「私も映画好きなんです、虎杖さん」



※高専所属呪術師(25歳くらい)ifです。



映画が好きというのは何とも便利な言い訳だと伏黒は思った。

補助監督と呪術師の寄り集まった酒の席には虎杖もいて、隣に座った補助監督の女と映画の話で盛り上がっていた。
ただ、虎杖と女の隣り合うその席次が『偶然』とは思われないことと、女の意識が映画の話よりも虎杖に向いていることについて、伏黒は他人事ながら少々不快に感じていた。
虎杖にはミズキという恋人がいて、彼女とは伏黒も付き合いが長い。目の前の女に対しては『他人のモンにちょっかいかけんじゃねぇ』、虎杖に対しては『気付け馬鹿』と思うところである。

虎杖は女に、来週公開になる映画の特設サイトをスマホで見せてやっている。
前作からの伏線がどうだとかテーマが愛だとか、その映画が好きなら楽しい話題なのかも知れないけれど、伏黒の目には女が映画の話を楽しんでいるようにはどうも思えなかった。

「このシリーズってニッチっていうかぁ、好きって言う人今まで周りにいなくて!嬉しいですぅ」
「あー分かる!前作観てないと拾えないネタ入ってたりするしな」

『分かる』じゃねぇ無自覚撒き餌やめろ、と伏黒がハイボールのグラスの中へ溜息を注いだ。
女の目が好機を見て光り、彼女は胸の谷間を腕で寄せるようにして虎杖の方へ身体を乗り出した。

「虎杖さん…良かったら一緒に観にいきません?私虎杖さんともっとお話したいです…」

思わせぶりにしっとりとした声色に伏黒がいよいよ不快になったところで、虎杖がスッと女から身体を遠ざけた。彼は「ごめんな!」とからりと笑った。

「俺彼女いんの。だから女の子と2人は行けねーわ」
「わっ私!そんなつもりじゃないですし、全然気にしないですよぉ?」

若干引き攣った顔で、女は丸腰を示すように手のひらを振った。虎杖は笑顔のまま。

「ごめんな、俺が気にすんの。俺の彼女すげー可愛いし優しくてさ、よく俺と付き合ってくれてるよなぁって偶に思うんだよ。だから不誠実なことしたくねーの。あっちが他の男と映画行ったら俺たぶんゴリゴリに嫉妬するし」
「……じゃ、じゃあっ!次!次の飲み会でまた、映画の話しませんか?趣味が合う人なかなかいなくってぇ…」
「やー、悪いよ。俺の趣味に話合わせてもらってもさ、茂部谷さん楽しくないっしょ?」
「そ、そんな、ことは…」

ない、とは言えないらしかった。
完封である。伏黒がIの札を上げた。

そこへ、つい今し方話題に上がっていたミズキが顔を出した。彼女は酒席の全体を見て、1人分空いていた伏黒の隣へ座る。彼女の合流で輝いた虎杖の表情が分かりやすくブスッとした。
伏黒は彼女にドリンクメニューを手渡すと、席を立って上着に腕を通す。

「虎杖、ここ座れ。俺はもう抜ける」
「エッや、悪いって!伏黒、1杯目途中じゃん!」
「そうなの?伏黒くん次頼む?」

ミズキが伏黒にメニューを返そうとするのを断って、伏黒は財布から適当な金額を虎杖に渡した。
伏黒がその場を後にして、店を出る直前、ガヤガヤと雑多な声の飛び交う中から彼女の声が聞こえた。

「え、ミミズ人間5はやだよ」

伏黒は珍しく声を出して笑って、気分良く店を出たのだった。







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