな。

そう思い当たると、途端に気分が明るくなった。恐怖心というほどのものはもうあまりなかったが、初の体験でなんとなく冷えた体があったまった感じ。
ふふ、と笑うと顔をしかめられたが、特に暴言などもない。それもまた嬉しい感じ。

「かわいいね、この子」
「あっそ」

並んでいたキャラクターは他にもいたけど、どうしてオレンジのクマを選んだのだろう。幽姫が自分で選ぶとすれば、多分その隣の白色の猫にしただろうに。しかしその不思議な感じが、またなんとも言えないけれど、なんかいい。
自分だったら多分選ばないキャラクターを、そもそも集めたことなんてないぬいぐるみを、買うのも悪くない。うん、なんかいい。

「じゃあこれだけ買ってくる……買いに行こ?」
「……しゃーねーなァ」

買ってくる、と言えば一人でレジに行かなきゃいけなくなる。そのために手を離さなきゃいけなくなる。別にもう十分気持ちはあったまったので、一人でも構わないのは確かだけど――多分、ここで離したら、彼のことだからもう一度は繋げてくれそうにない。
そんなことまで打算したとは知られたくないので、まだ少し寒いですというように腕を引くと、呆れ顔が返ってきた。


怖くない、怖くない、一緒がいいだけ


雄英高校の最寄り駅に着いた時には結構な時間で、日も落ちきってもうすぐ辺りは暗くなる。

夕飯どうしよう、作るの面倒臭いよね。と言えば、朝のうちに仕込んどけよアホか、と返ってきた。ひどい才能ハラスメントを受けた気分である。爆豪の方が幽姫より早くに出発していたはずなのに、この差は一体。
はあ、とため息をついた時だった。

『ああああ――!!』
「ひゃぁっ!」

背後から突然の声がして、肩が跳ねた。とっさにすぐそこにあった腕にしがみつくと、離れろボケ!!と速攻でキレられた。いや、不可抗力。お化け屋敷の最後、やっと終わりだと思った矢先に後ろから追いかけられた恐怖はまだ消えてません。

「きゃー!なになに、どしたん!?ってか距離近ッ近――ッ!」
「お前ら今日揃っていねーと思ったらやっぱりか!クソ羨ましーぞ爆豪!」
「うぅるっせェェアホども!!」
「な……なんだぁ、芦戸さんと上鳴くんかぁ……よかった」
「何ンにも良かねえんだよ……!」

よくよく聞けば慣れた声だった。Tシャツにジャージのラフな格好の芦戸と上鳴は、近くにあるコンビニの袋を提げている。

「買い物でも行ってたの?」
「うん!あのねー、今からみんなでゲーム大会しよって話になってさ!私ら買い出し役」
「ゲーム大会。楽しそうだね」
「霊現と爆豪も誘おーと思ってたとこだよー!今から帰りでしょ?一緒に――」
「――バッカ、空気よもーぜ!」

芦戸が快活に笑いながら話していたのを遮って、上鳴が声をあげた。くーき?と幽姫は首を傾げたが。

「大丈夫!今日くらい存分に二人きりで楽しみたまえ!」
「あっ、そっかー。ごめんごめん、野暮だったね!」
「不純異性交遊が燃えあがんのも今のうちってやつよ!」
「んー、不純は良くないけどね!ま、そーゆーことなら引き下がりまーす」

じゃあなー!ととても楽しそうな笑顔を向けて、二人は嵐のように去っていった。なんだろうこの疾走感。

なんて思っていたら、爆豪の腕を放すのを完全に忘れていた。とわかったのは、握っていた手がギリギリ締め上げられる痛みに気づいてである。

「ちょ、爆豪くん痛い痛い」
「テメェが、余計なこと、すっからだろーがァ……!」
「ごめん、ごめんなさい!ホントに痛いから、っていうかなんでそんなにキレてるの」
「わかんねーとは言わせねーぞ、このクソ電波幽霊女ァァ!!」

わざわざ学外で待ち合わせた爆豪の配慮が完全に無駄になってしまったことを、その結果芦戸や上鳴だけでないクラスメイトの視線が妙に生暖かくなることを、幽姫が理解できたのはやっぱりもう少し後のことだった。


→Re:かや様



前<<>>次

[4/5]

>>Request
>>Top