×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




your charm - 14



「……うん、じゃあ、また――」
「なあ」

気まずそうな挨拶を遮って、彼女の瞳を見据える。驚いたように大きく瞬かれる。

空いていた距離の分だけ、俺から半歩踏み込んだ。

「八百万に言われたんだ」
「八百万さん……?」

繰り返した御守は少し眉を寄せた。唐突すぎて不可解だったろうか、それにしては少し違和感のある目になった。

とはいえ、目を見て感情が読み取れるほど、御守と俺は多分、そんなに近くない。
不思議な、変な感覚だ――近くないから、それをどうにか埋めたくなる。

「俺とお前、結構仲良く見えたんだと」
「……へ?」
「変だよな。御守と話したの、多分そんなに多くねぇのに」

そう言うと、一瞬ポカンとしていた御守がはっとして、今度は眉を下げた。呆れでもしたのだろうか、それにしてはゆるく細まった目が落ちる。

「そう、だね……そんなでもないよね」

そんな仲良しでもないし、そんな近くもない。御守もそう思ってるだろうと予想はしていたが、あっさり肯定されると変な気分になる。
当然のことだと思うのに、どうしてそんなことを言うのだとも思う。

つまりだ。離れられてモヤモヤするなら、近づけば何か変わるのだろうかという単純なところから始めることにした。


「だから、俺はお前ともっと話がしてぇって、思ってる」


そうはっきり伝えれば、御守は弾かれたように顔を上げた。丸く見開かれた目の中に自分が映り込んでいるのは、なんとなく気分がいいような。

「御守は嫌か?」
「いっ……」

とっさに何か答えかけたように思えたが、彼女は一瞬黙り込む。顔を真っ赤に染めながら、何か迷うように目が揺れる。その反応はやっぱり俺の中の変な感情を助長する。

「――嫌じゃない。全然、嫌じゃないよ……轟、くん」

けれどその一言で嘘のように引いていくのだから、やっぱり御守は変なやつだ――不思議なやつ。

「そうか、よかった」
「うん……けど、あの、もうちょっと刺激の弱い言い方をしてほしいかな……」

少し緊張が解けたように、へらりと苦笑を浮かべて御守が言う。赤い頬をあおぐような仕草。刺激というのがよくわからず、首を傾げて問い返す。

「言い方キツかったか?」
「うーん……そういうんじゃないけど……わからないならいいよ、ありがと」

今度は諦めたような力のない笑顔。とはいえ、別に気分を害したわけでもないようなので、今のところは甘えさせてもらうことにする。

御守は小さくため息をついて、そうしたらだいぶ頬の赤みも引いたらしい。

「引き止めて悪かった」
「ううん、大丈夫。私の家、近いから」

ただでさえ下校時間には遅いのに、女子を引き止めるのはあまり良くなかった。よく考えたらそう思ったが、御守は気にしていないようにひらりと手を振る。

今度は否定しなかったな、と感じたら、つい口元が緩んだ。
御守はなぜか途端に慌てた様子で、振っていた手をパタパタと早めていた。

「あ、の……!むしろ、ありがたいの、実は」
「ありがたい?」
「う、うん」

せっかく戻っていた顔色がまた少し赤くなる。御守は頷いてから、ちょっと待ってね、と自身の通学鞄を漁り始めた。
よくわからないまま素直に待っていると、彼女はすぐに、口を糊付けされた小さな袋を一つ取り出した。

「これ、よかったら……持っててあげて」
「これは……」

差し出されたそれを受け取った。
中身は少しだけ厚みのある、少しやわらかいのにしっかりした存在感。

「――お守り、俺に?」
「うん……八百万さんの分と一緒に作ってたの。つ、ついでとかいうつもりじゃなかったんだけど……!」
「何も言ってねぇよ」

取り繕うようなことを言わなくても、わかっているつもりだ。御守が何かの“ついで”なんかで、おまもりを作るような人間じゃないってことは。
御守ははたと言葉をやめて、小さく微笑んでありがとう、と呟いた。

「けど、作った後に、私なんかが心配できるような相手じゃないなって、思って……轟くんはすごい人だから、多分、こんなのいらないかなって……」

俺はやっぱり何も言ってないのに、不安げに言うのはやめてほしい。また変な気分になる。

ああ違う。だから、そんな気分になる前に、俺は言わなきゃいけなかったんだ。


「嬉しい。俺、お前の作ったおまもり、結構好きなんだ」


ほらやっぱりそうだった。たった一言だったんだ。

彼女は俺の言葉に目を丸くして、それから安心したような笑顔を浮かべた。それを見れば、モヤモヤした変な感情も、指の先が凍えるような焦燥感も、すべて凪いで落ち着いた。

やっぱり、不思議なやつ。




前<<>>次

[15/27]

>>your charm
>>Top