さざんかの夜

※名前ありの子供が出ます。



夜中に帰宅した五条がシャワーを済ませて寝室に近付いた時、中で赤ん坊のぐずる声が聞こえた。そっとドアを開け、ミズキにただいまを言う。

「ごめんね、シャワーうるさかった?」
「ううん。よくあるんです」

ミズキの腕の中で、小さな小さな命はまだむずかっている。様子から見て授乳やオムツは済ませた後のようだった。
泣き止まない理人を抱っこしたままミズキがベッドから立ち上がろうとするのを、五条が止めた。

「抱っこ代わるから寝なよ」
「でも…悟さんお仕事から帰ったばっかりなのに」
「徹夜には慣れてるし、セックスした後じゃなきゃ普通に起きてる時間だし全然平気」
「また、もう」

五条は身を屈めてミズキの目元にキスをした。おやすみを言って小さく柔らかい赤ん坊を受け取り、暗いまま寝室を出る。
いつの間にか理人は泣き止んでいた。

暗いリビングに入って、五条は控えめに子守歌を歌ってやった。それは彼が幼い頃に与えられた歌ではなくて、ミズキが理人を抱いて明るい窓辺で歌っていた優しい歌だった。
歌い終える頃になると理人はすぅすぅと寝息を立てていたけれど、五条の目にはまだ眠りの浅いのが見て取れた。この状態でベビーベッドに戻すとミズキの言っていた『背中スイッチ』とやらが発動するのだろうと想像できる。

「…お前ねぇ、ミズキが寝不足で身体悪くしちゃうでしょ?」

囁くような声で、五条は暇つぶしに喋ってみた。
我が子は聞いているのかいないのか浅く眠っていて、小さな唇が母親を探してむにゃむにゃと動いている。

「ミズキにおっぱいもらって抱っこされて、何を泣くことがあんの。羨ましい男だねお前」

ミズキが聞いてたら叱られるな、と五条は内心で笑った。

「ミズキの子供に生まれるってどんな気分かなぁ。ママ大好き不可避だねぇ…でもお前はミズキとは結婚出来ないからね。ミズキは僕の奥さんだから」

ゆらゆら、ゆらゆら、身体を揺蕩わせながら適当に足を運ぶ。これも、ミズキがやっていた。

五条は、理人を抱くミズキを見る度、泣きそうになる心を自覚する。最愛の人、その人との子供、優しい腕と小さな手、よく似た二対の目がこちらを見て、「ほら理人、お父さんよ」。
自分が父親になるなんて、五条は考えたこともなかった。家や血というのはとかく面倒で煩わしい。ミズキの命を担保するために彼女を無断で孕ませた自分が、家と血を疎ましいものとしか思ってこなかった自分が、身に余る幸せを与えられた。

気付けば理人はすっかり深く寝付いたようで、五条はそっと暗いリビングを後にした。
静かに寝室の扉を開き、ベビーベッドに理人を寝かせる。五条のシャツよりも面積の小さそうな布団をかけてやって、そっと頭を撫でた。
五条はミズキの隣に潜り込んだ。

「おやすみ、愛してるよ」

愛している。心の底から、溢れるほど。



***

ネタポストより『理人くんが赤ちゃんの頃のお話(中略)五条さんと実子の赤ちゃんの絡みを見たい』
オリキャラを受け入れてくださってありがとうございます…!

五条さんに幸せになってほしいなぁ。




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