もしも監督に

初めての場所に大人ながらもドキドキしていた。道を聞こうにも人がいないから聞けない。はぁ、どうしよう、と途方にくれていた。あの人が忘れ物なんてしなければ……、と思ったが現状はなにも変わらなかった。

「あの、そこのお方! ここで何してるんスか!?」
道いっぱいに響いた声。後ろを向けば、三人の男の子がいた。今声を出したのは真ん中にたって居る彼だろう。私に向かって指指している。人に向かって指さすな―。と内心思っていたが、今はそんなのどうでも良い。何せ、今、私の目の前に立っているのは、私の予想上野球部の子達だからだ。着ている服装からして間違いないだろう。

「実は迷子なの。ここ、来たことなくて……片岡監督何処に居るか分かるかしら」
「偵察の方ですか?」
あの声が大きい子(をA君とおこう)の右隣のピンク色の髪色をした子(をB君)が聞いてきた。私は、違うわ、と言った。

「用件か……そうね。私はあなたたちに差し入れ持ってきたのよ」
大きな紙袋を見せる。前にいた三人の子達は、頭を下げた。私が買った訳じゃないのに……と申し訳なさを感じた。それから話は早かった。彼らが私を片岡監督の居るグラウンドまで案内してくれたからだ。練習の時間もあるっていうのに、本当にありがとう。

「ボス――!」
突然、A君が声を出した。私は、彼が隣に居たもんだからよろけてしまった。すると、背の高い彼(C君)が掴んでくれたので転ばずにすんだ。かっこいい、と不覚にも思ってしまった。ダメダメ、私には旦那が居るんだし!

「沢村、御幸と合流……彩花」
「ごめんなさい。どうしても来なきゃいけないって思って」
私は三人より一歩前に出て言った。サングラスをかけているといつもよりうんと怖い。でもそれを本人にいったら怒るからなぁ。秘密にしておこう。

「ボス! そちらの方は、これですか!?」
A君はそう言いながら小指をたてる。私は彼(ボス)の代わりに否定する。

「いや、妻だ」
平然とそういった。彼、いや、鉄心さんは無反応な表情でいっていたが、私は顔が真っ赤になっていた。周りに居た三人(A君、B君、C君)がえっ!? と驚いた表情でこちらを見ていた。その声に反応した野球部の子達がこちらを一斉に見た。うわ、恥ずかしい。

「ボスの奥さんでしたか! それはすいやせん!! いやぁ、あまりにお綺麗でしたので……」
「栄純君、口説くと怒られるよ?」
「沢村、外周な」
鉄心さんは、そう言ってA君(沢村君だったかしら?)を外周に行かせた。それを合図かのように選手たちはサッサとどこかへ行ってしまった。いや、これは、脅しというものなのだろうか。

「あ、そうそう、鉄心さん。これ、差し入れ。おにぎりの具なんかにしてみて」
「あぁ、ありがとうな」
そう言って風呂敷に入ったものをそのまま渡す。すると、マネージャーさんが来てくれてそれを持って行ってくれた。気の利く子たちで私は感動した。

「ねぇ鉄心さん、今日は夜遅くなるのかしら」
「あぁ、ちょっと会議でな」
「そう。分かったわ。無理をしない程度にね」
「あぁ、分かってる」
本当、この人はなんていうか、表情が硬い。でも、何事にも熱心で、特に野球に関しては本当に熱心。相当好きじゃないとできないことよね。だから、その好きな野球を続けられるように、私は裏でサポートしようと決めたのだ。

(うわ、監督表情いつもより柔らかくね?)
(純と同じで好きな子の前では態度が違うんだね)
(んな、亮介!!)


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