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「旦さん。起きてますか」
部屋の襖越しに声をかけると、生返事が返ってくる。やはり具合でも悪いのか。お里に持たされた握り飯の皿を脇に、そっと中に滑りこんだ。
「今日はあかんで。寒いのはわかるけど」
和助は既に床についていた。善次郎はいった。「添い寝に来たんとちゃいますて。こない忙しい時に悠長にじゃれてられまへん」
「猫飼わへん? わてが世話するし」
「寒天に毛が絡んだらどないしますん」
「お殿さんにはな、蒲団温める役があるんやて。善さん、ちょっとおいで」
「うまいこと云うても、その手には」
握りを見ると和助はたじろいだ。「えっ。お里か。目ざといな。ちょっと食べる量減らして米を次の食事の雑炊に出来んかと思てな――」
それを聞いた善次郎は肩を落とした。
「わて以外は皆心配しとります」
「控えただけでも知られてまうんか。厄介やなあ」
「始末するにしたって、もうちょい頭使わんと」善次郎は蒲団の横で握り飯を差し出した。「絶食しとるんかて誤解されてますで。旦さん倒れたら余分に金かかりますし、食べてください」
「……」
「最近はきちんと握りになりましたな。茶粥はたくさんですわ」
「あんさんが食べ」
「肥らせてもわては食えまへんで。硬いし」
「食べ。て」
「あきまへん。寒天のときとは噺が違いますわ。あれは皆で乗り越えたんやし。今はそこまで貧窮しとるわけやないんで」
和助はムッとして云った。
「云うこときかへんのやったら――」