『ミス・レイシスト』 p9/p9




――そしてますますイラスト部には行かなくなり、今に至る。

「…あー成程」
「そうなの。マジで無理なのあれ」
「気晴らしにやろうか?」

悪戯っぽく笑う神崎が、携帯ゲーム機をかちゃかちゃと振った。
「勿論!」と中畑も鞄からゲーム機を取り出す。起動。
装備を整えてから、神崎が開いたオンラインの酒場に向かう。
既に神崎が掲示したクエストを受注し、出発した。

ゼロ――神崎のプレイヤーが、早速討伐対象の火竜に出くわしたらしい。
緑髪の軽戦士――Lilyがそのエリアに入った時、既にゼロはダメージを負っていた。
執拗に喰らったのか、HPゲージのうちの3分の2ほどが既になくなっている。
閃光玉を火竜に投げ、視界を奪うついでに神崎がプレイヤーのHPを回復させる時間を稼ぐ。前転で火竜の足元に潜り込み、爆弾を置いて距離を取り、起爆。

「助かった」
「ん」

黒髪の重戦士が再び前線に来襲し、両手剣とは思えない敏捷さで火竜に切り掛かる。
ゼロに狙いを変えた火竜が背後を晒した瞬間に、緑髪の軽戦士が抜刀し、ざくざくと火竜を切る。いいコンビネーションだ、とふとそんなことを思った。

「で、そっからの『俺と付き合ってくれますよね』だったか」
「そーそー。『素晴らしくエレガントな剣の腕前、この俺のサポートに相応しい』って言われて、嬉しいやつが! 何処に! 居るかっつのッ!」
「………女?」
「多分女。でも、あたし、あんなクリーチャーを、人類とは、認めたくない」
「はは…でも中畑がサポート上手いってのは同意」
「あんがと。だけどあんな糞のサポートとか嫌だし!」

語気を強める中畑。怒りの余りブレスの回数は多くなっている、そこでじゃきんじゃきんと響く快音。もはや画面の中の火竜はただのサンドバッグだ。
ボタンをかちゃかちゃと押しながら、神崎は苦笑している。

「流石に言い過ぎだろ」
「あんたは見てないからね」
「うっわ…」
「……そりゃひくだろうとは思ったけど」

飛んだ所を閃光で撃墜させながら、神崎にぽつりと言う。
思ったより悲しそうな声になってしまった。それきり、無言。
三次元のストレスを二次元のモンスターにぶつける、かちゃかちゃとした操作音だけが中畑と神崎の周囲を彩る。さらにその外側はお喋りや音楽で満ちてはいるが。

柔らかな苦笑の前に一瞬神崎が見せた表情が、酷く中畑の心を刔ったのだ。
哀れむような、蔑むような冷たい光を目に宿した、作り物のような無表情。

(――何であたしがそんな目で見られなきゃいけないのさ!)

これは、男子が女子の悪口大会にひくような、そういう問題なのだろうか。
ネット上のコラムのようなものには何と書いてあったか。
でも、男子もあそこまで不潔そうな不細工は嫌いなはずなのに。
憤懣やる方ない、半ばしこりじみた思いを抱えながら中畑は唇をぎゅっと引き結んだ。

『討伐完了』のテロップが、虚しく頭の中を過ぎ去っていく。
神崎は、じゃあまた、といつものような柔和な表情で去って行った。
じゃーね、と言った表情と振った手は、間違いなくぎこちなかったと思う。


空歌の豚じみた顔立ちと梨羽――瑠依の迷惑そうな顔。
橋本芽衣を無邪気な悪意で侮蔑する松嶋と中畑。
それら全てを哀れむような神崎。


いっそ泣きそうな思いを抱えて、中畑は神崎が来るまでと同じように机に突っ伏した。


20120522



あとがき

正しいことを受け入れたくない時だってあります。
だけど、その拒絶が正しいとは限りませn←
因みに、誰得ですが以下それぞれのHN由来↓

・中畑憂理→ゆうり→yuri→lily
・松島美香→みか→三日月→月→ルナ
・神崎黎→れい→0→ゼロ




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