苦杯の意



キュッキュッと体育館に響く音。バサっと音が鳴った後、ダンっと音がした。私はそれを合図に頭を上げた。
大我がタオルで頬を拭いているところだった。私はいそいそとドリンクを渡す。サンキュと言って飲んでくれた。

「別に、今日は部活ねぇんだから帰って良いんだぜ?」
「監督に、監視しろって言われてんの」
「何時までだ?」
「あと一時間」
マジかよー、と言って彼はカップからボールへと持ち直した。そして、ゴールへ向かってシュートを放つ。
一昨日、わたし達はさつきの所に負けた。悔しいのはわかるけど、オーバーワーク気味の大我。だから監督は私に監視を頼んだと思う。

「大我、もう終わりにしたら? ちょっとオーバーワーク気味だよ?」
「あと、一時間だろ? 時間は守るって」
事が起こってでは遅いのだ。なのに、私は止めることができなかった。

「青峰に勝つには、まだ力が足りねぇんだよ」
大我がそう言ったから、私は止めることができなかったのだと思う。私はその場に立ち尽くすことしかできなかった。
彼が頑張っている姿をただただ呆然と見ていることだけしかできなかったのだ。

「……頑張って」
そう呟いたが、返事は返って来なかった。
私は体育館に響く音を聞きながら、時間が過ぎるのをジッとして待った。

prev next

 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -