中一の春。泣きじゃくる夢野の隣で、困り果てた俺は彼女の手をとった。
目擦ると赤くなるよと言うと、涙で覆われた強気な瞳で、ほっといてと睨まれた。しかし言葉とは裏腹に彼女の右手は俺の左手をギュウッと握っていたので、結局、わかったと頷いて放置した。繋いだ左手だけ力を入れると、相手の右手も同じくらいで返した。
「……覚えてたのかよ」
「忘れるわけないでしょ、バカなあんたとは違うし!」
「そういう態度だから、忘れてんだと思った」
俺の答えに夢野はぐっと言葉に詰まり、やがてむすっとした顔で呟くように言った。
「だって、ガラじゃないもん……素直にするとか」
その声はいつもの調子とは程遠く、ともすればしおらしい。確かに、彼女は――素直じゃない、ようだ。思わずくつくつと笑えば、何笑ってんの!とまた怒られた。
ごめん、と一言謝って、俺は決めた。
「俺、やっぱ普通科行くわ」
「なっ……ここまで言わせといて!」
「雄英の普通科だよ」
そう付け加えると、夢野は眉を寄せたまま小さく首をかしげた。
「――ヒーロー、なりたいんだ。絶対」
改めて。憧れたんだ、なりたいんだ、立派なヒーローに。誂え向きな個性でもなければ、誂えられた環境もないけれど、それでも昔からの夢なんだ。
「諦められないな、やっぱ」
こんな俺が一瞬でも誰かのヒーローになれたのなら、それは不釣り合いな夢を追っていた俺の、大事な一歩だったのだろう。そしてそれを、期待していると、言う奴が目の前にいるのだから。
なあ、と声をかけると、夢野はハッとして何よ、と問い返した。何をきょとんとしていたんだか、こいつは。
「俺の個性、敵っぽいって思わないか?」
「『洗脳』だっけ?……別に」
あっさりそう言って、夢野はふと柔らかく笑った。
「だって心操は、ヒーローになるんだもん」
どこか少し幼い口調で、なぜか自分の事のように自慢げに、彼女は言った。
……いつものうるさい笑い方より、そっちの方が断然いいな、お前。
らしくないぜヒーロー!「あっ!?ていうか勘違いしないでよね!私がサポート科行くのは、おじさんのことがあって元々興味あったからなんだから!アンタのサポートするためじゃないんだから!」
「わかってるようるさいな(勘違いしないでよね……?)」