あなたの知らない世界"この世界の人間ではない"
そう告げると、セブの反応が怖くて思わず俯いてしまう。頭おかしいやつだと思われたら、冗談だと真剣に捉えてもらえなかったら。彼がそんな人間じゃないのは重々承知だけど、それでも不安なのだ。膝の上に置かれた拳に力が込められる。何度も脳内でロープレしていたのに、いざ本人を目の前にして言うとこんなにも違うものなのか。
「First name」
名前を呼ばれ視線を彼の元へ向けると、何か全ての事が繋がったかのような、納得した表情をしていた。頭のいい彼の事だ、やはり何かしら思うとこがあったのかもしれない。
「聞くが、君の世界はどんな所なんだ?」
「え、ああ。この世界の事が本で出版されているの。映画化もされているんだよ。とは言っても、この時代じゃなくて未来の時代がメインなんだけど。」
「そうか、じゃあFirst nameは僕の未来も知ってるんだな。」
「それは、」
言葉に詰まってしまう。彼の最期を思い出すといつまでも泣けてしまう。切なくて、苦しくて、胸が張り裂けそうになる。きっと最期にハリーの瞳にリリーを思い出し、幸せだったのかもしれないけど。けど、彼はもっと幸せになれたはずだ。そう思えて仕方がなかった。どう伝えればいいか迷う私の頬に彼は手を添えた。
「そんな顔するな。録な最期じゃないのは分かっている。」
「そういう訳じゃ、」
「First nameは嘘をつくのが下手だな。変な事聞いて悪かった、今のは忘れてくれ。」
だからいつものように笑ってくれ。そう言われて笑顔を作ってみたけれど、セブは困ったように笑っていたから、きっと上手く笑えてなかったんだろうな。笑顔を作るのは得意だったはずなのに、どうしてだか感情が溢れすぎて出来なかった。思えば彼らに出会ってからわたしは人間らしくなったと思う。こんなに感情に振り回される事なんてなかったのだから。
頬に添えられたままの彼の手の上に、わたしの手を重ねる。ゆっくり深呼吸をして想いを伝える。
「結末は変えられないかもしれないけど、わたしがいる間はセブを絶対に幸せにするから!」
「……」
「……え、わたし何か変な事言った?」
「いや、まるでプロポーズみたいだなと思っただけだ。」
「プロ、!?」
「冗談だ。……まあ、なんだFirst nameと一緒にいるだけで僕は幸せだ。」
まさかそう思ってくれているとは思わなくて、驚いてしまう。何回も彼の言葉を頭の中で反芻し、やっと意味を理解すると、一気に身体中に熱がこもり始める。わたしがやってきた事には意味があったんだと嬉しくなる。セブの方を見ると、照れ隠しのせいかそっぽを向いていた。
「わ、わたしもセブといるだけで幸せ!」
「……そうか。」
「な、なんか暑くなってきたね。」
「そうだな。」
慣れない雰囲気にだんだん恥ずかしくなってきて、無理矢理話題を変えた。慌ててバタービールを飲んだせいか、喉に引っかかり噎せてしまった。「急いで飲むからだ、ばか。」そう言ってセブはわたしの隣に座り背中を擦った。本当私かっこわるい。水が入ったグラスを渡され、今度はゆっくり飲むと大分落ち着いてきた。
「セブありがとう、おかげで落ち着いたよ。」
「気にするな。……話を戻すが、この事を知ってるやつは他にいるのか?」
「うん、ダンブルドア先生は知ってる。」
「そうだろうな、じゃなきゃここに通えてないだろうからな。じゃあ、先生を除くと僕だけか?」
「うん、セブには知っていて欲しかったから。」
「そうか、話してくれてありがとう。でも、何故話そうと思ったんだ?まさか元の世界に戻るのか?」
焦りを滲ませたような表情でセブは私の方を見た。もしかしたら、もし今わたしがいなくなったら寂しいと思ってくれるのだろうか。そうだとしたら嬉しい、なんて思ってしまう。どう話そうかと考えていると、その無言が深刻な状況だと受け取ってしまったようで、益々不安そうな表情になっていった。これじゃあ話しづらくなってしまう、一先ずそうじゃないことだけ伝えておかないと。
「ううん、まだ戻り方は分かってないの。ただ、最近変な夢を見ることが増えてきて、それが何か意味がある気がして。」
「そうか、良かった。いや、良かったは言ってはいけないな。First nameは戻りたいかもしれないのに。」
「わたしがいなくなったら寂しい?」
「当たり前だろう。」
「……!」
「……何だその顔は。」
「またはぐらかされると思ったから。その、そう思ってくれて嬉しい。」
「……本音を言えば、このまま僕の側に居て欲しい。」
真剣な彼の眼差しから目が離れない。わたしだって許される事ならずっとこの世界にいたい。セブとこうして話していたいし、皆と一緒にホグワーツを卒業したい。でも、それはきっと許されないし、わたしがここにきた意味がなくなってしまう、気がする。何かを気付かせる為にこの世界に来たんだ、それは何かは少しずつ分かりかけている。
そんなわたしの気持ちが伝わってるのか否か、セブはわたしの頭を撫でて向かいの席へ戻っていった。
「もし僕に手伝える事があったら何でも言ってくれ。どんな些細な事でもいい、力になりたいんだ。」
「……ありがとう。」
そう言って笑う彼は一番わたしの好きな表情をしていた。こんな嘘みたいな話を信じてくれて、気持ちを汲んでくれて、本当にセブと出会えて良かった。わたしが成長出来たのは、変われたのは彼のおかげでもあるのだ。ちゃんと受け入れないと、これから起こる事も全て目を逸らさず、受け止めなきゃ。例え現実の世界のわたしがどうなっていたとしても。
あなたの知らない世界
(そこにあなたもいてくれたのなら、)
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