『ミス・レイシスト』 p5/p9



幽霊部員でないイラスト部の同級生には、中畑が嫌いとしている人ばかりだ。
とは言っても1人だが。
おそらく文芸部もイラスト部と一緒に活動しているだろう、とアタリをつけた中畑は、文芸部の仲良い同級生にメールを打った。『今何処でやってる?』と。返信は早かった。
瑠依を手招きする。

「ん、こっち。Cの23だ」
「へー…そこが部室なんですか?」
「ううんー、部室はないよ。だからてきとーに空いてる教室探したりさ」
「あー成程ね」

てくてくと活動場所に向かいながら、他愛もない会話をする。

「イラスト部ってどんな雰囲気ですか? どんな先輩が、とか」
「んー、先輩は仲良いよ」

そう答えたが、はぐらかされたように思えたらしい。
一瞬、猜疑の視線が中畑をちらと見上げた。

…確かに、あたしらの1個上の先輩はくっそ仲良いよ。割とパンピ系の話も出来る先輩たちのグループと、典型的な"オタク"な先輩たちのグループで、それぞれね。あたしらの学年はあたしともう1人しか来ないし、あたしが一方的に向こう――橋本さんを嫌ってるけどね。もしかしたら向こうもあたしのこと嫌いかな。そんなことは言わなかった。
割と気に入っている後輩の瑠依が部活に居たら楽しいんじゃないか、そんな気がしたからだ。
入るまでは、仲良いようでぎこちないイラスト部の内情なんて知らなくていい。

がら、とC棟の23番教室の引き戸を開けた。
壁に凭れ掛かってペットボトルのミルクティーを飲んでいるポニーテールの人――松嶋美香が中畑に気付いて声を掛けた。因みに、中畑が先程メールをしたのが彼女だ。

「お、中畑!」
「はろー松嶋。文芸どうなの?」
「いやぁ全く? 新入生ゼロだし? …あ、1年生じゃん! 中畑に変なことされなかった?」
「松嶋、おまふざけんのも大概にしろし」
「きゃー中畑さんマジこわーい! ねぇねぇカルシウム足りてる? 足りてないよね、足りてませんと言えや」
「あ、じゃあミルクティーは残らずもらってくね。あたしにカルシウム足りないならさ」
「やめたげて!? うちの100円が!」

罵倒にも似た軽口はもはや当たり前のことだ。
鳩が豆鉄砲でも食らったかのように瑠依は呆然としていたが、やがてくすくすと笑い始める。それで松嶋は我に返ったらしく、わざとらしい咳払いをして先輩の顔になった。

「えっと、この虫野郎がごめんなさい…見学?」
「あ、はい! 憂理先輩に連れて来てもらったんです」
「松嶋、誰が虫野郎だ誰が」
「あんただよ中畑。そろそろツインテなんて自重したらどう?」
「あぁサーセン、目が節穴なやつには分からないと思うけどこれ所謂ヲタが言うツインテとは違いますから」
「あっれおかしいねー。あ、夕方だから垂れ下がってんのか」
「ふふん残念ながら朝からこうでしたよー、っと!」

きゃいきゃいと"ジョーク"を飛ばし合っているうちに、瑠依の姿は中畑の近くから消えていた。
中畑と松嶋の近くに居ても、喧嘩でもするかのような言動ばかりで見学にならないし、若干怖いらしい。こうなると先輩たちも呆れるばかりで今更中畑や松嶋にどうこう言ったりもしないが。


20120514


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