『アークィラの鼓動』 p3/p5



「まずは前提ってことでさ、こんなんでどーよ」
「いいと思う。いーから早く送ってよ中畑ぁ」

急かすように憂理の肩を揺すぶる。
はいはいわかったわかった、と憂理はあくまで鷹揚に頷きながら、送信の文字に触れた。
送信画面がやたらと長く続く。回線でも重いのだろうか。
それとも気持ちが急いているだけか。
『送信完了しました』の文字が見え、美香は漸く憂理の肩を放した。

「つーか送信時間でこれとか松嶋……」
「え、何その白い目」
「だって木下がいつメール返すか分かんないじゃん。その間ずっと今の生殺し状態かよってことー。あ、因みにあたしの目は黒いので悪しからず」
「大丈夫、日本人で素で黒とか茶色じゃなかったら中々怖いと思うよー……うん、もうやだあいつ早く返信しろし」
「余裕ないねぇリア充爆ぜろ」
「本音は自重しようか」

言葉と同時に空になったスナックのカップで、憂理の頭を小突く。
ツッコミ代わりだ。こん、と無駄にいい音がした。
スナックのカケラがじゃらじゃらとカップの底で跳ねたが無視だ。
溜息と愚痴を吐き出す。

「もう何だろ、カラオケ一緒に行ったのがまずかったんだよねー…」
「……あたしその点は反省してる、マジごめん」
「中畑のせいじゃないよー。カラオケ自体は楽しかったかんね。中畑と神崎で歌ってた…何だっけ、2人で歌ってたやつかっこよかったし!」
「マジで!?あんがと、凄い嬉しいわー。つか松嶋の実力はおかしかったって絶対!あの綺麗さ何なの?ホントに」
「いやいや、」


――――着信音。


一瞬明るくなりかけた雰囲気が、一気に暗くなる。
さっと無表情に近い表情になった憂理はスマートフォンを取り、パスワードを入力してロックを解除した。メールの差出人は勿論、件の人物――木下貴史。
一瞥した後、憂理はスマートフォンを美香に渡そうとして、躊躇う。
スマートフォンを引っ込めかけた憂理の手から、半ば奪い取るようにしてメールを見た。


本文:
どっちもマジだな
これからコクりに行くつもりだったんだが、中畑は美香どこにいるか知ってるか?


20120511


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