悪い以上に良いことを

あ、また居る。
カキーンと綺麗な放物線を描く彼に私はいつも見とれていた。弟の付き添いで来ていたバッティングセンター。頻繁に来ているから常連さんとかの顔は覚えてしまい、顔なじみになってしまった。
だから、彼の顔も知っていた。いつもココのバッティングセンターの最高速度の球をいとも簡単に打っている彼。はたから見たら、科学部とか文化部に入ってそうだ。

「……君、また来てるんだ」
私が後ろのベンチで座って、彼の事を考えていたら、彼が声をかけてきた。
私は驚きすぎて、ひゃい! なんて言ってしまった。周りの人がニヤニヤと笑っている。うわー、恥ずかしい。

「うん、弟の付き添いでね」
「そうなんだ。君はやらないの?」
「うん。野球はよく分からなくて」
私がそう言えば、面白いぞ、と言われた。好きなんの? と聞けば、まぁな、と即答された。

「でも打ってみたいなとは思うよ」
「……やってみるか」
「え」
「バットは借りれば問題ないし」
彼はそう言うと自分のコインを取り出し、ココの中で一番遅い70kmの場所へ行った。私は自分のコインを渡したが、いらないよ、と微笑まれた。
「じゃ、構え方わかる?」
「こう?」
「そう。でも、手を内側に絞ってみて」
丁寧な説明が右耳から左耳へと流れていく。指示通りに構えて、バットを思い切り振った。掠った。

「惜しい。後少し下」
「うん」
もう一回、もう一回、としているうちに球が無くなった。くそ、こんなに野球音痴だったのか?

「また来なよ。俺、いつもココのバッティングセンター使ってるから」
「え、またがあるの?」
「ん? 嫌だった?」
「いや、全然!」
今日はありがとうございました、深々と頭を下げて言う。彼はこちらこそ、と笑ってくれた。あぁ、なんて良い人なんだ。
よし、今日から素振りしよう、と決意した日であった。

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