『呪いの日』 p2/p2


あたしはね、芽衣みたいに知らないことを理由にして外見に気を使わないなんてしたくないし、あのビッチみたいに馬鹿な醜態なんて晒したくない。よーするにあいつら反面教師みたいな?
でもさ、やっぱ一回でいいから恋してみたいな。
醜態晒すのは嫌だけど、本気で誰かを好きになってみたくはあるの。
そうなった時、あたしの目に世界はどう映るのかなって、興味がないわけじゃないし。
でも恋は盲目って言うから、見境はなくなるのかな――あの屑みたいに。それが怖い。
怖いし、気持ち悪い。あたしから告ってフられるのも怖いし、なりふり構わないで恋するあたしを見る周りの反応も怖いし。少女漫画は所詮少女漫画だよ。

紙の向こうの世界とこっちの世界は違う。
約束されたハッピーエンドが、羨ましいかも。
こっちではどんな糞ビッチだとしても、向こうではヒロインでさえあれば受け入れられるんだよね。でも、男を追い掛けながら結婚を囁くなんて、向こうのヒロインも絶対にしないでしょ。
それ、つまりただの屑じゃん。だからあのビッチは屑なの。屑の風上にも置けないの。


………本当は知ってるよ。これってもはやただの妬みだって、さ。
だけどね、あたしはまだ純粋で居たかったな。
恋は綺麗なものだって信じる、精神はうぶな小学生で居たかったの。
あたし自分で恋したこともないし、人を本気で好きになれるって精神を理解すら出来ないままだ。それなのにあたしは、もうこの年で恋に幻滅した。
もしかしたら最初からだったかもしれないけどね。
きらきらした恋愛って、無知と愚かさの上に成り立つって仮説を導いちゃったんだよ。

硝子細工みたいなもんなんだね、恋って。
一回その幻想が崩れたら、もう二度と戻らないんだね。悲しいなあ。
少女漫画を読んで感動した人の何割が、こうやっていつか幻想を壊されるのかな。綺麗な男女付き合いなんてない、って何割が気付いちゃうのかな。悲しいなあ。それに気付くのが、ババアになってからならいいと思うよ。恋して結婚した後ならいいと思う。

恋する前からそんなんなのって、女子としてどうなんだろ。
可愛げないっつーか女子力なさげなのは確かそうだよね。
つまり可愛くないから、そもそも壇上に上がる資格もないわけだ。
…でもさ、あのビッチはその可愛くなる努力をしなかったのに最初から壇上に居るよね。死ね。
化粧とかファッションとかで可愛くなる努力も、媚を売るっつーか元々の才能には無力ってことなのかなあ。マジ悔しいよ。無自覚なビッチが、恋するには一番いいのかなあ。
そんなんなりたくないけど、でも悔しいよ。あんなやつら死ねばいいのに。


こうやってぐるぐる考えちゃうのが辛い。あたしのせいじゃないのにな。
元はと言えばあの糞野郎のせいだもん。
あいつ自分がどんな公害かしらないで、また、明日も自意識過剰なビンクい糞話を垂れ流すんだ。それでね、あたしの方見て被害者面して言うんだ、「機嫌悪そうだけど、どうしたの」って。
あたし優しいから、てめーのせいだよ糞ビッチ虐められるなりヤられるなりして世界の為にさっさと死ね――なんて言わないけど。マジあたし優しいよね。


ねぇ、もしさ、あたしが馬鹿に生まれてたら幸せだったかな。
雑誌とか少女漫画の綺麗で可愛い世界が本当にある、って信じて疑わないくらいの馬鹿に。
あ、でも今のあたしの意識とか思想のままってのは勘弁。
あたしは、今のあたしが多分誰より大好き。
可愛くなる為の努力を知ってるし、常識も結構あると思うもん。少なくとも芽衣とか中学時代の黒川憂理よりは。言語化しないだけで皆そうなんじゃないかな。自分が一番大好きなのってさ。あの糞ビッチも、多分ね。
でもあたしは、ああいう見苦しいの、大嫌い。
ああいうのは消えるのが世の為人の為だよ。

え、それただの陰口だろ、って? 今更じゃね? あんた馬鹿なの?
もしこの世界が綺麗だったら、恋愛に綺麗さの幻想を求める人は今よりずっと少なくなるよ。そして幻想と知ってその汚さに絶望する人も少なくなるんじゃないかなあ。
でも現実は汚いから、ヤるのヤらないのの駆け引きをしないと男女は付き合えない。
物語に出てくるプラトニック・ラブなんて存在しない。一目惚れなんて有り得ない。愛も恋も美しくなんてない。
そんな汚さに絶望して、後何人が目覚めるかな。
綺麗な言葉を重ねたって、所詮下にあるのは汚い欲だけなんだから。
だからそんな汚さに、あたしは触らない。それが一番、正しいことにすら思えるな。

つまりあれだ、リア充なんざ死んじまえ、なんてね!


20120607


あとがき

根底に流れるのは少女らしい潔癖さ。
純粋な子供時代を悪意で汚された子供が、大人の知識だけを覚えて成長した結果が、きっとこれ。
茶化したとしても、彼女の表情からは悪意が見え隠れする。

因みにタイトルですが、「のろいのひ」ではなく「まじないのひ」です←



[←prev] [next]



[目次/MAIN/TOPへ]