【寒天問屋】


02



「うちが貧乏なんは、金勘定の駄目な番頭はんが居座っとるからしゃあないて皆存じてますんやで。山城屋はんには大根でお返しを――」

 善次郎は咳払いをした。「お里はん。わての存在価値が金勘定くらいしかないこと、知ってて云うとんだすか」

 お里はにっこり笑った。「存在価値ありますで。旦さんに聞いてください。なんかありましたんかぁて」

 見れば三人共その一言を躊躇って、ぎゅうぎゅう押し合いへし合いしているのだった。

 善次郎はため息で応えた。

「一食抜いたくらいで心配しすぎやで……」
「三食ですがな」
「なに見とったん? あんさんも二食は一緒にとったでしょうが。古女房失格やわ」
「女房は亭主が食事忘れてもいちいち干渉しまへん。今日は忙しゅうて、わても落ち着いて食べられへんかったんや。まあ、腹壊したんやないとすると」

 和助は元来、健啖家である。寒天だけで過ごした幾日後にも、お里の出す質素な食事を文句もつけず食べてはいたが――実際のところ舌は最も乞えている。

 食事が不味いからなどという理由でなければええけど――と、その場は自分が口出しするということで丸く納めたが、善次郎は内心困ったなと思った。
 





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