届かない気持ち

「ねぇ、知ってる?」

「うん、知ってる知ってる! カッコいいよねー!」

「結城哲也君!」


そんな声が教室内で聞こえてきた。
私の真ん前には、その『結城哲也』が居るが、当の本人は気づいていないらしく、将棋の事について熱く語っている。
いや、さっきまでは野球の事を熱く語っていたのだが……。



「でだな、そこに金が来れば……。
 彩花、聞いているのか?」
その声で私は我に返り、「うん、聞いてるよ。 で?」と
まるで聞いていたかのようにふるまった。
で、哲也はあまりそういうのが分からないので
そのまま話を続ける。


本当、天然って良いなぁ。

きっと、クラスで私がどんな立場なのか
知らないんだろうな。

「あ、ココに角が来ても……」

「哲也、そしたら飛車にとられるよ」

「あ、そうか……」
またも考え込む哲也。
そして、また耳に入る哲也の話。


「……はぁ」
私は久々にため息をついた。
哲也はどうしたと、言うように顔を上げた。

「どうした」

「ううん、何でも無

いよ。
 ありがと」
私は笑う。


「そうか。
 それなら良いんだが……」
哲也はそう言ったきり、口を開かなかった。
まぁ、多くを語らない人だからなぁ。


「今日、練習試合があるんだ。
 暇だったら見ていってくれ。きっと、一年の奴らも喜ぶだろ」
哲也はそう言って、将棋盤をしまった。
あれ、もう終わりなのか?

「え、あぁ、あの三人組か」
私は、沢村君と降谷君と亮介の弟の小湊君を思い浮かべた。
あの三人、仲良いんだよなぁ。


「それに、最近元気が無いようだしな。
 俺がホームランを打って、気持ちをふっとばしてやる」

「哲也、ふっとぶのはあなたの心でしょ。
 私はそんな事にならないし」
私がそう言うと、哲也は見たこともない不安そうな顔をしていた。

「……ダメだったか」

「え?」

「あ、いや、何でも無い。
 ちょっと純の所に行ってくる。」
哲也はそういうと、私のまえで立った。


あぁ、お願い。
行かないで。


あなたが行ってしまうと――――。


「ちょっと良い? 宮本さん」

あなたの事が好きすぎて妬む女の子が絡んでくるの。

(あなたのその自慢のバッティングでこの空気を壊して)
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