『アークィラの鼓動』 p2/p5


「で、あれから音沙汰ないんだ」
「うん、ないし。中畑あいつから何か聞いてる?」
「んふふー…知りたい?」

ふざけているらしい、アニメの猫のような笑い声。
楽しんでいるのか煙に巻いているのか。
当たり前でしょ、と返した声が険を含んでいるのが自分でもよく分かる。

「結論から言うとですね、ビンゴだな。木下のやつ、松嶋のこと好きだってさ」
「うっわ…マジですか」
「残念ながらマジだね。付き合う気はないんでしょ?」
「当たり前じゃん!だってうち真樹とラブラブでしょー」
「……はいはいリア充リア充。因みにその彼氏さんがいなかったら?」
「まさがいなくてもフるね。ダサいし」
「あとそーいやその彼氏さんには何てコクられたのさ」
「えー、秘密ー!」
「もういいや、はいはいリア充リア充」
「また言うー!?」

じゃがいも感を謳いながら、じゃがいもの味を消す勢いで広がる塩と油の味。
ばり、と固いスナックをまた噛んだ。
憂理は苦笑しながらスナックに手を伸ばす。
惚気なら大概にしろ、と悪態をついて笑いながら。

「つーかマジさ、急にリア充なっちゃダメかなとか言ったりタイプ聞いたり露骨なんだよあいつ。マジ何なの?オブラートって知らないの?」
「まぁあたしらの学年では木下かなり馬鹿だから無理ないよね。…つか普通にあたしだったら身の危険感じるわ」
「でしょ!で身の危険感じて周りに言ったら『何で言ったの』とかマジキモいし!」
「うわーヒくわー…あたしもあの場にいたけどさ。改めてね、もうねー」

息巻く美香に相槌を打つ憂理。
これが、最近部活内でよく見られる光景だった。
絵か小説かという違いこそあれど、部誌の製本という作業を同じくするイラスト部と文芸部の距離は近い。作業は互いに手伝ったりするのだ。
また、美香と憂理は橋本芽衣が嫌いという方向で一致する上に共通の友人がいる。
2人が知り合ったのは1年の終わり頃だが、数年来の友人のような付き合いになり、今に至る。愚痴好きで口が悪いという点も同じだ。

「しかもそれから音沙汰ない訳!なのにクラス同じだからって接してくるからマジうざいの、分かる?このうざさ」
「分かる分かる、マジ何なのお前ってなるよね!」
「そうなの!コクるんだったらさっさとやれよ気色悪い、みたいな!」
「あ、じゃあ今言ってみる?万が一上手くいったらここで終わらせよーよ」

憂理の、スナックを摘んだ手とは逆の手には、スマートフォンが握られていた。
悪戯っぽい笑みもオプションでついている。

「じゃあそーして」
「ん。あ、これあと食べていーよ」
「ありがとー…ってもうカケラしかないじゃん!」

スマートフォンのディスプレイを覗き込む。
絆創膏を巻いた指がタッチパネルを踊り、出来上がった文字列はいたくシンプルなものだ。


本文:
木下ってさ、確か松嶋のこと好きなんだよね?
マジでコクんの?


20120511


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