『ミス・レイシスト』 p4/p9
「先輩は何の部活ですか?」
「んー? イラスト部だよ。最近行ってないけど」
「そうなんだー、超意外です」
「意外って何さ意外って!」
「え、ああいうのってオタクが集まる部活じゃないですかー。先輩全然オタクとかに見えない」
「マジ!? 見えない!? あ、この高校割と可愛い癖してキチ…オタク気味なのかなりいるよ」
「キチガイって言いかけました? まぁガリ勉の巣窟じゃなくてよかったー!」
「"自由な校風"ってことかね。あたしらの学年は歌ってみたとか踊ってみた好きな人多くてさ」
「こっちも歌ってみた好き多いです! そうだ、ここ可愛い人多くないですか?」
「多い多い。あたしが女子やめたくなるくらいには多いね、しかも大体女子力高いし」
携帯音楽プレーヤーにイヤホンを繋げ、プレイリストを表示する。
瑠依が興味津々といった体で覗き込んできた。
「これ歌い手誰ですか?」
「リデルだよ。聞いたことある?」
「ないですー。名前は聞いたことあるんだけど…」
「マジ聞いてみようよ、これならちゃんと歌ってるからかっこいいし」
「先輩、扱い酷くないですか?」
ボタンを押す。ヴィジュアル系のサウンドにアレンジされた曲が流れ始めた。
澄んだトーンの男の歌い手―――リデルは、ウィスパーとシャウトを織り交ぜた不安定な歌い方だ。歌ってみたを動画サイトに投稿し始めたのは割と最近らしい。
そのバックに彼がリアレンジしたベースやドラムの叩きつけるようなサウンド。
初めて聴いた(と言っても2,3週間ほど前のことだ)時に凄く感動したのを覚えている。
曲がサビへ入る直前―――
「あのさぁ梨羽、オレと部活回るって言ってただろぉ?」
「…言ってないし」
あのブラクラの声がした。幻聴かと思いたくなる、甲高い声での男口調。
リデルの感動が台なしだ。イヤホンをぶちっと抜く。
というより瑠依があの時の梨羽なのか―――つまり梨羽とは何かのハンドルネームなのだろうか。
見るからに瑠依はいらついた表情をしている。
助けを求めるようにも見える視線がこっちを向いた。
「瑠依ちゃん委員会の仕事終わってないから、先に行ってた方がいいと思うけど。多分まだ掛かるよ」
「はぁ? オレに逆らうのかよ、いい度胸してんな」
「へー。じゃあうっさいから黙っててくんない? ここ図書室だから受験勉強してる先輩いるし」
ばっさりと切り捨てるようにあしらい、これみよがしに脚を組んでみせた。
上履きの赤いラインが分かるはず。分からなかったらただの低能だ。
「うそ、ボク先輩とかぁ怖い…――とにかく梨羽、早く来いよ!」
「……誰がてめぇなんかと行くかっつの」
捨て台詞を残して、その1年は逃げるように去っていった。
ぼそりと毒づいた瑠依が面白くて、不謹慎だと分かっていたが中畑はぷっと噴き出した。
静かに勉強をしていた3年が、乱暴な音を立てて閉まった扉をイライラと睨みつけている。中畑も苛立っているところだ。
いきなり猫撫で声を出し無知を装って中畑の心象をよくしたつもりなのか、…アホかっつの。
「…何なの? 今の人。マジ萎えたんだけど」
「ごめんなさい先輩…中学の知り合いです。高校でも同じクラスになっちゃってずっと付き纏われて…」
「そりゃ大変だね。高校見学の時もお疲れさん、だ。あの人以外同じ中学の居なかったんじゃない?」
「え、何で知って…もしかして案内してくれた先輩ですか?」
「んーまぁね? そんなことはどうでもいいけどさ」
利用人数を記録するための帳簿をカウンターの引き出しから出して、瑠依に渡した。
シャープペンシルは瑠依の方が近いのは分かっているようだ。瑠依はペン立てから1本引き抜き芯を出した。
「これやったら放課後の仕事は終わりだよ」
「マジですか、意外と仕事ないんだ」
「そうだね。つか結局瑠依ちゃんどうすんの?」
「あいつに会わなさそうなルートで部活見学行こうかなって――そうだ、先輩今日部活ありますか?」
「あるよ。…あ、来る?」
「行きます!」
中学時代には考えもしなかった、後輩との交流。
やっぱりいいね、と中畑は小さく笑って帳簿を引き出しに閉まった。
20120307
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