京都姉妹校交流会 前
※直哉が京都校1年生として交流会に出ます。
※捏造しかない。
※直哉が非常に残念かつ気の毒(自業自得)
※両片想い期
交流会と聞かされた時、ミズキが思い浮かべたのは食事を交えて談笑するような、極めて平和的な交流の様子だった。しかし昨年の内容を聞かされてみればどうも違って、剣道部や柔道部の交流戦を物騒にした感じというのが正しいものであった。
自身が戦闘向きでないミズキは少々不安になった。自分が足を引っ張って東京校の負けを招いてしまったら、同級生にも上級生にも顔向けが出来ない。浮かない顔になったミズキに硝子はすぐに気付いて、大丈夫だと声を掛けてやった。
「私も戦闘向きじゃないから見学だし、気楽に考えてな」
「全員参加じゃないんですね、良かった」
「まぁ全員参加でもミズキのことは五条が出させないって」
「え…悟さんそんな権限あるんですか?」
硝子は吹き出しそうになって口を押さえるのを、煙草に手を添えるふりで誤魔化した。実は両想いのくせに、五条悟の初恋は前途多難である。
交流会当日、ミズキは上級生の指示で京都校の面々を出迎えに向かっていた。失礼の無いようにしなければ、と緊張する心臓を歩きながら鎮めて。
前方に同じ制服の学生達を発見して、声の届くところまで歩み寄ると深く頭を下げた。
「京都校の皆さん、本日はようこそおいで下さいました。東京校1年のソウマミズキと申します。交流会の時間までの控え室にご案内しますので…」
「へぇー君がそやん?」
ミズキの語尾を遮ったのは、男だった。茶髪で肌は色白、鋭い目付き、耳はピアスだらけで少し痛々しい。表面的には笑っているけれど、友好的な空気は一切帯びていない。
ミズキは彼の顔を知っていた。禪院直哉、有名人である。
「きみ、有名やで。かわええお顔だけで五条家に取り入ったはええけど、術式がパッとせぇへんって。今頃五条のオジサンら、阿呆なことしてもうた思てんちゃう?」
元々鋭い目が意地悪く細まって三日月のように弧を描いた。
「ほんで君、ガキンチョの頃甚爾くんにも見合写真送り付けてんねやろ?必死すぎて笑えるわ」
彼の言葉が途切れてミズキが取り乱すのを待つ構えに入ったのを見計らって、ミズキはニッコリと愛想よく笑った。
「待合室まで少し歩きます。途中でお手洗いや自販機もご案内します」
「それではこちらへ」とミズキが歩き出そうとすると直哉がぴくりと目元を引き攣らせ、細い肩を掴んだ。
「何やツンボかいな?雑魚は雑魚らしゅうに吠えたらええねんで」
ミズキは暫くじぃっと彼の目を見た後で、またニッコリと笑って見せた。
「顔を褒めてくださったことでしょうか、それとも術式がパッとしないこと?それは自覚するところです。必死すぎて笑える?本当にそう、貴方とは意見が合うかも知れません。だから私が取り乱すことはありません。それにね、いま仰ったこと全て、初めて言われたとお思いになりますか?」
深窓の令嬢という感じの容姿には似つかわしくない皮肉がつらつらと並べられて、直哉のみならず周りの京都校生達も瞠目していた。
「意外と人を罵り慣れていらっしゃらないのね、ウブなひと」
クスリとミズキが微笑んで見せると直哉は乱暴に手を払い、手近にあった石灯籠を蹴り倒した。
その一連の様子を眺めていた一羽のカラスが、ひと声鳴いて飛び去ったのだった。
「ミズキ」
京都校の面々を控え室に案内する役目を終え、しかし五条達に合流する気分にもなれないで適当に歩いていたミズキに、硝子が後ろから声を掛けた。振り向いたミズキは途端にへにゃりと情けない顔になって、「硝子さぁん」と泣きそうな声を上げた。
「大丈夫?京都校の連中に嫌味言われただろ?」
「大正解ですもうドンピシャ、最低、悔しいぃー…!」
「ヨシヨシ頑張った、偉かったね」
駆けてきて子供のように抱き着いたミズキを、硝子は子供にするようにぽんぽんと優しく撫でてやった。
ミズキはひとしきりグズグズと泣いた後、目元をぎゅっと拭って気丈に笑った。
「硝子さんありがと、もう大丈夫です。それにあんな人、悟さんや夏油さんがきっと負かしてくれますもんね」
「あーそれなんだけどね」
「多分そろそろ」と硝子が言ったところで遠く離れた木々の向こうから轟音が響き渡った。
何事かと目を丸くするミズキの手を取って、硝子はニッと笑った。
「当然見に行くでしょ、最高にスカッとするやつ」
駆け付けた先の景色に、ミズキは息を飲むことになる。