「今日はありがとうございました」
御幸はペコリと頭を下げた。
一年トリオはまだブルペンでギャーギャーと騒いでいる。
「ううん、こちらこそ。楽しかったし。
じゃあまた」
「はい」
御幸は言う。
彩花がブルペンから出ようとすると、一年トリオの声が聞えた。
その声に応えるかのように彩花は手をふった。
*
「あ、彩花」
校門前で彩花は一人待っていると、待っていた人が来た。
「哲、練習はもう良いの?」
「あぁ、最近じゃ家でも練習するようになったからな。
体力がついてきた」
「そっか」
彩花は言う。
「そういえば哲、キャプテンになったんだってね?
沢村君が言ってた。
『え、そうだったの?おめでとう!』みたいなことその場で言えなかったから……。
取りあえず、おめでとう」
彩花が言うと、結城は、ありがとうと言った。
「あと、光一郎。
エースナンバーなんでしょ? 驚いちゃった。
あの一年生の時オドオドしてた光一郎が今ではすっかりあぁなっちゃって。 皆別人になったよねー」
「それは、俺も含まれるのか?」
「うん、哲もだよ」
「……そういう彩花も変わったぞ?」
「え、どこが?」
「雰囲気が……だな」
「え? そうかなー……」
彩花は少し嬉しそうに言った。
「あと、その……いつもグラウンドに来ていたことは知っていた」
結城のその言葉に、彩花は立ち止まってしまった。
「それってさ、御幸が教えてくれたんでしょ?」
「いや、違う。
俺自身で気づいたことだ。
話したかったが、部活中だったしキャプテンだったから
練習を抜け出すわけにもいかなくて」
「ううん! 哲は野球に集中してて良いんだよ。
……まさかとは思うけど、亮介辺りに何か言われた?」
「純に彼女は大事にしろよーって言われた」
「哲、分かってる?
哲にとって私は……仮の彼女なんだよ?」
彩花は自分で言った言葉に深く傷ついた。
そして、それと同時にまた昔の事を思い出してしまった。