『アークィラの鼓動』 p1/p5


―――俺さ、リア充になろうとしちゃダメなのかな?
別にどうでもいいじゃん。自由じゃね―――
―――好きなタイプとか居るの?
やっぱ優男でしょ。あえて足すなら1つ以上尊敬できる物を持ってる人。つかお前好きな人でもできた?―――
―――好きな人は…居るよ。同じクラス。そろそろコクってみるつもり
そうなの?じゃあその結果は詳しくね―――



「ねー松嶋、カラオケ行かない?」
「あ、行きたい!神崎もどう?」
「予定が合えば行きたいな…って待って、男子1人ってのは勘弁」
「じゃあ誰か男子誘えば?…あ、木下なら全員知ってるっしょ」
「あー、じゃあそうするか。じゃあ誘えたら結果メールするよ」
「日時とかはそれ待った方がいいよね?中畑」
「ん、そーだね」

多分事の発端はあの会話だった。
あの場でああ言い出した憂理に責任がないことは分かっている。
前々から、自分――松嶋美香の方からその内カラオケ行きたいね、と中畑に言っていたのだから。溜息をついた。

文芸部誌の原稿の〆切が過ぎ、印刷もままならない状況。
普通に社交辞令を交えて接してきた男友達の不審な態度。
向こうで1人絵を描いている橋本芽衣の態度。
苛立ちは加速するばかりだ。

モデルより原色の背景と文字が眩しいファッション雑誌から目を離した友人――中畑憂理が問い掛けてきた。天体観測に関する記事のタイトルが何故か目に入った。
夏の大三角が見える時期になったらしい。

「松嶋ー、大丈夫?」
「無理な感じー…先輩また原稿忘れてやがった」
「マジ?そりゃ人としてないよ、だって〆切3日過ぎてるじゃん。しかもあと1週間以内に全部完成でしょ」
「うん…マジないと思う。あ、買い出しだけでも行こうかな…どーせ紙もホチキス針も足りないもん。それもだしもうどーしたらいーの中畑ぁ」
「はいはい、また木下の件か」

ほらよ、と憂理は鞄からスナック菓子のカップを出してべりりと蓋を開けた。
細い指が1本スナックを摘み、ばりばりとかじる。
美香もつられて手を伸ばした。油分と塩分の塊とは分かっているのだが、止まらない。
ダイエットの敵だが、やめられない。ストレスは美容の敵だ。
だが、ただでさえストレスが溜まっているところにお菓子まで我慢するとか無理、という言い訳。


20120511


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