『ミス・レイシスト』 p8/p9



「……うわ、まじ何こいつ」
「あ?」

モンスターの尻尾を前転で回避。
ナイスあたし――と中畑が思っていると、松嶋が舌打ちした。
見ると、赤毛の重戦士が宙を舞っている。

「空歌ってのがうちを吹っ飛ばしやがったの。さっきからずっとこうだし。マジ何なんだし」
「ふーん…え、空歌の武器何?」
「両手剣だわ。まさかの被り乙なんだけど」

空歌――ゴスロリチックな趣味の悪い装備をした、銀髪の重戦士。
モンスターに切り掛かるでもなく先程からずっとルナ――松嶋のプレイヤーの邪魔をしているらしい。
二人が戯れる間にLily――中畑のプレイヤーは罠を掛けてモンスターを誘い込み、爆弾を置いて起爆させた。ぱりん、という効果音とエフェクト――何処かの部位を破壊したらしい。
罠の効果時間はまだ続くので、ざくざくと片手剣でモンスターを切り付ける。
罠が破壊され、モンスターが飛んだ――乱闘を続けるルナと空歌の方へ。

「松嶋!」
「え」

空歌の一撃をガードしてよろめいた、ルナの方へ、無情にブレスが吐かれる。
ルナのHPがゼロになった。

「何やってんの?」
「知らないよ。うちのせいじゃないし。空歌――あの人のせいっしょ」

松嶋がずいと顎で指したのは、教室の斜め後ろ。
クレーターじみたニキビ跡の目立つ浅黒い肌に、ぶくぶくと太った顔。
整えられずぼうぼうと黒々と生える太い眉毛。豚のように、小さな目。

(ああ、高校見学ん時瑠依ちゃんを引きずり回してたデブか)

そしてついさっき図書室に現れた――と中畑は思考を完結させる。
かつて橋本芽衣が言ったように、イラスト部に入る気なのだろう。
マジないわー、と呪うような小さい呟きに、松嶋がしっかりと頷いた。

「つーか松嶋、あんたちょっと役に立ってよ」
「うちのせいじゃねーっつの」

眠ったモンスターの頭付近に爆弾を置き、起爆。
松嶋のキャラの溜め斬りは、ゴスロリの溜め斬りで阻止された。
結局、止めはゴスロリが持って行ったことになる。
これには松嶋だけでなく中畑もかちんときた。
素材の回収も散々妨害されたし、何より空歌を操作する人間の見た目と雰囲気とその他諸々が気に食わない。気持ち悪い。


20120522


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