2013/05/19 20:38
〜あらすじ〜
身よりのない長谷川は万事屋で女中見習いとして住み込みで働くことになった。
そんな長谷川を万事屋の娘・神楽や女中頭・新八は執拗にいじめ抜くのであった。
長谷川は今日も江戸の空に向かって、別居中の妻の名を呼び、理不尽な処遇に耐えるのであった。
「ああ、最近あたたかくなったから定春君の毛が抜けてお掃除が大変。お洗濯もたくさんあるし、早く済ませないとまた新八君に叱られちゃう」
そう呟いて万事屋の床を掃く長谷川の前に、新八が立った。
「長谷川さん。まだそんな事をしているんですか。本当に愚図なんだから」
「ご、ごめんよ新八君。定春君の毛がはえかわる季節だから大変なんだよ」
そう言った長谷川に、テレビを見ながら定春を撫でていた神楽が尖った声を上げた。
「何アルか!マダオのくせに、定春が部屋をちらかしているとでも言うアルか!」
「べ、別にそういう意味じゃなくて」
「じゃあどういう意味アルか!」
「長谷川さん。自分がポンコツなのを犬のせいにするなんて、侍の風上にもおけませんね」
いつものようにいじめられる長谷川は、浮かぶ涙を隠すように俯いた。
仕方のないこととはいえ、こんなローティーンのガキんちょどもにいびられる日々。でも負けない。俺は負けないよハツ。
「そりゃ定春君だって好きで散らかしてるんじゃないだろうけど、でも、換毛期の犬がいたらどうしたって毛が落ちるじゃないか!」
長谷川は勇気を振り絞って反論した。
ちょうど目線の先に落ちていた毛をつまみ上げ、新八の前に突き出した。
「ほら!いっぱい落ちてんの、定春君の毛だろ!あたたかくなったら抜ける、冬毛だろ!」
「定春は謹み深いタイプアル!おいそれと毛を落としたりなんかしないアル!」
新八は長谷川の指がつまむ、ちょっと縮れた毛を眼鏡を押し上げながらまじまじと観察した。
そして
「フッ」
と鼻で笑った。
「なんだよ!なんで笑うんだよ!」
「…長谷川さん。それが定春の毛に見えるんですか」
「見えるよ。定春君の毛じゃなかったら何なんだよ!」
新八は長谷川の指から毛を抜き取り、いろいろ角度を変えたりして再度観察し、それからまた、フッ、と嘲笑った。
「これは、銀さんの陰毛です」
なんで見分けられるんだ、と長谷川は思ったが、見分けられる理由を説明されても困るので、あえて聞かなかった。
「定春の冬毛と銀さんの陰毛の見分けもつかないようでは、到底万事屋の家事は勤まりませんね」
なんで犬の毛と銀時の陰毛の見分けがつかないと家事ができないのか、全くわからなかったが、できない理由を説明されても困るので、あえて聞かなかった。
そして、なんで銀時の陰毛がこんなにたくさん落ちているのか、全くわからなかったがが、落ちている理由を説明されても困るので、あえて聞かなかった。
あと、そんなもんの見分けがつくのはお前だけだ、と思った。
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