改めましての会計



「おいお前!」
「あ…?……誰?」

喧嘩腰に声をかけられて振り返れば見覚えのない顔。金色の髪。金色…黄色…?なんかたんぽぽみえてえなやつだな。

「お前っ…こないだお前に殴られたんだよ!覚えてねえのかよ!」
「お前の顔なんか覚えてねえ。」

最近はほとんどないけどよく絡まれてたし、絡んでくるやつはだいたい複数人だし、いちいち顔なんか覚えてねえから…。

「お前ほんと…!くそ!」

ぶんっ!

「は?」

げしっ、どさっ

急に殴りかかってこられたから、かわして蹴り返したらあっさり倒れやがった。なんだ雑魚かよ。殴りかかられたし正当防衛正当防衛。

「……なにすんだよ!」

倒れたと思ったら勢いよく顔をあげたたんぽぽ。倒れた、っつーか転んだだけだからたいしたダメージはくらってないっぽい。…ほっぺた擦りむいてるけど。

「…つかさ、お前俺に殴られたんだろ、何しに来たんだよ。」
「俺は…お前に負けたのが悔しくて仕返しにきたんだよ!決まってんだろうが!なのにお前はまた…!」
「また、なに。」
「……くそっ…。」

下を向いて悔しそうな顔をしてるたんぽぽ。……ほんとになにしにきたんだ。仕返しに来たわりにあっさり負けたし。……もう帰ってもいいか。

「あれーまなちゃんじゃん。なになに、またなんか絡まれてんのー?」

「……斎藤?」
「げっ…生徒会…!?」

また後ろから声をかけられて今度は誰だと思いながら振り返ると今度は見覚えのある顔。たしか、保健医は斎藤って呼んでた。……キモいこと思い出しちまった。つかたんぽぽいまなんつった?

「生徒会…?」
「あ?お前知らねえのかよ、こいつ生徒会会計だぞ。」

「はぁ……!?こいつが生徒会?」
「そうだよー、俺生徒会会計なの。そういうの興味なさそうだとは思ってたけど、まさか知られてなかったなんて!」

こいつが生徒会…こんなチャラついてんのに……。

「ていうかまなちゃん、服汚れちゃってんじゃん。寮帰って着替えよ?」
「はぁ…?……ただ砂埃ですこし汚れてるだけだから別に大丈夫。」
「いやでもすぐに洗わないと落ちなくなっちゃうよ。」
「ただの砂埃なんだからはたけば落ちる。」

意味不明な理由をつけて俺を寮に帰らせようとする、というか俺を寮に連れて帰ろうとしている。全く意味がわからないから反論すると言うことを聞かないことに痺れを切らしたのかこっちに近寄ってきた。

「……こないだのこと、言っちゃってもいいの?」
「こないだのこと?」

こないだ……ってまさか、

「ほけんしつ。いいの?」
「……やめろ。」

あんなこと他人に知られたらろくなことにならない。それこそこいつと寮に帰ったほうがマシかと思うくらいには。

「寮に帰るよね?まーなーちゃん。」
「……いくぞ。」







「……おい、どこまで行くんだ。俺の部屋の階過ぎてんぞ。」

俺の部屋は3階、エレベーターは止まらず4階にいく。ちなみに同室者は川上だった。あのとき会った後寮に戻ってからそういえば同室者の名前と同じだったなって気づいた。それからは部屋で会ったときに少し話すようになった、むしろ同じ部屋に住んでてそれまで会わなかったのが不思議だったなと思う。

「まなちゃんもしかして部屋に呼んでくれるつもりだったの?」
「お前の部屋に行くのが嫌なんだ。」
「うーん…うれしいけど、モノは俺の部屋にあるから今日は俺の部屋に来て!」

モノ……?






「どうぞー入って!」
「……お邪魔します。」

会計の部屋に入るとふんわり、あまい匂いがする。香水とか芳香剤とかじゃなくてもっとやさしい…焼き菓子の匂いだ。

「ここ座って!今日ねー、クッキー焼いたからさ、食べてもらおうと思って。」
「クッキー?なんで俺に…。」
「んー、俺たまにお菓子作るんだよね。いつもは生徒会に持っていったりひとりで食べたりするんだけど、たまには違う人にも食べてみてほしいなーって思ったんだよね。」
「へぇ…なんか、ちょっと意外。」
「そうかな?とりあえず食べてよこれ!あ、無理やり連れてきちゃったけど、甘いものは好き?」
「あんまりいっぱいは食べられねえけど…好きといえば好き。」
「そう、よかった、ならどうぞ。」

自分の前にクッキーの乗った皿をすっと差し出す会計。
……普通に美味そう。

「……いただきます。」

ぱく

「………どう?」
「…美味しい。」
「ほんと?」
「美味しい。」
「そう!良かった!」

美味しい。さくさく、というよりしっとりタイプのクッキーで甘すぎなくて美味しい。素直に美味しいと伝えると会計はにこにこ、にこにこするのはいいけどこっちを見るのはやめてほしい。

「……こっち見んな。」
「えーだってまなちゃんが俺の作ったクッキー食べてるんだもん。」
「無理やり連れて来たのはお前だろ。」
「うんうん、無理やり連れて来られたんだよね。ほらいっぱい食べて。」

保健室でのことをチラつかされて無理やり連れて来られたと文句を言うも表情は崩さずさらりと流される。

「ね、次はなに食べたい?」
「次って……もういいんだけど。」
「だってまなちゃん細いからご飯とか食べてるか心配なんだよ。」
「食べてるから心配いらない。」
「……でもまなちゃんがいちばん美味しそうに食べてくれるから。」
「生徒会の人は…。」
「俺がまなちゃんに食べてほしいの!」
「…っ……。」

そういうこと言われると断りにくい……。

「ね、何食べたい?」
「……なんか、スポンジのやつ。」
「スポンジかぁ…パウンドケーキでも作ろうか!しっとりのやつ!」
「ん…。」

楽しみだなあ、と言いながら頬に手を伸ばしてくる。
なんだ……?

すり、___ばしん!

「やめろ。」
「えーさっきまでは幸せそうに俺のお菓子食べてたのに!ちょっとぐらいいいじゃん!」
「うるさい、そういうのするならもうやめだ。そもそもお前は前科があるんだ。」
「ごめんって…もうしないから。」

やっぱり長居するのは良くない。
「今日はもう帰る。」
「え……そう。」

明らかにテンションが下がってて、少し…少しだけ罪悪感がわく。

「美味しかった、ご馳走様。ありがとう。」
「!…うん、また誘いに行くね!」

美味しいクッキーを食べさせてもらったのは事実だから、……礼は大切。

「もう来なくていい。」
「絶対行く!」




***

(まなちゃんに美味しいパウンドケーキ食べさせてあげないと!……小さい口でクッキーをぱくぱく食べるのかわいかったけど…細くて心配なのは事実だから料理も練習してみようかな…。)



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