『禊ぎの日』 p1/p2


あたしの名前ってさ、理を憂う、って書いて憂理でしょ。自分の名前の漢字を教えるときはこの方が言いやすいし、親がこの名前にした理由もぶっちゃけそれだと思ってた訳。
理を憂うってことは世界がダメだからってことでしょ? 普通そう思ったりしたよね―――え、そもそもそこまで自分の名前から深く考えたりしない?
そりゃそうかもしんないけどさ。まぁあんま気にしないでよ、そこは。

とりあえずさ、少なくとも中学の頃はそう考えてたの。そんで自分なりに世界とやらを憂えてみた訳だよ。グロかったりアレだったりな描写のアニメとか漫画、音楽は取り締まる癖に殺しとか詐欺とかの手口は堂々とニュースで流す。イジメや差別をやめましょうとか薄っぺらいスローガン掲げてるのに心の中は真っ黒、軽蔑すんのが当たり前な世界とやらをさ。うん、暇人だし中二病入ってるよね。今はあたしもそう思うよ。いや今もニュース見てたりすると世界は馬鹿な方向に回ってるんじゃねーのとかは思ったりするけどさ。高校生にディベートやらせた方がまともなこと言うんじゃねーのとは思うけど。本当にあんたら東大とかのイイとこの大学出てんのかよ、ってね。あえて言うなら世界史でやった何だっけほら、デマゴーグの登場によりうんたらかんたら、な古代アテネの民主政治が堕落した形態のやつ…年代的にはペロポネソス戦争?の時期の政治だっけ。テスト範囲から外れたから忘れちゃったけど。何だっけ…衆愚政治、だっけ?何だっていいか。
でね、あの時の自分は世界を憂う賢者サヴァン を気取ってたみたいなんだよね。他人事みたい? いやあの自分は自分であってあたしじゃねーし。…そんで中学では孤立したし虐められた訳。愚かなやつには自分の思想の高尚さは解らない、って。そう思ってたからイジメはこたえなかった。いくら陰口叩かれてもね。約40人分の悪意に曝されてもね。うん、正直寒気がするよ。中三の秋くらいまではそんなんだったかなぁ。思い出したくもないけどね。

そう、中三の秋なの。高校受験まで大体あと半年、何をするにも受験受験受験―――そんな雰囲気になる直前にさ、受験勉強の為に真っ先に潰されそうな道徳の授業があった。自分の名前の由来、ってやつ。一週間くらい前からそれは言い渡されてて、あたし真面目だから親に聞いた訳だけど――それで驚いたの。
憂理の名前の由来は理を憂うということだとばっか思ってたからさ。そう、そんでその由来なんだけどさ――理性を憂えず、だったのね。うん、全然逆だよね。どんな時でも一歩立ち止まって、冷静な行動が出来る人になってほしいって。理性の存在を憂えたり疎んでほしくないって。母親の弟が何か学生時代に教師爆発しろ的な感じで高校に放火しちゃったらしいから。

そんで驚いて、若干親に反抗してたなりに考えてみたの。そして一つ、心に決めた。変わろうって。

考えてみたらさ――何だかんだは言うけど親も悪いやつじゃないし、ぶっちゃけ通ってる中学はただの馬鹿学校だから合理的な解決とか望めない。まぁでも、多分全員が全員悪いやつだった訳じゃないんだろうと思うのね。何か渡部とかは必死すぎて救いようはないような気がするけど。宮本とかは渡部に悪ノリしてるだけにも見える訳だし。ま、あたしの独断と偏見だけど。
どっちにしろ志望校は県内では割と有名な、自由な校風の進学校で――通ってる中学からの合格者は例年ほとんどいない訳。だからその高校に合格したら過去の、中学の自分を誰も知らないじゃん。あたし勉強ができない方ではなかったし、当然あの馬鹿中学では大体トップだったから――普通に合格した。一般入試でね。だって推薦だとあれじゃん、高校側に顔がバレるっつか、まぁ一般でも顔は解るのかもしんないけどさ。とりあえずあたしは確実に変わりたかった訳なの。丁度いいのか何なのか、前からイザコザってた親も離婚して苗字も替わった。卒業式も離任式も終わった。

中学の時ってさ、変に校則厳しかったりするじゃん。眉毛弄ったらダメとか、髪は黒にしろとか肩に付いたら縛れとか。耳より上で縛るなとか。見ての通りあたし地毛は茶髪なんだよね。中学の時は馬鹿がつくくらいに真面目だったから、黒く染めてた訳。だからまず脱色した。眉毛の弄り方みたいの聞ける友達とか居なかったから家にあった眉用の鋏と剃刀で細く薄くを適当にやってみたの。
あとは親に相談してコンタクトも買ってもらったかな。別に反対みたいなのはされなかったよ。確か…高校生になるんだしいいんじゃない、って言ってたかな。一番の問題は話し方だったのかもね。ただこっちは何だかいける気がした。見た目をがらっと変えたから自信がついてたのかもしんないし。
中学の時も普通にネット…つかイラストサイトやっててさ、普通の子っぽく振る舞っては居たのね。まぁ心中では以下略な訳だったんだけど。1、2ヶ月それっぽくやってれば板に着くんじゃないかなとか。実際そうだったよ。

あたしの高校ね、以外と気ぃ合う人居てさ。クラスでも何人か仲がいい友達出来たし。委員会が図書委員で同じになった神崎に関わるの初めはびっくりしててさ。男子ってこんなヘタレで優しかったっけとか。いや案外神崎だけなのかな? よく解んないけど。
あと絵描くの嫌いじゃないしなんか趣味が合うやつ――つかぶっちゃけヲタ友だね――も居ないかなってイラスト部に飛び込んでみたの。そしたら大正解。個人的には芽衣とかホントに仲良くなれたとか思ったりするよ。好きな音楽の趣味がモロ被りでびっくりした。
合同部誌の関係とかで文芸部の遠野ちゃんとかとも関わるようになったし、美凪はクラス同じだったからまぁ元々知っては居たんだけど…まさか美凪もヲタだったとは思わなかったな。
美凪もあたしがヲタとは思ってなかったらしいね。


友人にも恵まれた訳だし、こんでリア充になれたら言うことなしだよねとか思う。
いや元々の、リアルが充実してるって意味ではリア充してるけど。替わった意味の方でリア充してみたいよ、って。因みに割と愛しちゃってるキャラは画面から出て来なかったりなんだよね。大袈裟?そうだね。芽衣と美凪にも言われたよ、そういうのはリアルの人間で考えろって。
でも、リアルだと…どうなんだろ。何か周りの人とかは神崎じゃないのって言ってるけど。でもぶっちゃけ、今は神崎のことは余り男子と思って関わってはいないかも。ヘタレ気味な悪友、括弧性別無関係括弧閉じ、みたいのが一番近いかなぁ。会って半年くらいではあるけども今更何かそーいう関係になるのも変な気分ではあるんだよね。だからリア充になってないんだよって美凪に呆れながら言われたけどそこんとこってどーなのさ。

やっぱりさ、"自分を変える"って大事だよ。いやでもこの場合だと"自分を禊ぐ"ってことなのかも。自分の為に、周りの為に忘れ去るべき黒歴史に気付くことって大事だよ。
あたしは中畑憂理。今すっごく人生の春をを謳歌してるって感じ。今までの冬なんか関係ない、新しく生まれた春。

―――ね、それって、凄く素敵なことでしょ?


20111028 
20111203 ディアミーから喪失シリーズへ移動

Next→あとがき


[prev] [→next]



[目次/MAIN/TOPへ]