義理の兄が天才なんて

「樹っ!! 彩花のこと見すぎ」
ランニングをしていると、鳴さんに言われた。……そんなに見てたかな。

「彩花は駄目! おいらの妹に手、出すなよ」
低い声で言われて、背筋が凍る。
鳴さん怖ぇ―。
ため息を少しついて、止まる。ランニングは終了だ。
次は……と、考えていると、
「あ、鳴先輩!」
と、元気な声が聞えてきた。
振り返ると、デレデレな鳴さんと先ほどまで話題となっていた鳴さんの妹が居た。

「別にいつも通り鳴で良いのに―」
「いえ、先輩ですから」
「ちぇ―」
鳴さんはそういって口をふくらます。
はぁ、こういうときの鳴さんは面倒なんだよな……。

「あ、それと。監督が呼んでましたよ」
「え―」
鳴さんはぶつぶつと何か言いながら監督の元へ行った。
あぁ―、めちゃくちゃ不機嫌じゃん。
絶対これ、八つ当たりとかあるよ。

「た、多田野……くん?
いつもゴメンね。兄が……」
申し訳なさそうにいう彼女。鳴さんの妹、成宮彩花。
クラスは同じで、鳴さんと違ってしっかりしている。(これは秘密で)

「いや、俺もまだまだだし。
鳴さんに怒られるのも仕方ないよ」
「フフ、多田野くんって優しいね」
「へ……え、あ、いや!」
「ううん、多田野くんは優しいよ。
 いっつもありがとう」
優しく微笑む成宮さん。
あぁ―、ヤバい。心臓が痛い。
のほほんとして喋っていると、あぁ―!! とでかい声をだしている鳴さん。
……怒られる。俺はいち早く察した。

「彩花にナンパするなよ―」
「し、してませんっ!!」
「しろよ!」
「いや、矛盾してるんですけど!!」
負けじと言ってしまった。張り合っても駄目なのに……。

「あ、鳴先輩。
わ、私が多田野くんにナンパしてたんです!!」
成宮さんが顔を真っ赤にして言っていた。
俺も顔を赤くしてしまった。
かくまってくれるのは嬉しいんだけど……
鳴さんが俺を睨み付けているから、怖ぇ。

「彩花、本当?
 樹に脅されてるんじゃないの?」
「ち、違うよ! 本当だよ」
「ふーん。樹ねぇ―」
鳴さんは俺をじろじろ見ながら言う。なんか、変な感じだ。
冷や汗が凄い。
なんか、試合してる時並に緊張する。

「……彩花良い男選んだじゃん」
思いもしない言葉に、俺は驚きが隠せなかった。
隣で成宮さんがコクりと嬉しそうに頷いていた。
……あれ? っていうことは、俺と成宮さんって付き合うの?
なんて、頭の中がパニックになっていると、前にはもう鳴さんの姿は無かった。


「あ、多田野くんゴメンね。私……」
横で、そう言ってうつむいている彼女。
耳まで赤くなっている。

「あ、いや、嬉しいよ。
 かくまってくれてありがとう。あのままだったら、俺、どうにかなってたよ」
「ううん、そうじゃなくって……その……。
 さっきのは本当だよ? 私、多田野君のこといつのまにか好きになってて」
その、えっと……と、オドオドしている彼女。
クラスだって同じはずなのに、目を合わせてくれない。

ここは、男として言ってやる!
「……俺も好きだよ。
 もちろん、恋愛感情として」
俺がそう言うと、え? と宮本さんは顔をあげた。
あれ、俺、変な事言った? あれ、今俺、何て言ったんだっけ?

「た、多田野君はま、まゆゆが好きなんじゃないの?」
「え、誰情報?」
「め……鳴先輩から」
あの人か、変な情報を渡したのは……。

「でも、嬉しい。
 両想いなんて初めてだから」
「え、そうなの?」
「うん、いっつも鳴に邪魔されちゃうからさ。
 でも、今回は邪魔しなかったし……それに……邪魔したら私、鳴の事
 絶対に嫌いになってたよ」
えへへと、笑う彼女。
自惚れるには十分の言葉だった。

「じゃ、じゃあまたね」
彼女は、そう言って走って行ってしまった。
その場に呆然と突っ立ていると、鳴さんが不機嫌そうに手招きしてきた。
……あぁ、不機嫌ですね。
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